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Summer vacation 4
嫌な事があったけど、やっぱりあたしは寛と離れられない。
心臓をドキドキさせながら、彰子は早めに外に出た。
寛は、まだ出ていない。
彰子は、塀に凭れながら自分の姿を見下ろした。
いつもにも増して、胸が大きく見える。
それもその筈、バストアップ・ブラをつけてるからだ。乳房をグッと寄せて、いつもより谷間を深く作る。
なんだろう……あたしもえっちな気分になってくる。
息苦しくなり、長い吐息をついた。
「彰子! 外にいたのか? それならチャイムを押せば良かったのに」
寛が慌てて外に出てきた。
が、寛のその言葉……まさしく1週間前にあたしが言った言葉と同じだったので、思わず笑ってしまった。
「何だよ。俺変な事行ったか?」
「ううん、大丈夫」
安心させるように見つめるが、寛の目はあたしの全身を眺めていた。
下半身を見て、ちょっと顔を顰めてる。
やっぱりデートでジーパンはダメだったかなぁ。でも、寛からは今夜えっちするって宣言されてるワケで……いかにもOK! みたいない格好は出来ないよ。もちろん、抱かれる覚悟は出来てるけど。
寛の視線が、足元からだんだん上にあがり…そして胸元で視線を止めた。その瞬間、寛の目は大きく見開かれ輝き出した。
思わず顔を赤らめてしまう。
やっぱり、いつもより大きく見えるのかな。
「彰子、さぁ行こう」
目元を和ませて笑いかけてきた。
あたしは安堵しながら、応えるように微笑み、寛の腕に手を絡ませた。
さぁ、夜のデートの始まりだ。そして、今夜……とうとう1ヶ月ぶりに寛と!
ノースリーブのレースのブラウス姿は、女らしさを微妙に表わしていた。
お臍もチラリと見え、モデルのような彰子に、男たちの視線が群がる。
それを遮るように、寛は我が物顔に肩を抱きしめた。
「何食べたい?」
「何でもいいよ」
というか、あまりお腹は空いてない……既に21時前だというのに。
やはり1週間のすれ違いが、尾を引いてるのだろうか? いつもと変わりはない筈なのに、妙に緊張するというか……胸がバクバクするというか。
なんだか、京都に会いに行った時のような気持ちと、同じような気がする。
何だろう、この気持ち。
視線を上げて寛の横顔を見ようと思ったら、寛の方が先にあたしを見ていた。
「何考えてたんだ?」
「えっ?」
「眉間を寄せて、何か考え込んでいた。……やっぱり、俺が言った言葉を思い出してしまうのか?」
ま、まさか! 今なら、寛が怒りに駆られて言ってしまったってわかってるもの。だからそんな事はない! ただ…。
「……何て言ったらわからないの。 何だか……二人の間に距離があるような気がして」
一瞬、寛の手が肩にきつく食い込んだ。
しかし、寛の口から出た言葉は、意外にも態度とは正反対の冷静な声だった。
「それは仕方ないと思う。現に、俺らには距離が出来てた。お前が木嶋と一緒にいるのを見て、俺は無性に腹を立てたし、彰子も俺が木嶋を殴って……そしてあんな言葉を投げつけてしまった事で、田舎に行っていた。だから、距離があると感じても、それは仕方ないんじゃないか?」
確かにそうだけど……。
彰子は、唇を噛み締めた。
「距離が出来れば、縮める努力をすればいい。1年前、俺はその努力をしなかった……、1年後、その努力をしたのは彰子だ。だから、今回は俺が努力をする番だと思ってる。どう考えたって、彰子を手放せるわけがないんだからな」
自嘲……というのだろうか? 何だか悲しそうにも見えるその姿を見て、思わず寛に抱きつきたくなった。
あたしだって、寛と別れるなんて考えられないよ! と、大声で叫びたい。
それをする代わりに、寛の引き締まった腰に腕を回した。
「どっちが努力するとか関係ないよ。今みたいに、お互い想い合っていたら、それがベストだと思う」
寛の手は、あたしの肩から二の腕へと滑り、感謝を示すように軽く愛撫を繰り返した。
「ありがとう、彰子」
「本当にココでいいのか?」
「うん」
安心させるように、ニッコリ笑った。
明るい店内に、二人は隣同士にすわって……回転するお寿司を見ていた。
そう、まさしく100円均一の回転寿司だ。
「デートなのに…」
ふて腐れたように言う寛を見て、あたしは笑った。
「あたしは、デートだからってそんなに気を使って欲しくないよ。もちろん、豪華な食事へ連れて行って欲しいと思うけど、そういうのは何かの大事な時にして欲しい。その方が、思い出に残るから」
「今日だって、十分大事な日だと思うけど?」
彰子は、そう思っていないのか? と問いかけるように、寛は眉間を寄せる。
「そうだけど…でも、ほら、こうやって寛が言った事はいい思い出になるでしょう?」
突然寛は視線を逸らし、回転するお寿司を見つめた。
「思い出思い出って……今日が最後みたいな言い方するんだな」
その言葉にびっくりした。
どうしてそこまで悲観的に見るんだろう?
だが、寛の方があたしより、アノ出来事にこだわっているからだというのがわかった。あたしは、寛がどんな想いで口に出してしまったか、ちゃんとわかってる。だから、もう気になんかしてないのに。
……寛は後悔してるんだ。あたしが許してると知っても、なおその事に罪悪感を感じてるんだ。
彰子は、カウンターで指を組んでる寛の手に触れた。
「最後だなんて思ってないよ。明日、明後日…1ヶ月後、半年後…になった時、寛とあの時は楽しかったねって話したいだけだよ」
安心して欲しかった。過去を振り返らず、未来を見て欲しかった。
これからのあたしたちの事を、考えて欲しい!
「わかってる、わかってるけど…」
「自分を責めないで」
わかってるのだろうか? 寛が自分を責める事で、あたしも自分の罪を感じるという事が。
「寛一人だけが悪いんじゃないでしょう? あたしだって悪かったんだから。いつまでもこの事に縛られてたら、あたしたち……ダメになっちゃうよ。それでもいいの?」
寛が掌を返し、あたしの手を強く握った。
「嫌だ」
思わず安堵からため息が零れそうだったが、お腹に力を入れて我慢した。
「それなら、楽しくデートしよう!」
あたしは、にっこり笑った。
「あのね、寛は回転寿司か? って言ったけど……今ブームなんだよ?」
冷房の効きすぎで寒かったので、うどんを頼んだ彰子は、食べながら言った。
「ブーム…ねぇ〜」
不思議そうに言う寛の隣で、嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇ、あたし寛と観覧車に乗りたい」
食事を終えて外に出た時、ライトアップされた観覧車を見て言った。
「いいよ。行こう」
彰子は寛の腕に手を絡ませ、微笑んだ。
寛……知ってるんだろうか? 観覧車がちょうと頂上に差しかかった時、カップル同士がキスをすると、幸せになれるというジンクスを。
今の二人には、このジンクスが必要な気がする。
もちろん、あたしは寛を愛してるし、寛もあたしを大切に想ってくれている。それはわかってるけど……どうしてもそのジンクスにあやかりたいとも思う。
やっぱり、あたしも普通の女子高生って事なのかな。
暗闇に浮かび上がる観覧車は、なんてムードがあるんだろう。
その為、カップルの長蛇の列が出来ていた。
もちろん、中学生か小学生の子供たちもいるが、やはりカップルに目移りする。
彼女たちも、ジンクスを試すんだろうか?
「多いんだな。夜の観覧車って」
「乗った事ないの? その〜、観覧車」
寛が、章子に顔を向ける。
「ないよ。もし、お前の言ってる意味が、他の女と? という意味ならな」
べ、別にそういう意味で聞いたんじゃないけど……でも、そっか。寛は二宮さんとはジンクスを試していないんだ。
表情がどんどん緩むのが止められない。
「何だよ、ニヤニヤして」
「ううん、嬉しいなって思って」
「言っとくが、奈緒子とは乗った事あるぞ。子供の頃だけど」
うんうん、奈緒ちゃんなら問題ないよ。
あたしは縋るように、寛の大きな手に自分の手を滑り込ませた。
お願いだから、頂上についたらキスさせてね。