あの、あの、あの、すっごく綺麗なんですけどっ!
莉世は、その素晴らしい内装と眺望に驚嘆せずにはいられなかった。
25階にあるそのスイートは、ダイニングルームとベッドルームがあり、その場所によって景色が異なるのだ。
ダイニングルームからは都市の景色が、ベッドルームからは海の景色が眺められる。
莉世は、ベッドルームからバスルームを覗いた。
一段高くなった所にあるジャグジー付のバスタブからは、海が見える。
「どうだ? 気に入ったか?」
一貴が、莉世を包み込むように後ろからそっと抱きついた。
「うん、すっごく綺麗でとっても素敵!」
「思い出になる?」
一貴の息が頬を擽ったかと思えば、莉世の髪を横に避け、露になった首に軽くキスをした。
莉世はその甘い仕草にココロ踊らせながら、お腹の上で交差された一貴の腕を強く掴んだ。
「うん……ありがとう、一貴」
「う〜ん、このまま莉世を食べたいが……その前にどうする? 腹が減ったか?」
莉世は頭を振った。
お腹なんて……空いてるのかどうかわからない。心臓はドキドキして躰が火照ってる感じだし、それに、それに!
「こっちにおいで」
一貴に促されるままベッドルームへ戻ると、莉世はコートを脱がされた。
一貴はコートを腕に掛け、ダイニングルームへ行くように莉世の背を押した。
途中、コートをクローゼットに仕舞ったが、その間も莉世の腰をしかっり引き寄せて離さなかった。
一貴だけソファに座ると、彼は莉世を抱くように膝の間へ導いた。
ジッと見つめてくるその熱い眼差しに耐え切れず、莉世は小さな声で呟いた。
「か、一貴……?」
「今日は、とっても綺麗だ。……まだ言ってなかっただろ?」
莉世は照れたように頬を染めて、下を向いた。
空気の密度が濃くなった感じがした。
とても甘くて……それでいて独特な親密さが二人を包み込む。
繊細なブラの下で、乳房がどんどん張り詰めていくのがわかるぐらいだった。
「俺の為に選んだ?」
莉世は頷いた。
「……とっても女らしいよ」
心臓が激しく高鳴る。
わたし……今までにないくらい興奮してる!
「この下は? 何着てる?」
ピンクのキャミソールを指した。
「……下着、だけど?」
一貴がその先を促すように、片眉を上げた。
莉世は、一貴が何を訊きたいのかわかった。
自然と唇が緩むのがわかったが、そのまま一貴を見つめた。
「……一貴から貰った、下着」
その答えに満足したのか、一貴の口角が上がった。
「そうか、それなら大丈夫だな」
「えっ?」
一貴は徐に手を伸ばすと、ボレロカーディガンのリボンを解き、ゆっくり脱がせた。
外気に触れた途端寒さを感じたが、暖房の暖かさが肌を包み込むと、すぐに気にならなくなった。
キャミソールも脱がされて、上半身ブラ一枚になる。
その姿を、一貴は貪るような目で眺めてから、透けて見える乳房の頂を食入るように見た。
たったそれだけで莉世は敏感に反応してしまった。
見なくてもわかる……痛いほど硬くなった乳首が薄い生地を押し上げてるのだから。
次に一貴はウエストに手を伸ばし、スカートのファスナーを下ろした。
莉世の足元で白い花が咲く。
ブラ・パンティー・ガーター姿になった莉世は、両手を使って出来るだけ躰を隠したかった。
一貴の瞳に浮かんだ欲望の光を見なくても、どんな風に見えるかわかっているからだ。
そんな莉世の気持ちを悟ったのか、一貴はようやく莉世の手を捕り側へ引き寄せた。
「とっても……素敵だ」
お腹に一貴の温かい息がかかると、莉世は思わず息を飲んだ。
「おいで」
その優しい声音は、まるで魔法のように莉世を絡めとった。
一貴がゆっくり立ち上がるのを、莉世は自然と目で追った。
顎を突き出すように一貴を見上げて、そしてゆっくり瞼を閉じた。
一貴の顔が覆い被さってきたからだ。
お互いの唾液が混じり合い、静かな部屋に吐息と粘膜の音が響く。
莉世は縋り付くように、一貴の背中を掴んだ。
一貴の手は、何度も背中を上下に愛撫をする。
そうされると足に力が入らなくなり、徐々に一貴の方へ凭れた。
どうしよう……すごい感じる。
してる事は、いつもと同じ。触れてる人も一緒。
だけど今日は特別な日……ただそれだけの理由で、こんなにも感覚が研ぎ澄まされるなんて!
「……濡れてる?」
一貴が何を指して言ったのか……理解するのに少し時間がかかった。
荒い息を繰り返しながら、莉世は頬を一貴の胸に押し当てた。
「……うん、すごく」
「脱いだ方がいいな」
そう言うと、パンティを引きおろした。
その行動に、莉世はハッと息を吸った。
「大丈夫だ、汚れてない。だが、ココは……」
一貴は、ゆっくり茂みを掻き分けると秘部に指を滑らせた。
「っぁ……」
莉世は少しのけ反りながら、まだ服を着たままの一貴のセーターをギュッと握った。
「洪水だな」
「一貴!」
莉世は、頬が染まってると確信しながら顔を上げた。
情熱に潤んだ莉世の目を食入るように見ながら、一貴は指に愛液を絡めるように何度も擦った。
「っぁ、っあ……はぁん」
一貴は、悶える莉世の唇を奪わずにはいられなかった。
のけ反る莉世を支え、それでいて愛撫の手を緩めず、口内をも舌で襲う。
だが、莉世は息が苦しくて一貴の唇から逃れて喘いだ。
「かずっ……、ぁふっ、あぁんっ……」
あぁ、イっちゃいそう! こんなにも感じてしまうなんて。早く、どうにかして欲しい。
「イきそう?」
莉世は、何度も何度も頷いた。
「そうだよな、こんなに濡れて……こんなに熱くなってる」
「おね、がい」
心持ち一貴の指の動きが早くなった。
「俺を見て」
莉世は閉じていた瞼を開け、一貴を見た。
「俺を見ながら、イってくれ」
み、見ながら?!
「そん、なの……っあ、わか、んない」
「大丈夫、俺だけをしっかり見るんだ」
莉世は、何でもいいからもう解放して欲しかった。
だから頷いた。
一貴が濡れた指で、熱く膨らんだ蕾を刺激した。
莉世は、飛び跳ねるようにビクッと奮えながら大きくのけ反った。
その勢いで、瞼をギュッと閉じた。
そんな莉世の表情を見つめていた一貴は、優しく撫でるように愛撫を繰り返した。
「莉世……こっちを見て」
「ダメ、もう…もう…っっぁ、あぁぁんっふぁ!」
一貴の愛撫に刺激された莉世は、一瞬で硬直し……そのままクライマックスに達した。
し、んじ……られない。
こんなに早く感じさせられ、こんなに早くイっちゃうなんて……新記録、かも。
一貴に支えてもらってるとわかってるのに、全く躰に力が入らない。悪いと思いながらも、莉世はぐったりと一貴に凭れながら自分の激しい鼓動の音を感じていた。
少し鼓動が落ち着いたので目を開けると、いつの間にかソファに横になっていた。
一貴は、莉世のブラの肩紐をずらしてる所だった。
「かず、き……」
莉世は片手を上げて、一貴の頬を撫でた。
「お前は、俺が望む……女性そのものだ。どうしてこんなにも理想どおりに育ったんだろうな」
その言葉に、莉世は弱い笑みを浮かべた。
紐が緩むと、カップから乳房が零れた。
外気に触れた事で、乳首がキュッと硬くなった。
一貴は、それに引き寄せられるように乳房に顔を埋めると、舌で乳首を嬲った。
「っはぁ……んっ」
温かい感触と滑りが、再び莉世を燃え立たせる。
両手で一貴の頭を抱えて、その行為の続きを催促した。
突然、一貴がフッと笑った。
「何?」
一貴が顔を上げて莉世を見つめたが……その間もしっかり乳房への愛撫を止めなかった。
「……お前以上の女は、いないって事さ」
莉世は嬉しくなり、乳房を愛撫する一貴の手に手を重ねた。
「ありがと」
莉世は、その手をそのまま口元へ持っていき、指先にキスをした。
一貴はいきなり手を引き抜いて、顔を背けた。
「今は……俺に触れるな」
えっ?
何で拒否されたかわからず、莉世は固まってしまった。
触れるなって、何で? どうして? わたし、何かいけない事でもした?
「かず、」
呼びかけたと同時に、一貴が勢いよく振り向いた。
少し……ほんの少しだけ頬骨辺りの血色が良くなっているのを見てから、莉世は一貴の真意を計ろうと目を覗き込んだ。
その目は少し細められていたが、莉世の視線から逃れようとはしなかった。
一貴は、一度諦めに似た吐息を吐いてから口を開いた。
「俺は我慢出来なくなって莉世に触れたが……もし逆に触れられたら、俺は自制出来なくなって抱いていただろう。何度も、何度も」
莉世は、一貴の気持ちと自分の気持ちが一つになってると気付いた。
わたしがいつも以上に敏感に反応してるように、一貴も今日のわたしを特別に思ってくれてる!
「一貴になら、何度でも抱いて欲しいのに」
莉世は、まるで誘惑するような甘い声になってるとは知らずに、ゆっくりそう告げた。
「ほらっ、それだ! お前は俺を一瞬で悦ばせてしまう」
一貴は一度目を伏せたが、再び莉世を直視した。
「今、お前を抱いたらその後に予定したものがキャンセルになってしまう。それだけは嫌なんだ。俺は……莉世を喜ばせたいんだよ」
もう十分に喜ばせてもらってるのに、どうして今になって……。
うん? キャンセル? そういえば、ロビーで総支配人と何か言ってたよね? ポーターがどうとか。
「よし! 行く用意だ、お姫さん」
「えっ?」
一貴は莉世の腕を引っ張り立たせたが、そのしどけない姿を見て困惑したような笑みを浮かべた。
「俺にとって……目の薬なんだが、」
目の薬って? と問う暇もなかった。一貴が莉世の躰を食入るように見つめたからだ。 莉世は、今の自分の姿がどんな風なのかやっと思い出した。
「キャッ!」
二人の魔法が解けた今、莉世は羞恥心に逆らえなかった。
そんな莉世を見て、一貴は楽しそうな笑い声をあげた。
「ほらっ、バスルームへ行って整えてこい」
「もう! 一貴が脱がせたのに」
莉世は逃げるように、そのままの姿で走り去った。
残された一貴は、しばらく深呼吸を繰り返した。
平常心に戻ると、自分が脱がせた服を拾っては腕にかけて……バスルームへ向かった。
一貴は口元を綻ばせながら、頭を振った。
自分がこんな風になるとは信じられない、というように。