硬く大きく漲る泰成自身が、千珠の柔らかな温もりに何度も突き刺さる。
埋め込まれ、抜かれ、再び奥深くまで侵される。
尾てい骨から躯の芯を駆け抜ける甘い潮流に、千珠は成す術がない。
送り込まれる快感だけに意識を集中し、汗で滑る泰成の背をしっかり掴んだ。
「あっ、あっ、ダメッんん、やぁん! ……っぁ、はぁん!」
ぐちゅぐちゅと立てられた淫靡な音が、どんどん大きくなる。
泰成の愛撫で生まれた愛液がどんどんあふれ、より一層泰成の律動を助けていた。
「千珠、……千珠っ!」
切なげな声で泰成に名を呼ばれる。
薄ら目を開け、彼の背中から腰にかけてしなるその動きをうっとりと眺める。
その時、泰成がさらに身を倒し、千珠の尻がグッと高く持ち上げた。
彼のものが膣奥にあたって苦痛の声を漏らすが、千珠のそれは彼の口づけでくぐもったものに変わった。
泰成の抽送のリズムが速くなる。彼の大腿が激しく千珠の肌にぶつかり、汗で引っ付く音が耳に届く。
千珠は奥深くまで貫かれるたびに声を上げるが、全て泰成の口腔に吸い込まれる。
舌を絡められながら、激しい突き上げを受けた。
天と地、いったいどちらを向いているのかわからないほど情欲の嵐に翻弄される。
もうダメ……、ああ助けて……助けて!
千珠は、泰成の執拗な口づけを逃れて空気を求めた。
押し寄せては引く、荒れ狂う快感の波に揉まれて彼の背中に爪を立てる。
もっと長引かせたいという気持ちが心のどこかにあったが、痛いぐらいの甘い刺激のせいで限界も近かった。
「ああ……っ、イヤ、ダメ……っんぁ、もう、イ、イクッ!」
千珠はすすり泣きに似た喘ぎで、泰成の耳元で気持ちを打ち明けた。
「千珠……っ! 私はそなたを……愛しているっ!」
愛の告白を受けた瞬間、千珠の細胞の組織全てが歓喜で震えた。
脳に伝達するよりも躯が反応し、猛る泰成自身をギュッと締めつける。
泰成は身震いをして咆哮を上げた。そして、千珠の膣奥に熱い精を迸らせた。
「うああっ! くっ……!」
その瞬間だった。
「きゃああぁぁ……っ!!」
千珠の瞼の裏で火花が散ると同時に躯がビクンと跳ねた。背を弓なりに反らせ、天高く舞い上がった。
愛してる……、泰成を愛している……
声にならない想いを頭の中で囁き、そのまま快楽の世界に達した。
千珠を抱く、泰成の強い力や体重さえも愛おしい。
千珠は彼の体温を求め、しっかりと抱き返した。
泰成の肩に、濡れた吐息を何度も吐き出す。それに比例して、千珠の四肢から徐々に力が抜けていった。
だらりと手足を伸ばすが、まだ漲った泰成自身が膣奥にあたる。
それがピクリと膣内でしなるたび、千珠の全身に快感が巡る。
「ああ……っ」
自然と喘ぎが零れた時、泰成が千珠の上に倒れ込んだ。
千珠は力の入らない腕を持ち上げて、汗で濡れる泰成の背中に回す。
お互いの躯がぴったりと重なったことで、激しく高鳴る鼓動さえも伝わってきた。
これからもこうして抱き合っていきたい。
千珠は願いを込めて、泰成の汗で湿った背を上下に撫で上げる。
その時だった。
リン、リリン……
快楽の余韻にうっとりと浸っている時に、その音が千珠の耳に届いた。
「……えっ?」
ハッとするなり目を見開き、薄暗い天井をじっと見つめる。
今の音は、もしかして……鈴の音? でも、どうして自分の局にいるのに、あの鈴の音が聞こえるのだろうか。
あの鈴の音が聞こえるのは、桜の近くにいる時だけ。
この時代で目にした大樹の桜は、泰成の東の対屋からさらに遠く、主殿のさらに向こう側にある。
こんなところにまで聞こえるはずがない。
それなのに、どうして千珠の耳に聞こえてくるのだろう。
愛し合ったあとの独特な空気に包まれて、千珠は幸せな気分を味わっていたが、鈴の音を聞いた直後から、空気が重くなる。肌に刺すような冷気さえ漂い始めた。
「……千珠?」
無意識に震え、泰成を強く抱きしめたのだろう。
泰成が上体を起こし、不審げに千珠を見下ろしてくる。
「どうかしたのか? もしかして……無理をさせてしまった?」
「ううん、違う。そうじゃ――」
そう言った瞬間、またあの鈴の音が風に乗って千珠の耳を刺激してきた。
躯がゾクッとし、千珠はたまらず泰成の背に回した両腕に力を入れて自分の方へ引き寄せた。
「い、イヤ! お願い……まだ離れないで! まだ、わたしを抱いていて……」
すがるように泰成を抱きしめた。
「ああ。私は千珠の傍にいる。そなたの傍に、これからもずっと……」
これまでの千珠なら、泰成の愛の告白に躯が燃えるように熱くなっていくのが常だった。
でも、今はそんな風にはならなかった。
あの鈴の音が、千珠をどこかへ連れていこうとする恐怖が付きまとってくる。感情が全く燃え上がらない。
そんな思いを泰成に言えるはずもなく、千珠はただひたすら彼を強く抱きしめた。
まるで、目に見えない黒く冷たい手から逃げるように……