優貴のホームに、電車が入ってくるアナウンスが流れた。
その時、微笑みながらその女性の肩を抱きしめ……彼が視線を上げた。
優貴の顔は、無表情だったが……急にギョッとしたようになり、顔が一瞬で引きつった。
まるで……浮気現場を見られた男のような態度だった。
千佳は、唇を引き締め視線を逸らせた。
何故か諦めに似た感情が湧いた。
やっぱりね……優貴がこんなわたしを好きになるのが、そもそもおかしかったのよ。一目で目を奪われるような男が、こんな冴えないわたしを彼女にしたのが、大きな間違いだったんだから。
納得すればいいだけの事、現実を直視してみれば当たり前の事なのに、何故か涙が溢れそうになる。
いいじゃない! 優貴が誰かと付き合いだしたら、わたしは身を引くって決めてたんだから。
ただ、その時期がこんなに早く来るなんて……思ってもみなかった。
せいぜい1年後か2年後……そう思ってたから。
いつの間にか、ホームに電車が入って来ていた。
アナウンスの声が聞こえない程、自分の中に閉じこもっていた事に気付き、千佳はドアが閉まる前に、素早く乗り込もうとする。
だが、気が付けば……目の前で電車のドアが閉まった。
左の肘は、誰かに強く握られてる。
「っ千佳!」
ビクッとなってすぐ後ろを振り返ると、優貴が肩で息をしながら喘いでいた。
「何度も呼んだのに、何故無視した? 何故俺から逃げるように電車に飛び乗ったんだ?!」
優貴が何を言ってるのか、全くわからない。
名前を呼ばれた記憶はないし、無視した覚えもない。優貴から逃げようとして電車に飛び乗ってもいない……何言ってるの?
「言うんだ!」
「そんな、」
優貴の目が、素早く千佳の全身を眺めた。
「何故髪を切ったんだ?」
何故切った? それって、優貴に了解を得ないと駄目って事?
千佳は、無性にムカムカしてきた。
お世辞ぐらい言えないの? 以前より、数段綺麗になったな、って。ヤボったかったのが、少しは女らしく見えるようになったと思うのに。
「優貴には関係ない」
「……関係、ないだと?」
優貴の目が、怒りでギラギラし出したのがわかった。
千佳は、優貴の怒りがどれほど凄まじいか、よく覚えていた。
普段から気持ちを押さえつけ、冷静さを保とうとするあまり……一度怒りに火がつくととんでもない事になる!
千佳は、優貴の腕を振り払うと、走り出した。
彼から逃げ切れるわけがないって、わかってる……でも、逃げ出さずにはいられない!
息を切らしながら改札を抜け、人込みの隙間を縫うように走った。
「キャ!」
手首を思い切り掴まれ、肩が抜けるぐらい痛みが走る。
「来い!」
乱暴にグィと引っ張られ、千佳は喘ぎながら顔を顰めた。
優貴が怒ってる時に逃げ出すのは逆効果だってわかってたのに……。
優貴は、駅構内と繋がってるビジネスホテルへ足を早め中に入った。
嘘……、何処に連れて行こうっていうの?
「ゆ、優貴」
縋るように震えながら言うが、優貴はギロッと睨み返した。
「公衆の面前でケンカをするつもりか? ……ジッとしてろよ? 従業員の前で暴れて、恥をかくのは千佳なんだからな」
優貴はフロントで部屋を取ると、ボーイの案内を蹴ってエレベーターに乗り込んだ。
部屋に入るなり、大きなダブルベットが目に飛び込んできた。
「ゆ、優貴、あの」
振り返ると、優貴はネクタイを緩めて放り投げ、ボタンをどんどん外していく。
逞しい胸板が目に入り、千佳は思わず喘いだ。
優貴に触れられたらどうなるか、この躰はもうわかってる。
ゴクリと唾を飲み込み、千佳は視線を上げた。
「優貴、お願い……まず、」
「駄目だ!」
恐怖に満ちた目を大きく開けると、優貴の手が伸びてきた。
「やだ、優貴! こんなので、っあ」
躰がビクンと震えた。
薄い服越しに、優貴の手が触れてきたからだ。
優貴は、その気の緩みを見逃さず、千佳の肩を押してベッドに倒した。
柔らかなスプリングが躰を跳ねさせる。
やだ、こんな怒りに駆られて抱かれるなんて……最初の時で十分よ!
躰を捻って逃れようとすると、優貴の大きな躰が覆い被さり動きを防いだ。
「優貴、いや! こんなのいやよ」
激しく上下する胸が、優貴の胸板に触れる。
その事だけで、小さな乳房が張り詰めた。
「……俺から逃れられると思うなよ」
言うなり、激しく唇を奪われた。
しかし、唇を愛撫する舌は優しく動き、思わず唇を開ける。
その隙間を狙って、優貴の熱い舌が入り込んできた。
自らの舌で押しやろうとした。
だが、それはいつの間にか柔らかい舌を絡ませる結果となった。
「っんん」
躰が奮える。優貴に触れて欲しい!
千佳は、手を伸ばして優貴の背中に手を回すと、上下に愛撫した。
優貴の躰がビクッと奮える。
思わず、優貴の張り詰めたモノに躰を擦りつけた。
「くっ……、この、魔女め!」
優貴の手が素早くスカートを引き上げると、パンティを下ろした。
千佳は、ねだるように膝を立たせたが、優貴の手は伸びてこない。
代わりにブラウスのボタンを外して脱がせると、フロントホックのブラを外した。
何て……真っ平らな乳房。
乳首だけがツンと尖り、その姿はまるで少女のようだ。
何度見ても、この躰が優貴を引き止めてるようには思えない。でも、この躰は女としての悦びを知ってる……それも優貴の手によって発掘しつくされたこの躰だ。
潤んだ目で見上げると、優貴の目と合った。
「千佳……綺麗だ」
綺麗? ……このわたしが?
優貴は顔を首に埋めて、舌を這わした。
だんだん下へと下がり、乳首を口に含む。
「っぁ…」
その衝撃が、躰中に走る。
優貴……わたし、やっぱりあなたが好き。
優貴は、小さな乳房を掌で愛撫し、その手がどんどん下がる。
待ち焦がれた……場所に触れられた時、優貴の頭をかき抱いた。
優貴は乳首からどんどん下へ下がり、お臍に舌を入れた。
「あっ!」
思わず下腹部に力が入った。
優貴に触れられなくなった千佳は、縋るものを探し、シーツをしっかり掴んだ。
優貴がさらに唇を下に移動させようとした。
「あっ、嫌…やめて、優貴!」
やだ、やめて。だって、わたし……お風呂にさえ入ってない!
優貴の顔がさらに下がる……そう感じた時、思惑とは裏腹に一気に上体を起こすと、その勢いのまま挿入した。
「ぁうう!」
躰を弓なりにして、その大きなモノを圧迫させながら進入を許した。
「千佳!」
ビクッとなって、視線を上げると、優貴は鋭い目つきで見下ろしている。
ゆっくり腰を上下に動かす為、お腹から胸に至る筋肉が……美しいと言っていいほど波打っていた。
「俺から、逃げるな……逃げようとするのは許さない」
独占欲丸出しの優貴の感情が、激流のように流れ込んできた。
「っあん」
奥深く入り込んだその瞬間、ピリッと電流が芯に響いた。
優貴は、どんどん激しく動き……微妙にリズムを崩す。
その焦れったさが千佳の感覚を狂わせた。
「ゆう、きっ! っあ、だ、ダメ…ぁ、ぁんっ!」
あぁ、ダメ、もうぅ……わたしっ!
「っあああ!」
思い切り背を反った時、躰が宙に浮いたような気なる。
優貴は腰を強く引き寄せ、そんな千佳と躰を密着させる。
お腹に温かい優貴の体温を感じながら、さらにもっと高い場所へと舞い上がった。