「それに……その胸の谷間。俺のところから覗けるんだけど。躯にぴったり張りついてるから、胸が大きいってわかるし。そして、すぐに手を滑り込ませることができるミニスカート。すっげぇ、そそられる……」
触られたわけでもないのに、乃愛は慌てて両手でスカートを大腿に押さえつけた。
「乃愛って……バカ?」
「な、何よ! バカって……」
額を合わせていた叶都だったが、脱力するように乃愛の肩に額を押しつけた。
「……本当に自分で気付いていないんだったら、マジ疎すぎる。それでよく……バージンでいられたよな」
「はいぃ?」
戸惑う乃愛を無視し、叶都はスカートを押さえる乃愛の手首を掴み、ソファに手を置くように促した。
「さらに胸の谷間を作ってどうするんだよ! ……ったく、男を挑発してるってことぐらい、わかれ」
叶都に言われて、乃愛は初めて気付いた。
乳房を脇から抑えるようにスカートを押さえていたということを……
自分から乳房を強調するようにしていたとは思ってもみなかった。恥ずかしさと不甲斐なさから、乃愛は力なく肩を落とす。
「ごめん……。わたし無意識にしてた。……多分、今までも。これからは気を付けるようにするね」
「わかればよろしい! でもさ、俺しか見てなかったら……して欲しいな」
叶都が乃愛の耳朶を舌でペロッと舐めた。
「っぁ!」
乃愛のニーハイソックスの縁に触れ、素肌の大腿を軽く撫で上げる。
「これ……俺のために着てくれたんだろ? 俺が触れやすいようにさ。……寒がりの乃愛が、素肌を出してくれてるってことは、そういうことだろ?」
やっぱり、叶都に隠し事をするのは無理なんだね――改めてしみじみと思った。
えっちなヤツだな……って思われただろうか? 叶都が触りやすいように、いろいろと考えてきたって知って、こんな彼女とは、俺もう付き合えない≠チて言われたどうしよう!
「乃愛? 俺、訊いてるんだけど? 俺のためだろ? ……そうだと言えよ」
叶都の声が、微かに擦れる。その声音から感じ取れる、懇願の響き。
そこでふと思い出した。お姉さん風を吹かせて叶都をあしらったあの雪の日、彼が愛情を示して欲しがっていたことを。
気持ちを素直に出した時、すごく喜んでくれたことを。
「乃愛?」
こうなったら、何でも言っちゃえ! だって、それがわたしだし――その考えに乃愛は頷いた。
「……だって、今までの家庭教師たちは……そのぉ〜叶都との仲を知られて辞めさせられちゃったわけでしょ? もしわたしと叶都がそういう関係だと知られたら、わたしも辞めさせられちゃうよね? だから、叶都との恋は秘密にしなきゃいけないと思って。突然おばさまが部屋に入ってきてもわからないような……服を脱がなくてもいいような方がいいかなって」
乃愛は恥ずかしさを隠すようにして軽く俯き、瞼をギュッと閉じた。
「顔上げて。……乃愛」
両手で頬を包まれ、上へ向くように促される。
叶都を拒むことなどできるはずもなく、乃愛はゆっくり目を開けて、目の前の叶都を見つめた。
「なあ、俺に会えなくて寂しかった?」
「……うん」
「じゃ、躯が疼いた?」
「ええっ?」
目を見開いて驚く乃愛を、叶都が笑う。
「自分で慰めた? ……俺に触れられてると思って」
乃愛は、頭をブンブン振った。
「し、してないよ! そんな……えっちなこと」
「俺はしたよ。乃愛を思ってマス掻いた。乃愛の膣内に包まれてると想像して、俺の下で喘ぎ声を上げている乃愛を想像して」
叶都の声、言葉に含まれるいやらしい響きに、乃愛の躯の芯がゆっくり火照り始めていく。
初めて叶都が乃愛の秘部に触れた時に感じた、心地よい甘美な痺れ。それを思い出しただけで、あの疼く感覚が欲しくなった。
期待するようにブラジャーの下の乳首が硬くなり、生地を擦り上げるたびに甘い吐息が漏れそうだった。
「叶都……」
懇願するような響きになってるとは気付かず、乃愛は想いを伝えるように叶都の目を見つめた。
瞳でわかってると伝えてくる叶都。
彼の顔が、どんどん近寄ってくる。
キスされる――と思うより早く、叶都が乃愛の唇を奪った。優しく啄ばみながら、唇を開けろとせっついてくる。
唇の割れ目に沿って舌が動くだけで、叶都にも伝わるぐらい躯が震えた。
「あっ……っん、だ、ダメっん!」
「いろんな愛し方、教えてやる……」
こういう展開を望んではいたが、まさか部屋に入っていきなりそっち方向へ流れるとは思ってもみなかった。
「待って……、待って叶都!」
「何? 俺、もう勃ってるんだけど……」
「勃っ!」
視線が隣に座る叶都の股間にいきそうになる。それを必死に堪えて、叶都から躯を背けると、バッグに手を伸ばした。
「そ、そうだ! 今日はイブでしょ。叶都にクリスマスプレゼント買ってきたんだけど、貰ってくれる?」
叶都と初めて会った時に、とても印象を抱いたものがあった。
それは、制服から覗くシルバーのペンダントやブレスレット、ウォレットチェーンだった。
ブランドものに疎い乃愛はパソコンで検索し、それがクロムハーツ≠ニいうブランドだと知った。
それらが、とても高価であることも……
乃愛ができる範囲は限られている。裕福な暮らしに慣れてる叶都が喜んでくれるかわからないが、それでも叶都の好きなブランド品をプレゼントしたかった。
喜んでくれるだろうか?
不安を抱きながら、小さな箱を叶都に差し出す。
「嘘……マジ? これ、クロムハーツ?」
「うん、叶都好きみたいだし……。来年4月の叶都の誕生日にも、一応頑張るつもりだけど……、今回は二人が付き合いだして初めてのクリスマス≠チてことで奮発しちゃった」
「開けていい?」
嬉しそうに頬を緩める叶都。そんな表情を見るだけで、乃愛は嬉しくて堪らなかった。
「うん! 気に入るかどうかわからないんだけど……」
包装をすぐに解き、小さな箱を開ける。
「これ、スクロールバンドリングペンダントだ! うわっ……どうしよう。俺、マジ嬉しい」
「本当?」
「ありがとう、乃愛。俺、毎日身に付けるよ。……まさか、ここまで見事シンクロするとはな」
「シンクロって、何?」
乃愛が贈ったペンダントを身に付けてから、叶都はポケットから小さな箱を取り出した。
「えっ? ……えっ!」
箱を受け取りながら、確認するように叶都へ視線を向ける。肯定する叶都に、乃愛はやっと叶都が言ったシンクロ≠ニいう言葉が理解できた。
まさか、叶都もクロムハーツだとは……
叶都と同じように、見慣れた包装を解いて箱の蓋を開ける。そこには、ペアリングが横に並んでいた。
「いつか、彼女ができたら……これを贈りたいとずっと思っててさ。スペーサーリングForever。乃愛の指は華奢だから、ちょっとごつく感じるかも知れない。でも、一緒に身に着けたいんだ」
「どうしよう……、すっごい嬉しい」
叶都はリング幅を気にしているようだったが、乃愛はリングに彫られた文字に目頭が熱くなった。
Forever=永遠に。
付き合いだしてまだ一週間なのに、そんなにも強い想いを抱いてくれてるなんて……
小さいリングを取り、叶都が乃愛の左手薬指にそれを嵌める。指が太くて途中で止まるのではないかと心配したが、それはスムーズに収まった。
白い指にシルバーのリング。刻印のForeverが、乃愛の全てを包み込んでいく。
まるで乃愛は永遠に叶都のものだ!≠ニ宣言しているように……
「俺のも嵌めて欲しいな」
箱の中に残った大きいリングを摘まみ上げると、叶都がしてくれたように乃愛も彼の指にそれを嵌めた。
乃愛の華奢な手と、叶都のゴツゴツとした大きな手に、同じリングが同じ場所で光っていた。
どうしよう……めちゃくちゃ嬉しい!
「ありがとう、叶都。わたし……大事にするね。学校にも着けていくから」
「俺も肌身離さず……着けておく」
今、叶都をギュッと抱きしめたかった。彼の温もりを躯で感じ、その重みを全て受け止めたい。
乃愛は自ら叶都の方へ躯を傾け、こちらを見た叶都の唇に自分の唇を押しつけた。
ふたりの心と躯に火が灯り、勢いよく燃え出すのは時間の問題だった。