一貴は、わたしを女として扱ってくれた。
それは、わたしを彼女にしてくれた時からそうだったんだけど、今日は全く違う。
エスコートして、デートをセッティングして……忘れられない日にしてくれた。
……しかも、今日という日はまだ終ってない。
これからが、本当に忘れられないバースデーになる。
クルーザーから浅橋へ降り立ってからというもの、莉世は暗闇を味方にし一貴の腕に手を絡ませて歩いていた。
本当、素敵だった。
莉世は、ホテルに向かいながらクルーザー内での事を思い出していた。
魚料理に合わせて白ワインが出された時、一貴は一杯だけ許してくれた。
だが、デザートでバースデーケーキを食べた後は、再びシャンパンが入ったグラスを持たせてくれた。
芳醇な香いと口内で弾ける刺激を味わいながら 、一貴とデッキに出て夜景を楽しんだ。
一貴に肩を抱かれては、その腕の中で守られてると感じ、キスをすれば愛されてると実感し……。
とてもロマンティックだった。ココから離れたくないって思うほどに。
お酒で酔ったのか、雰囲気に酔わされたのかは、莉世にもわからなかった。
だが、躰は妙に興奮状態で……ちょっと触れられただけでも意識していた。
莉世が視線を上げると、一貴も引き寄せられるように見つめてくる。
欲望と情熱が入り交じったその瞳は、断固たる意思でその熱い想いを抑えつけていた。
でも、その瞳は語ってる。
二人っきりになったら……容赦はしない、と。
それを感じ取るだけで、莉世は躰が奮えるのを止められなかった。
周囲の視線など目に入らなかった。寒さも関係なかった。
早く、早く一貴と二人っきりになりたいと、そればかり思っていた。
目的の階に着くと、一貴に抱き寄せられながら部屋へ入った。
「莉世」
その切羽詰まった声に、莉世は陥落してしまった。
覆い被さってきた一貴のキスを受けながら、ベッドルームへと追い立てられた。
全速疾走した後のように肩で荒い息をつきながら身を離して、初めていつの間にかコートを脱がされていた事に気付いた。
莉世はダブルベッドに腰を下ろし、一貴を見上げた。
一貴も既にコートを脱いだらしく、黒のセーターとズボンだけだった。
どうしたらいいの? 何をしたら……。
まるで初めてベッドを共にする錯覚に陥り、莉世は恥ずかしくなった。
部屋は薄暗かったが、電飾で輝く観覧車の灯りが窓から注ぎ込んでいる事で、室内は何とも言えない雰囲気に満たされた。
莉世は、ピンッと張り詰めた空気に心臓を高鳴らせながらも、緊張からブーツの中で足の爪先をギュッと丸めていた。
だんだん濃厚になる空気から逃れるように、莉世は身を屈めてブーツに手を伸ばした。
その手を、一貴が止めた。
「俺がやる。全て俺に任せて」
す、全て?
莉世は、唾をゴクリと飲み込んだ。
一貴が膝をついて屈むと、ブーツのファスナーをゆっくり引き下ろして脱がせた。
静かな部屋に、その音が響く。
「立って」
言われるがまま一貴と共に立ち上がると、夕方の時と同じようにボレロカーディガンのリボンを解いた。
そのままキャミソールも脱がされると、莉世の躰に一瞬奮えが走った。
それを感じた一貴は、莉世を抱き寄せてゆっくりとキスをした。
舌で唇を愛撫し、甘噛みし、莉世の声にならないむせび泣きが出るまで何度も何度も同じ事を繰り返す。
どうしよう。何も考えられないよ。一貴が愛してくれてる、それだけしか。
莉世は、一貴に躰を押しつけた。
下半身がピッタリ重なった事で、一貴自身が既に硬く大きく漲ってるという事がわかった。
たったそれだけで、莉世の奥深い所が熱く潤ってくる。
「っふぁ……っぁ」
「まだだ」
思わず顔を隠したくなった。
そんな風に優しく言わないで……もっと躰が敏感に反応してしまう!
ひんやりとしたシーツの感触が背に触れて、初めてベッドに寝かされたとわかった。
しかも、既にスカートまでなくなってる!
一貴は莉世を見つめながら、セーターの裾を持つと勢いよく脱いだ。
鍛えられた胸板に引き締まった腹部は、見事に均整がとれてる。
いつ鍛えているのだろう? いつそんな時間があるのだろう?
舐めるように一貴の躰を眺めながら、莉世はふと思った。
一貴は……大人だ。それも想像がつかないほど、たくさんの経験を積んできた。
そんな一貴から見れば、わたしは子供に等しい……いくら躰は大人でも。
一貴、わたし少しずついい女に成長出来るように頑張るから、躰だけでなくココロごと愛してもらえるように……素敵な女性になれるよう努力するから、だからいつまでもわたしの側に居てね。
「いつの間に、お前は視線で感じさせる術を覚えた?」
「えっ?」
莉世は、一貴のその言葉が嬉しく、ゆっくり頬を緩めた。
「ほら、また。誘うような笑みを零して」
「そんな風に見える?」
一貴はベルトを外してからボタンを開けると、莉世に覆い被さるようにベッドに膝をついた。
「見えない、とでも?」
莉世は、恥ずかしそうに視線を伏せた。
「だって、一貴の前では……子供にしか見えないもの」
「子供だと思ってるお前から、俺は十分に官能を刺激されてるぞ。ふとした仕草、微笑み、視線……お前が知らないだけだ」
「ほん、と?」
一貴は、ブラの上から乳房を包み込んだ。
思わず手の甲で、莉世は呻きを殺した。
「ほらっ、そういう仕草も俺に火をつける」
莉世は、ゆっくり瞼を開けた。
「じゃ、そういう風にしたのは……一貴なのかも」
「だから困ってるんだ」
一貴は、眉間に皺を寄せた。
理由を訊こうと思ったが、一貴が大腿にあるパンストの縁を触れるか触れないかの力でなぞった為、息を飲んでしまった。
「おしゃべりは終わりだ」
一貴が躰を倒し、莉世の口元で甘く囁いた後、そのまま唇を奪った。
「っんんぁん、っはぁぅ……っ」
莉世は、一貴の上腕部から肩へと指を這わし、全てを感じようとした。
一貴は、薄いブラの上から既に硬くなった乳首をなぶり……舌で何度も転がしては、歯で軽く噛んだ。
そのたびに、莉世は跳ねる程激しく身悶えしていた。
「っん、ふぅ、……っや」
乳房を揉みしだき、リズムをつけて躰をゆっくり揺らしてくる。
そのゆったりした行為が、莉世を甘くそれでいて情熱的な世界へ誘い込み、極限へと押し上げる。
一貴の髪が肌を愛撫し、そのまま顔を下げていった。
手はガーターで止められたストッキングに触れ、指で外す。
一貴は躰を起こすと、殆ど大の字で横になる莉世の躰を眺めた。
「お前に似合うと、思ったよ」
指を引っかけて、ストッキングを下げていくが、その間も足への愛撫は止めなかった。
大腿の内側、膝の裏、ふくろはぎ、足首……どこに快感のツボがあるのか知ってるかのように、一つずつ触れていく。
「やめっ……、かずぅ、っんんぁ」
莉世は、敏感に反応する躰に別な力を加えて身を捩ったが、一貴がしっかり足首を押さえていた為、その甘美な愛撫から逃れられなかった。
それよりも少し動いた事で、一貴は莉世の足を開けて中央の場所を死守した。
「今、どんな姿になってるかわかるか?」
莉世は、もう片方のストッキングを脱がせにかかる一貴の動作を、薄目を開けて眺めた。
「それに、どんなに濡れてるのか……」
「やだぁ、やめ……っんぁんくっ」
あぁ、一貴に奏でられてどんどん舞い上がってしまう!
息つく暇もなく、言葉では言い表せないほどの快感が躰を駆け巡るのを、ただ感じるしか出来ない。
莉世は、シーツをギュッと握った。
「薄い下着は、濡れると透けるって知ってたか?」
「っな!」
大きく息を吸い込みながら、一貴を見た。
一貴は莉世の足首を持ちながら、莉世の反応を眺めていた。
「……何、するの?」
「莉世を愛するのさ」
愛するって、いったい何?
問う暇もなく、一貴はゆっくり莉世の足の指を口に咥えたのだ。
「ひゃぁぁ、……っぁ、やめ……っっんんぁふ…っ」
その何ともいえない感覚に、莉世は飛び跳ねた。
「汚い、から……っぁぁ」
躰を奮わせながら、すごい力でシーツを握り締めた。
そうしなければ、あまりにも強烈な快感の襲撃に堪えられなくなりそうだったのだ。
「汚くなんかない……」
一貴は莉世のもう片方の足を愛撫しながら、一本一本舌でしゃぶり尽くすと足の甲からふくろはぎ、膝裏から大腿へと螺旋を描くようにキスの愛撫を繰り返した。
初めてだった……ここまで徹底的に躰の隅々まで愛されるのは。
「どれだけ感じてるかわかるか?」
莉世は、何度もすすり泣きを漏らしながら喘ぐ事しか出来なかった。
手は痛くなるほど力が入り、躰には情熱で出来る特有の湿り気が生まれていた。
一貴は莉世の片足を肩に担ぎ、大腿にキスしながら……莉世の濡れた秘部をパンティの上からゆっくり上下に撫でた。
「はぁんんっ、っ……っぁ、っん!」
「すごい量だ。糸が引くぐらい」
その言葉は、莉世の耳にも届いた。
同時に、再び羞恥心が芽生える。
「やめ、て……そんな風に、言わ……ぁんっ」
一貴が強く擦った為、莉世は思わずのけ反った。
荒い息遣いと共に、ぴちゃぴちゃと粘膜の音が混じる。
恥ずかしい。
「莉世、俺に愛されるのは……まだ嫌か?」
一貴は莉世の秘部を指の腹で擦りながら、掠れた声で告げた。
莉世は頭を振った。
そんな事ない! 一貴に愛されるのは好きだもの!
「なら、莉世の全てを俺にくれるよな?」
その言葉が、何を意味するのかわからなかった。
……ううん、わかっていたのかも知れない。ずっと……ずっと拒否してきた行為だったから。
だから、莉世はこの素敵な日を一つの思い出に残るよう、この身を捧げるように言った。
「一貴、愛して……ココロごとわたしを愛して!」
その言葉に、一貴は一瞬で瞳を見開いた。そこには、優しさと興奮が入り交じった情熱の光が瞳に宿っていた。
一貴は、肩に担いでいた方の大腿をグッと押して一度舌で触れた。莉世の反応を確かめつつ、ゆっくり目的の場所へと顔を近づけた。
「っんんぁぁ!」
莉世は、今まで経験した事のない感覚を受け、思わず顎を突き出すようにのけ反り、その初めての愛撫に身を委ねた。