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Summer vacation 4
二人だけの密室の部屋に入ると、寛は彰子の隣に座った。
彰子は隣に座った寛を意識しながら、光の洪水の夜景をしばらくうっとり眺めた。
あと少しで頂上に到達するという直前、 彰子はゆっくり口を開いた。
「ねっ、綺麗でしょう。……よし、告白しようかな」
「何? 告白って」
寛が眉間を寄せ、あたしの手をきつく握る。
そんなに心配しなくてもいいのに。わたしの言葉って、そんなに心配する必要があるの?
思わず眉間に指をあてて、その皺を拭い去ってあげたい…という気分が沸き起こる。
その気持ちが、お腹をカァーと熱くさせる。
手を押し止める為、彰子は寛の肩に頭を乗せた。
「あたしね、いつか彼が出来たら、夜の観覧車に行きたいなって思ってたの。一緒に乗って夜景を見たいなって」
頭を起すと、寛の目を覗き込んだ。
「まさか、寛と行けるなんて思っても見なかった。ほら、ずっと寛に片思いしてたから……だから、あたしを観覧車に連れて行ってくれる人は誰なんだろうって思ってて」
寛は、彰子の額に額を引っつけた。
「一つ、お前の夢が叶ったって事?」
「うん」
彰子は嬉しそうに唇の端を上げる。
「じゃぁ……これは?」
そう言うと、寛は彰子の背中に手を回すと思い切り抱きしめ、唇を奪った。
顔を斜めにして、柔らかい唇を巧みに挟み舌で愛撫する。
寛のその突然のキスにビックリし、息が出来なかった。
鼻で息をするなんてとんでもない。そんな余裕は一切なかったのだ。呻き声を上げながら空気を求めて口を開いた瞬間、寛の舌が遠慮なく滑り込む。
く、苦しい!
その思いが伝わったのか、寛がゆっくりキスを止めた。
彰子は激しく肩で息をしながら、寛の情熱のこもった瞳を見返した。
「……どうして?」
「頂上に着た時、お前にキスしたかった」
「えっ?!」
彰子は外を見ると、いつの間にか下に向かって降りていた。
という事は、あたしが企んだ頂上でのキスは出来なかったって事? あたしが計画していたキスは、寛に奪われてしまったって事なの?
「お前が、観覧車に乗ろうと言ってくれなかったら、俺から言い出すつもりだった。何で、俺がわざわざ観覧車のあるベイエリアまで、彰子を連れてきたと思うんだ?」
それは、デートスポットだからかなと…。
「俺だってジンクスぐらい知ってる。だからこそ、お前の部屋でデートしようと言った時、観覧車があるこの場所に行こうと思った。俺たちの気持ちが離れないようにと」
うそ…、あの時から考えていたの? あたしよりも先に?
「でも、寛の方が変な言い方ばかりしてたよ? あたしが、別れたがってるみたいな言い方もしたし」
「ごめん。かなり否定的な考えだったよ。でも、それだけ彰子を想ってるんだ」
確かにそうかも。
あたしを想ってくれてなかったら、こうして画策するワケはないし、ジンクスに頼ろうとする筈もない。
あぁ……あたしたち、やっぱり互いを想い合ってるよ!
「あたしも…頂上で寛にキスしたかったの。ジンクスを手に入れたかった」
そう言うと、素早く寛の唇にキスをした。
「好きだよ、寛」
「彰子」
感極まったかのように、寛は彰子を強く抱きしめた。
そこには、紛れもない愛情が含まれていた。
彰子は、負けないように強く抱きしめた。
寛……、寛!
今、お互いの想いは再び一つに溶け合った。でも、心は溶け合ってるけど、躰はまだ溶け合っていない。あぁ、寛と早く結びつきたい。
躰の奥深くが、すぐにでも溶け合おうと、熱いうねりが作られる。
心臓がドキドキと激しく高鳴るのを感じながらも、彰子はうっとりしながら寛に縋りついていた。
――― ガタッ。
ガタッ?
閉じていた目を一瞬で開けると、ドアが開いていて、管理者が申し分けなさそうな表情をしていた。
「着きましたが……」
そして、やっと観覧車が一周終わったのだとわかった。
彰子は、寛を押しやり顔を真っ赤にさせた。
「すみません、すぐに降ります!」
逃げるように飛び降りると、寛の服を引っ張って、後ろでクスクス笑うカップルや興味津々の小中学生の間を縫うように、素早く歩いた。
「待てよ。別に恥ずかしがる必要ないじゃないか」
寛は、少しふて腐れたように言う。
「恥ずかしいよ! だって、ドアが開けられるまで二人の世界に入ってたんだよ? ずっと見られてたんだよ? あぁ、恥ずかしい」
でも、恥ずかしいと思う反面、何故か笑いたくなってきた。
それほど夢中になって、寛を求めてたって事だから。
それに、あのプールの更衣室での行為とダブった。
あたしたちって、本当に不運だというか……場所を考えてないっていうのか。
その事を思い出しながら、寛に言おうと笑いを堪えながら面を上げる。
すると、寛は百面相を繰り広げる彰子を愛しそうに眺めていた。
「準備出来てる? ……俺に抱かれる準備」
ドキンと大きな心臓な音が、耳にも届いた。
彰子は、情熱で潤む目で寛を見つめていた。
彰子は一歩近寄ると、寛の胸元のTシャツを握り締めた。
「出来てる。出来てるよ、あたし」
感情を吐露するように、甘く囁きながらそう応えると、また奥深いところで熱いうねりが生まれた。
濡れてるのかな、あたし。
その躰の変化にドギマギしながら、彰子は寛と視線を合わせた。
「……ホテルへ行こう」
彰子は、照れながら頷いた。
寛に腰を抱かれ、彰子も抱き返す。
その触れ合いが、躰をもっと敏感にさせた。
……あたしの躰、やっぱりえっちぽくなったのかな? だって、あたしの躰がこんなにも反応してる。だって、あたし濡れてるもの。
どうしよう。パンティを脱いだ瞬間、これを寛に知られてしまう。嫌だ、そんなの絶対イヤ、恥ずかしいよ。
「ねぇ、化粧室に行ってもいい?」
寛が片眉を上げる。
「ホテルまで我慢出来ない?」
「うん」
……っていうか、用を足すワケじゃないんだけど。
「わかった。ほらあそこにある」
彰子は、ホッと感謝の笑みを向け、化粧室に向かった。
えっ?
……うそぉ……マジ?!
化粧室に入って、彰子は茫然としてしまった。
思わず自分のバカさ加減に笑いが込み上げてくる。
寛に反応して、感じて……それで濡れてると思ったのに、まさかコレだったなんて!
もちろん、予定日が近い事もわかってた。それに、それらしき予兆があったのも確かだ。乳房が張って痛かった事や、夕方下腹部に妙な違和感を感じた事がそうだった。
だけど、まさか1週間も早くなるとは、思ってもみなかったよ。
あぁ……寛に何て言おう? もちろん、生理中にえっちなんて出来ないし。という事は……やっぱり?
寛、何て言うだろう? はぁ、とりあえず寛に言わなければ。
彰子は思いがけないこの現象に、少し落胆してしまった。
なぜなら、彰子も寛に抱かれたかったからだ。
長いため息をつきながら個室から出ると、寛の元へ向かった。
「ホテル行けなくなっちゃった」
残念そうに、でも頬をピクピク震わせて笑いを堪えながら寛に告げる。
「何で? 俺に触れられたくなくなった?」
ま、まさか! そんな事あるワケないよ。
「違うよ。あのね……生理がきちゃった」
思わず声を顰めて囁き、そして寛の反応を伺った。
すると、寛は口をポカンと開けて、茫然と彰子を見つめていた。
ははっ、その気持ちわかるよ。あたしだってそうだったんだから。
「ごめんね」
「あ……、うん、そっか生理か。それなら仕方ないよな」
寛が突然顔を赤くして、照れ笑いをする。
何故照れるんだろう?
寛の心理がわからず、首を傾げながら寛を見つめた。
「1週間は、無理、だな」
「まぁ、そういう事」
彰子も残念そうに微笑む。
「よし! 9月に入ったら、ホテルへ行こう。俺が予約しておくから……そうだな、土曜日にしよう。土曜だと、学校は大丈夫だろ?」
「うん」
まぁ、確かに土曜日のお泊りだったら、翌日の事を心配しなくて大丈夫だけど、でも予約って……まさか。
「予約ってラブホじゃないの?」
寛は、にっこり笑った。
「まぁ、楽しみに待ってて。俺もその日まで欲望を抑えるし、楽しみに待つ事にするから」
寛は、言葉どおり欲望を抑え込もうとしている。
その努力する姿が微笑ましく思うのは、あたしだけだろうか?
「ホテル行きはなくなったワケだから、それなら楽しく遊ぼうぜ」
寛は、彰子の腕を取り…歩き始めた。
う〜ん、ごめんね、寛。
あたしだって、本当に寛に抱かれたかったんだよ? その気持ちがどれだけ強いのか……これから毎日示していくから、覚悟していてよね。
「ん? どうかしたか?」
寛の顔を見つめ続けていた彰子に、寛が問いかけた。
「ううん、いっぱい楽しもうと思って」
微笑み、そして寛の傍らにしっかり寄り添った。
いろんな事が、起こったけど……あたしはやっぱり寛が好きだよ。その気持ちは、色褪せる事はないだろう。
あたしに、その事を強く実感させた夏休みは、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。