『中傷に捕われて』【3】

 優貴のホームに、電車が入ってくるアナウンスが流れた。
 その時、微笑みながらその女性の肩を抱きしめ……彼が視線を上げた。
 優貴の顔は、無表情だったが……急にギョッとしたようになり、顔が一瞬で引きつった。
 まるで……浮気現場を見られた男のような態度だった。
 千佳は、唇を引き締め視線を逸らせた。
 何故か諦めに似た感情が湧いた。
 やっぱりね……優貴がこんなわたしを好きになるのが、そもそもおかしかったのよ。一目で目を奪われるような男が、こんな冴えないわたしを彼女にしたのが、大きな間違いだったんだから。
 納得すればいいだけの事、現実を直視してみれば当たり前の事なのに、何故か涙が溢れそうになる。
 いいじゃない! 優貴が誰かと付き合いだしたら、わたしは身を引くって決めてたんだから。
 ただ、その時期がこんなに早く来るなんて……思ってもみなかった。
 せいぜい1年後か2年後……そう思ってたから。
 
 いつの間にか、ホームに電車が入って来ていた。
 アナウンスの声が聞こえない程、自分の中に閉じこもっていた事に気付き、千佳はドアが閉まる前に、素早く乗り込もうとする。
 だが、気が付けば……目の前で電車のドアが閉まった。
 左の肘は、誰かに強く握られてる。
「っ千佳!」
 ビクッとなってすぐ後ろを振り返ると、優貴が肩で息をしながら喘いでいた。
「何度も呼んだのに、何故無視した? 何故俺から逃げるように電車に飛び乗ったんだ?!」
 優貴が何を言ってるのか、全くわからない。
 名前を呼ばれた記憶はないし、無視した覚えもない。優貴から逃げようとして電車に飛び乗ってもいない……何言ってるの?
「言うんだ!」
「そんな、」
 優貴の目が、素早く千佳の全身を眺めた。
「何故髪を切ったんだ?」
 何故切った? それって、優貴に了解を得ないと駄目って事? 
 千佳は、無性にムカムカしてきた。
 お世辞ぐらい言えないの? 以前より、数段綺麗になったな、って。ヤボったかったのが、少しは女らしく見えるようになったと思うのに。
「優貴には関係ない」
「……関係、ないだと?」
 優貴の目が、怒りでギラギラし出したのがわかった。
 千佳は、優貴の怒りがどれほど凄まじいか、よく覚えていた。
 普段から気持ちを押さえつけ、冷静さを保とうとするあまり……一度怒りに火がつくととんでもない事になる!
 千佳は、優貴の腕を振り払うと、走り出した。
 彼から逃げ切れるわけがないって、わかってる……でも、逃げ出さずにはいられない!
 
 息を切らしながら改札を抜け、人込みの隙間を縫うように走った。
「キャ!」
 手首を思い切り掴まれ、肩が抜けるぐらい痛みが走る。
「来い!」
 乱暴にグィと引っ張られ、千佳は喘ぎながら顔を顰めた。
 優貴が怒ってる時に逃げ出すのは逆効果だってわかってたのに……。
 優貴は、駅構内と繋がってるビジネスホテルへ足を早め中に入った。
 嘘……、何処に連れて行こうっていうの?
「ゆ、優貴」
 縋るように震えながら言うが、優貴はギロッと睨み返した。
「公衆の面前でケンカをするつもりか? ……ジッとしてろよ? 従業員の前で暴れて、恥をかくのは千佳なんだからな」
 優貴はフロントで部屋を取ると、ボーイの案内を蹴ってエレベーターに乗り込んだ。
 
 
 部屋に入るなり、大きなダブルベットが目に飛び込んできた。
「ゆ、優貴、あの」
 振り返ると、優貴はネクタイを緩めて放り投げ、ボタンをどんどん外していく。
 逞しい胸板が目に入り、千佳は思わず喘いだ。
 優貴に触れられたらどうなるか、この躰はもうわかってる。
 ゴクリと唾を飲み込み、千佳は視線を上げた。
「優貴、お願い……まず、」
「駄目だ!」
 恐怖に満ちた目を大きく開けると、優貴の手が伸びてきた。
「やだ、優貴! こんなので、っあ」
 躰がビクンと震えた。
 薄い服越しに、優貴の手が触れてきたからだ。
 優貴は、その気の緩みを見逃さず、千佳の肩を押してベッドに倒した。
 柔らかなスプリングが躰を跳ねさせる。
 やだ、こんな怒りに駆られて抱かれるなんて……最初の時で十分よ!
 躰を捻って逃れようとすると、優貴の大きな躰が覆い被さり動きを防いだ。
「優貴、いや! こんなのいやよ」
 激しく上下する胸が、優貴の胸板に触れる。
 その事だけで、小さな乳房が張り詰めた。
「……俺から逃れられると思うなよ」
 言うなり、激しく唇を奪われた。
 しかし、唇を愛撫する舌は優しく動き、思わず唇を開ける。
 その隙間を狙って、優貴の熱い舌が入り込んできた。
 自らの舌で押しやろうとした。
 だが、それはいつの間にか柔らかい舌を絡ませる結果となった。
「っんん」
 躰が奮える。優貴に触れて欲しい!
 千佳は、手を伸ばして優貴の背中に手を回すと、上下に愛撫した。
 優貴の躰がビクッと奮える。
 思わず、優貴の張り詰めたモノに躰を擦りつけた。
「くっ……、この、魔女め!」
 優貴の手が素早くスカートを引き上げると、パンティを下ろした。
 千佳は、ねだるように膝を立たせたが、優貴の手は伸びてこない。
 代わりにブラウスのボタンを外して脱がせると、フロントホックのブラを外した。
 何て……真っ平らな乳房。
  乳首だけがツンと尖り、その姿はまるで少女のようだ。
 何度見ても、この躰が優貴を引き止めてるようには思えない。でも、この躰は女としての悦びを知ってる……それも優貴の手によって発掘しつくされたこの躰だ。
 潤んだ目で見上げると、優貴の目と合った。
「千佳……綺麗だ」
 綺麗? ……このわたしが?
 優貴は顔を首に埋めて、舌を這わした。
 だんだん下へと下がり、乳首を口に含む。
「っぁ…」
 その衝撃が、躰中に走る。
 優貴……わたし、やっぱりあなたが好き。
 優貴は、小さな乳房を掌で愛撫し、その手がどんどん下がる。
 待ち焦がれた……場所に触れられた時、優貴の頭をかき抱いた。
 優貴は乳首からどんどん下へ下がり、お臍に舌を入れた。
「あっ!」
 思わず下腹部に力が入った。
 優貴に触れられなくなった千佳は、縋るものを探し、シーツをしっかり掴んだ。
 優貴がさらに唇を下に移動させようとした。
「あっ、嫌…やめて、優貴!」
 やだ、やめて。だって、わたし……お風呂にさえ入ってない!
 優貴の顔がさらに下がる……そう感じた時、思惑とは裏腹に一気に上体を起こすと、その勢いのまま挿入した。
「ぁうう!」
 躰を弓なりにして、その大きなモノを圧迫させながら進入を許した。
「千佳!」
 ビクッとなって、視線を上げると、優貴は鋭い目つきで見下ろしている。
 ゆっくり腰を上下に動かす為、お腹から胸に至る筋肉が……美しいと言っていいほど波打っていた。
「俺から、逃げるな……逃げようとするのは許さない」
 独占欲丸出しの優貴の感情が、激流のように流れ込んできた。
「っあん」
 奥深く入り込んだその瞬間、ピリッと電流が芯に響いた。
 優貴は、どんどん激しく動き……微妙にリズムを崩す。
 その焦れったさが千佳の感覚を狂わせた。
「ゆう、きっ! っあ、だ、ダメ…ぁ、ぁんっ!」
 あぁ、ダメ、もうぅ……わたしっ!
「っあああ!」
 思い切り背を反った時、躰が宙に浮いたような気なる。
 優貴は腰を強く引き寄せ、そんな千佳と躰を密着させる。
 お腹に温かい優貴の体温を感じながら、さらにもっと高い場所へと舞い上がった。

2003/08/12
  

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