開設5周年記念・特別作品(2013年再掲載)
side:エンリケ
もう我慢できない。
11年ぶりに再会した1週間前からこの瞬間を、どんなに待っていたことか!
正直、ホテルの部屋で杏那と会うまで怖かった。
ある程度のことは杏那の父親から教えてもらっていたが、やはり直接彼女を見るまでは不安でいっぱいだった。
だが、杏那を目にした途端、心にあった危惧の念はすぐに消え去った。
大人になった杏那の本質は昔と一切変わっておらず、想像していたとおりの素敵な女性に成長した事実に、思わず天を煽いで感謝をした。
もちろん、記憶にあったジャパニーズ・ドールと言える黒髪でさらさらヘアではなかったが、再会した杏那の全てが……とても愛おしかった。
すぐにでも杏那を抱き締め、触れ、悦びを分かち合いたかったが、まず先にブレスレットを持っているかどうか、あの時の約束を覚えているかどうかを確かめたかった。
1日目に確認した時は手首にそれはなく、とてもショックを覚えた。
それから1週間経っても、身に付けようとしなかった杏那。
もう我慢できなくなり、たまらずブレスレットの件を訊ねた。
杏那の返答に落胆するとともに激しい怒りを覚え、思わず杏那に対して冷たい態度を取ってしまった。
だが、自分の不甲斐ない態度が杏那を傷つけたのではないかと思うと、居ても経ってもいられず、こうして押しかける形で訪問してしまった。
杏那に、あの無作法を謝るつもりで……
これで終わりにしたくなかったからだ。
ブレスレットが杏那のもとになくても、日本にいる間、彼女の気持ちをこちらへ向けさせてみせる!
ブレスレットを渡してから、ずっと……ずっと心に秘めてきた想いだから。
今夜、思い切った行動に出て、本当に良かったとエンリケは思った。
普段の仕事バージョンからは想像できない、杏那の姿を見られたからだ。
スーツの下に隠していた、成熟した女性の肢体と滑らかなその素肌。
全てにおいて彼女に魅了され、エンリケの欲望をそそった。
それだけではない。
スペインで過ごした日々などすっかり忘れているものと思っていたが、杏那の部屋を見回してそれは違うとはっきりした。
杏那の心には、スペインで体験した全てがまだここに詰まっている!
だからこそ、エンリケが贈ったブレスレットをなくしたと知って、再び胸が痛んだ。
それほど大切なものではなかった……と、告げられたようなものだったからだ。
だが、エンリケを見る杏那の目つきは違う。彼女の瞳が、吐息が……躯から放たれる香りが、初めてエンリケだけに向けられている。
思わず杏那に触れたくなる衝動を堪え、何度平静を装ってその手を引っ込めただろうか。
でも、それももう終わりだ。
杏那の気持ちがこちらに向いているの、自分の気持ちの赴くまま行動を起こしたい。
無理やりではなく、彼女の心を大切にしたいから。
エンリケは手を伸ばして、化粧気のない柔らかな杏那の頬に触れる。
杏那に逃げられる時間を与えるが、彼女は逃げようとはしない。
エンリケが顔を近づければ近づけるほど、杏那は頬をピンク色に染めて、色っぽい目つきで見てくる。
ああ、杏那。君が好きだ。
ふたりの吐息が混じり合うまで顔を寄せ、逃げない杏那にゆっくりキスをした。
柔らかな唇の感触を味わうように、何度もついばむ。
11年ぶりの、杏那とのキスだった。
* * * * *
side:杏那
嘘じゃない……これは本当のこと。
杏那は、エンリケからキスをされるとそっと瞼を閉じた。
頬を親指で撫でられながらのついばむようなキスは、杏那の心を揺さぶりかけてくる。
舌で唇に触れては挟み、また杏那の唇の割れ目に舌で愛撫する。
準備は出来ているか? 俺がこうしてる理由はもうわかってるよな? ――そう問いかけているみたいだった。
杏那がいつエンリケを拒んでもいいように、相手を思いやり、逃げる時間を与えるキス。
その優しさが嬉しくて涙が出そうになる。
そんなエンリケに、応えたい気持ちがどんどん心の奥から湧いてくる。
杏那は手を伸ばしてエンリケの胸に手を置き、もっと身を寄せた。
ふたりの間にあったアルバムがベットから滑り落ちた音がしたが、今はエンリケに触れたくてたまらない。
激しく上下する乳房がエンリケの胸板に触れた途端、彼は問いかけるようなキスを止めた。
変わって、舌を杏那の口内に滑り込ませてきた。全てを飲み込み、奪うように舌を絡めてくる。
そんな口づけに、杏那の口から切羽詰まったような喘ぎ声が漏れた。自然とエンリケの首に手を回し、躯を密着させる。
エンリケは杏那の首の後ろで結ばれた紐をほどき、そっと体重をかけて杏那を押し倒した。
『杏那……、この日をどれだけ待ち望んだことか』
エンリケはゆったりとした手つきで、トレーナーの上から杏那の乳房を包み込んだ。
「……っぁ」
『ブラジャーを着けていないんだね』
エンリケの唇が離れると、杏那は抗議の喘ぎを漏らしたが、彼はそのまま耳朶の後ろの敏感な窪みにキスを落とした。
ああ、エンリケ! こんなにも愛してしまうなんて……いったいどうしたらいいのだろう。
杏那は複雑な思いを抱きながら、エンリケの背中に腕を回した。
もう余計なことを考えるのはやめよう。今、この瞬間が大事だから、残り少ない時間を大切にしたい!
ギュッと彼の服を握り締めた時、エンリケのキスが鎖骨へと移った。
強く吸われたかと思ったら、舌で優しく慰めるように撫で、再び強く吸う。
そのキスにうっとりしていると、エンリケは徐々にトレーナーを肩から下へ引っ張り、豊かな膨らみの上に顔を埋めるようにしてキスを落とし始めた。
「あっ……」
『杏那……君が見たいんだ。許して欲しい』
杏那の目を見ながらそう言うと、エンリケはキャミソールを下へ擦らした。
乳房が跳ねるように揺れ、エンリケの目に晒される。
外気に触れて、すぐに乳首が硬く尖った。
『杏那……綺麗だ、とても』
エンリケは乳房を揉みしだき、ラズベリー色の乳首を指の腹で転がす。
敏感になったそこはすぐに硬くなり、自己主張するようにツンと上を向いた。
恥ずかしくもあるが、こうやってエンリケから称賛に似た輝く目で見られていると、嬉しくてたまらなかった。
エンリケが親指で円を描くようにそこを愛撫すると、杏那の口から堪えきれない喘ぎ声が漏れる。
既に下腹部の奥深い場所は熱くなり、下着はしっとりと濡れいていた。
エンリケもそれはわかっているだろう。
杏那はジッとしていられず、何度ももぞもぞと足を動かしているのだから。
だが、エンリケは杏那をさらに煽るように、乳房に顔を埋めたと思ったら乳首を口に含んだ。
「あっ! んん……っぁ、そこ……はぁん」
杏那はエンリケの頭を掻き抱くように抱き締め、その愛撫に陶酔する。
その舌遣いは、杏那を翻弄させていく。
まるで、いくつもの舌に絡めとられているようで、考える力をなくしてしまう。
こんな体験をしたことは、今までに一度もなかった。
「っぁ、っぁ……っ、っぁん……ダメ!」
乳房を愛撫されているだけなのに、下着はもう既にびしょ濡れで、少し動けばいやらしい音がしそうだった。
それぐらい、杏那の躯は解放を求めている。
嘘でしょ? ……まさか、もうイキそうなの!?
エンリケが乳首を強く吸った途端、杏那の躯はビクッと跳ね上がった。
それだけでは終わらない。
もう一方の乳首を指でキュッと摘まんだ。
その瞬間、杏那の躯は大きく跳ね上がった。
「っん、はぁっ、……あぁぁぁぁ!」
エンリケはすぐにキスをして、杏那の至福の叫びを封じる。
彼の体重が重かったが、それさえも喜びに感じた。しっかりと彼に抱きつき、態度で愛情を伝える。
躯を密着させるせいで、ビクンビクンとする躯の震えがエンリケに伝わっても良かった。
彼がこんなにも、杏那を淫らに感じさせたのだから。そんな風に乱されて、杏那自身とても嬉しかったから……
エンリケがゆっくり身を引くのを覚えて、杏那は息を整えられないままゆっくり瞼を開けた。
エンリケは真摯な瞳をこちらに向けている。彼の瞳の光彩まで見て取れるほどだった。
その瞳には、後悔とか疾しさとか一切浮かんでいないが、秘められた炎がちらちらと燃えているように見える。
それは、杏那を愛する想いだろうか。
『女性が発する喘ぎ声は万国共通とは言い難いが……』
エンリケの瞳が、そこで貪欲げに光る。
『杏那の吐息は……俺に火をつけ燃えあがらせる』
彼の言葉に躯は興奮し、欲望が募る。
だが、最初に言った言葉が心に引っかかった。
もちろん、エンリケがそう思うのは当然かも知れないが、今ここでそんな話をしないでと声を上げたくなる。
『……男性が触れたがる場所は、万国共通なのね』
口を閉じられず、杏那は同じような言葉をエンリケに返した。
すると、エンリケは一瞬で綻んでいた口元を引き締め、杏那に冷たい眼差しを向けた。
そうかと思えば、いきなりキスを奪いにきた。
征服させるように無理やり舌を絡め、全てに刻印を押すようなキス。
普通なら乱暴な行為だと押し返すところだが、杏那は彼のキスに自然と応えていた。
男性の独占欲に、自ら飛び込んで絡めとられたかったのだ。
エンリケの肩にしがみつき、さらに躯を密着させる。
ズボン越しからでも、はっきりと彼の興奮した証が伝わってきた。
見なくても手で触れなくてもわかる。
それはきっと硬く大きくなって、怒張しているに違いない。
まだ露になっている乳房を、下から救い上げられるように揉みしだかれると、杏那は再び快感に打ちのめされた。
「……っんんぁ」
何も邪魔されずに、素肌で触れ合いたい!
「Mi Amor ..... (俺の愛しい人)」
かすれ声だったが、その言葉が杏那の心にまで響いた。
エンリケが、ミ・アモーレって言ってくれた!
「エンリケ……!」
嬉しくて嬉しくて、涙が出そうだった。
――― ♪
どこからか、リズミカルな音が聞こえる。
これは何の音? ――そう思った時、エンリケがゆっくり身を起こし、杏那の瞼にキスをした。
『杏那。君の携帯が鳴っているんじゃないか?』
携帯? あっ、……携帯ストラップ!
杏那の瞳に浮かんでいた情熱の炎がパッと消えると同時に、すぐに躯を起こした。
今は、まだ……エンリケにストラップを見せられない。
きちんと、自分の嘘を詫びてからでないと、本当のことは言えない!