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『続 ・Ring of the truth 〜真実の想い〜』【4】

 二人は何も話さなかった。
 ただ、時間が過ぎるのを……ジッと耐えていた。
 
 突然、テーブルに影が射した。
 自然と視線をあげると、そこには寛がいた。
 ジーンズにTシャツ姿の……寛が。
「彰子……」
 あぁ〜、寛から名を呼ばれるのが大好きだった。
 とっても愛おしそうに、あたしの名を読んでくれる。
「久木さん……ですよね?」
 莉世が二人の間に入った。
 その事が、彰子をホッとさせた。
 上手く声が出ないし、何から話せばいいかわからなかったからだ。
「え〜と、君が電話をくれた、……桐谷さん?」
 寛は、莉世に注意を向けたが、意識は未だ彰子に向けられていた。
「はい、桐谷と言います。彰子とはクラスメートで……あの〜…」
 一瞬顔を曇らせたが、意を決したように寛を真剣に見た。
「彰子の話を、最初から最後までちゃんと聞いてあげてください。お願いします!」
「うん……ありがとう桐谷さん」
 その答えを聞いて莉世はホッとすると、立ち上がった。
「莉世?」
 何処へ行くの? あたしを置いていくの?
「彰子、ちゃんと話すんだよ。多分……ううん、絶対長く話す…事になると思うから。その間に、わたしも用事を終わらせてくる」
「用事? そんな事、一言も言ってなかったじゃない!」
 莉世はにっこり笑った。
「わたしの事はどうでもいいよ。今は彰子の事でしょう? 携帯ONにしておくから、いつでも連絡して。……じゃぁ、久木さん」
 莉世は寛に会釈すると鞄を持ち、焦る彰子を置いて出て行った。
 彰子は、寛と二人きりに残されてしまった。
 
 
 何て言ったらいい? 何から話せばいい? 目の前に腰を下ろした寛は、何も話さない。 ……あたしから呼び出したんだから、あたしから何か言うべきだ。寛はわざわざここまで来てくれたんだから。
 気持ちを落ち着けようと深呼吸した。
 
「……髪切ったんだ」
 突然話しかけられ、彰子は顔を上げた。
 寛の表情は無表情だった。
 その事にショックを受けた。
 あたし、何を期待してたんだろう? あたしに会って、嬉しそうな顔? 
 それとも辛そうな顔?
 落ち込みそうになる気持ちを奮い立たせ、短い髪に手を伸ばした。
「うん、高校にあがったと同時に切ったんだ」
 ちらりと寛を見るが、寛は頷くだけ。
 その冷たい反応に、悲しみと怒りがごちゃ混ぜになって胸を熱くさせる。
 やだぁ、こんな他人行儀な話し方!
 それに、こんな話し方……あたしじゃない!
 
「寛! あたし、」
「待って。ファミレスで話すような事じゃないだろ?」
 無表情な仮面だったが、目だけが力強さを増した。
「だけど、」
「俺のアパートで話そう……。いいだろ?」
 寛のアパート? 二宮さんと同棲してるかもしれないアパートで?
「あたし、邪魔したくない」
「誰の?」
 誰って……、そんなの決まってるじゃない。
「寛の、彼女」
 喉がつまった。
 あぁ〜、こんな言葉使いたくなかった。「そうだよ」って言われたらどうするの? ……未練たらしいよ、あたし。
 ただ誤解を解くだけなのに、あたしの心は未だ寛を欲してるなんて!
「気になるのはそれだけ?」
「えっ?」
「なら、行こう」
 寛は伝票を取り上げ、彰子の荷物も持ってレジへ行った。
 その行動の早さについていけず、茫然となったが、すぐに立ち上がって後を追った。
 寛はもう外へ出ており、彰子が着いてくるかどうか確かめずにすたすた歩く。
 何? 寛ったら一人で先に歩いていくなんて。
 奥歯を噛み締め、寛の後ろを着いて行った。
 
 
「ほら」
 と手渡されたのはヘルメット。
「何?」
「かぶれって言ってるんだ」
 寛は後ろに鞄をくくりつけると、自分もメットをかぶった。
「何してるんだ? ……ったく」
 彰子からメットを取り上げると、思い切りかぶせられた。
「ちょっと待ってよ。……これ寛の、バイクなの?」
「あぁ、俺の。……彰子がジーンズ履いてて助かった」
 寛はバイクに跨がると、彰子を振り返った。
「早く乗れ」
 初めてだよ、バイクに乗るなんて!
 恐る恐る足を広げて、寛の後ろに乗った。
 手は? 手は何処に置いたらいいの?
「何してるんだ?」
 寛はそう言うと、宙に浮いた彰子の手を自分の腰に絡ませた。
「しっかり掴まってるんだ」
 エンジンをかけると、そのバイクは前に進んだ。
 怖い!
 彰子は、思い切り寛の腰に抱きついた。
 
 まだ朝が早い為か、車はそれほど込んではいなかった。
 その道路を、寛はどんどん進む。
 彰子は乳房が押し潰されんばかりに、抱きついていた。
 寛の……背中。あたしが、どれだけ寛の背中に抱きつきたかったか。
 もちろん正面からだって抱きしめたい、抱きしめて欲しい。
 でも、今はあたしが追いかけてるんだから、こうして背中からしか抱きつけない。
 温かい……。あたしは、ずっとこの温もりが欲しかった。
 寛が離れて行っても……あたしはこれが欲しかった。
 思わず寛に触れることが出来た事で、彰子の目が霞んでくる。
 嬉し涙が目から零れ、風に乗って後ろへ吹き飛ばされた。
 わかってる、二人の関係は……何もないって。
 こうして寛に触れるのは、これが最後かも知れないって。
 
 よく雑誌に書いてある。
 運転中、話しかけられても風が邪魔して聞こえない、と。
 ……だから……
「愛してるの……あたしには、寛だけ」
 ボソリと寛の背中に向かって、あたしは囁いた。

2003/06/27
  

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