4万HIT記念企画♪
Summer vacation 3
「……木嶋は、彰子を気に入ってる。気に入ってるからこそ、あんな行動を取ったんだ。なのに、俺は木嶋の裏に隠された気持ちを感じ取れないまま殴ってしまった。俺が謝った時、その理由を教えてくれたよ。それを聞いて、俺は木嶋に感謝した。あいつは、本当に最高の友達なんだって、改めて自覚したほどだった」
この時、寛はあえて男同士の会話を言わないようにしていた。
しかし、彰子はその事に何にも気付かない。ただ、寛の言葉を素直に聞いていたのだ。
「俺は、この6日間…ずっと考えていた。どうすれば、彰子が再び俺の元に戻ってきてくれるのか」
寛は揺るぎない目で、彰子を捕えようとしていた。
バカ。そんな事をしなくても、既に捕われているという事実に気付かないの? あたしは、ちゃんとばあちゃんの家で気持ちを整理してきた。だから、寛の気持ちもちゃんとわかってるつもりだよ?
寛への想いが溢れそうになり、抱きつきたい衝動が沸き起こる。だが、必死にそれを抑え、愛情を込めて見つめ返す事しか出来なかった。
「彰子、俺を許してくれ。頼む!」
寛は、懇願するようにあたしの手をきつく掴んでいた。
その掴む力は強く、手が痛かったが……離してとは言えない。こんな痛さなら、あたしはいつでも受入れる事が出来る。
あたしを離したくないという、寛の強い想いだから。
「許してる。とっくに許してるよ」
感極まって溢れ出そうとする涙を、彰子は必死になって堪えた。
「彰子…」
「確かにあの言葉は傷ついた。寛は、あたしが嫌がっていた事ぐらい知ってる筈なのにって。もちろん、あたしはその事で寛を嫌いになんかなってないよ。ただ、あの日は傷ついて、頭がパニクってしまったから…だから、ばあちゃんの家に逃げたの」
「知ってる。律子がそう言ってた」
いつの間にか、寛は愛おしそうに手を握っていた。
その仕草から愛情が伝わってくる。
「そう、律姉が……」
律姉が、あたしと寛の関係を知ってるなんて思わなかった。それとも、今回の件で、寛が律姉にしゃべったんだろうか?
でも、今はそんな事どうでもいい。
あたしは、今こうして寛と仲直り出来たこの時間を…大切にしたい。
寛は彰子の肩を抱きしめ、二人は寄り添っていた。
言葉は何もいらなかった。
この二人だけの静かな空間が、とても心地よかった。
しばらく無言のままだったが、寛が口を開いた。
「せっかくこっちに帰ってきたのに、デートらしきデートしてないな」
そう言われてみるとそうかも。
寛が戻って来た当初は、家族や親戚との付き合いで時間が取れなく、花火さえ一緒に見れなかった。さぁ、やっと寛と二人きりになれると思ったら……木嶋さんからプールのバイトを引き受けてしまった。
寛がバイトを辞めた後、やっと二人きりになれると思ったら、あの騒動だ。そして、 あたしが逃げてしまって、また1週間を無駄にしてしまった。
でも、この1週間があったから、より一層寛への愛が大きくなったと思う。いろんな風に考えて、いろんな方面から客観的に見れたから。
だからこそ、寛の言葉も理解出来たのだ。
「もう、お前の夏休みも終わりだろう? ……これからデートしよう、誰にも邪魔されず、二人だけでさ」
「これから?!」
驚きながら視線を上げると、寛が観察するように見つめていた。
「いいだろ? 俺らって、時間を大切にしなければならないと思うんだ」
確かにそうだ。
あたしたちは、時間を大切にしなければならない。今までが時間に無頓着だったのだ。こんなにお互いを想い合ってるのに、あたしたちは時間を無駄にし過ぎた。
「彰子?」
「うん、一緒にいる」
寛の手が伸びてきて、頬を包み込んだ。
「ありがとう、ありがとう彰子」
こんな寛は初めてだ。
あたしの言動に細心の注意を払って…探るように見つめてくるなんて。でも、真っ直ぐ見つめる寛の瞳は、迷いは見えない。一途にあたしだけを見つめてる。でもその奥には……恐れのようなモノも見え隠れしている。
それは、きっとあたしの中にあるモノと同じだろう。
相手を求める心が強い為、失う事を考えると恐ろしくなる。
……いつも側にいて欲しいのに、そう望む事は許されない。
二人はいつまでも見つめ合った。
見つめ合ってるのに、どうして寛はキスをしてくれないんだろう? こうして肩を抱かれて、お互いの唇がこんなにも間近に接近してるのに……。
あたしだけが、こんなに求めてるの? あぁ、お願い。
「寛…」
感情に押し流され、擦れた声が出てきた。
「何?」
「どうして……キスしてくれないの?」
思わず寛の首に抱きついた。
「キスして欲しい?」
寛が、ゆっくり聞き返す。
当たり前だよ。寛のキスだけが欲しいのに、どうして?
「寛は……あたしのキスは欲しくないの?」
恐れから、睫がピクピク震える。
聞いたものの、その答えは知りたくなかった。
寛は、あたしにキスをするほど……まだ気持ちがそこまで達していないのかも知れない。あたしだけが、こんなに寛を求めているの?
寛が、口を開こうとするのがわかった。
ヤダ、拒絶の言葉なんか答えを聞きたくない!
思わず、彰子は自ら寛の唇を塞いだ。
その咄嗟の行動が、寛を驚かせたのが十分にわかった。
なぜなら、寛の躰がブルッと激しく奮えたから……。
それでも、彰子はキスをやめなかった。
寛の唇に、舌で恐る恐る愛撫した途端、強く抱きしめられた。
いつの間にか覆い被さられ、主導権は寛に奪われていた。
激しい情熱のうねりが、寛の躰から発散され、あたしの中に浸透してくる。
「っんん」
唇が離れた瞬間、思い切り息を吸ったが、再び寛がキスをする。
背にあった寛の手が、Tシャツの中に滑り込んできた。そして乳房をブラの上から包み込む。
その時、躰が跳ねるように奮えた。躰が寛を求めて脈打つのが、彰子には既にわかっていた。
乳房が張る痛みなんて、既に消えていた。
唐突に、寛がキスを止めた。
荒々しく息をしながら、上から彰子を覗き込む。
「……彰子のキスが欲しくないかって? 欲しいに決まってる! だけど、俺はお前を傷つけてしまったから。彰子は俺を許してくれるとは言ったけど、キスしてもいいのかどうかわからなかったんだ」
寛は一瞬瞼を伏せるが、勢いよく顔を上げると、彰子を覗き込むように見つめた。
「…俺は、俺の体力が続く限り、彰子を何度でも抱きしめたいと思ってる。そういう俺の気持ち、知ってるだろう? 俺は、京都でそれを実行したんだから」
京都という言葉が、あの夜を思い出させる。
情熱を、あたしに注ぎ込んだ寛……。抱いた後、まだ足りないというように求めてきた寛。
寛は、赤くなった彰子を見て、満足そうに微笑んだ。
「こうしてるだけで、俺はお前を抱きたくて仕方ないんだ。だが、それは今夜までおあずけだ。……それでいいよな?」
寛が問いかけるように宣言した。 あたしを、今夜抱く……と。
もちろん、あたしに依存はない。だって、相手は寛なんだから。
彰子は、承諾する意味を含めて頷いた。
京都以来、再びあの爆発する感情を手に入れるかと思うと、躰が奮える。
彰子は、今回の件で新たに生まれた寛への想いを、愛おしむように心の奥で抱きしめた。
あたし、ケンカをしてもやっぱり寛の事が好きだよ。
だから、あたしも寛に抱かれたいって思ってるし、あたしの愛を寛にぶつけたいって思ってる。
彰子は、もう一度大胆になって寛にキスをした。
少しでも、この愛を伝えたかったから。
でも、全身全霊をかけて愛を伝えるのは…そう、今夜だ!