4万HIT記念企画♪
Summer vacation 2
寛は、あたしのアノ出来事があった日にバイトを辞めた。
ちょうど木嶋さんが復帰出来る事になったからだと言うが、それは絶対あり得ない。
だって、アノ事があった後、寛は片時もあたしを離そうとはせず、帰路はずっと腰を抱いていたから。
あたしを一人にさせたくないって事なんだろうか?
それとも…もうすぐ二人が離れ離れになるというのがわかったんだろうか? 二人だけで過ごす時間が、だんだん減っているという事を…。
そして、今日は念願のデート!
前にスリットが入ったデニム地のスカートに、白のキャミソール、大きくV字に開いたベージュの重ね着用のシースルーを着た。
うん、ちょっとは女っぽい?
待ち合わせの時間になり、彰子は鞄を持つと階下へ降りた。
外へ出ると、門扉に寛が佇んでいた。
「チャイムを押してくれてよかったのに!」
「いや……。駅とかで、待ち合わせってしてみたかったけど、そこで一人で待ってる勇気ないし、それならここで待っててもいいかなってな」
照れたように言う寛に、思わず抱きつきたくなった。
必死にその衝動を意思で押え込んで、嬉しそうに微笑んだ。
「あたしも、駅で待ち合わせなんかしたくない」
寛の腕に手をかけた。
「……行こうか」
「うん」
何ていい雰囲気なんだろう! あたしにもこんな日が来るなんて。
輝くばかりの太陽を見上げ、感謝をするようににっこりした。
二人が来た場所は映画館だった。
もちろん、二人で映画を見ようと決めたからだ。
「プレミア、2枚」
ぷ、プレミア?!
「ちょっと、寛。あたし普通のでいいよ! わざわざ高いスクリーンを選ばなくても」
寛の肘を引っ張って詰め寄るが、そんなあたしの言動におかまいなし。
チケットを受取ると、中へ促した。
「寛!」
「いいだろう? デートなんだ。お前は二人っきりで映画を見たくないのか?」
「見たいけど、でも」
「いいんだよ」
でもさ、同じ映画なのに。
納得がいかないまま寛と歩いて、プレミアルームへと入るが、そこにいる無数のカップルを見て驚いてしまった。
「こんなにいるの? 高いお金を払ってまで見ようという人」
寛は、笑いながら空いてるソファへと導く。
「高いと言っても、そんなに高くないじゃないか」
「でも、レディース・デーの料金で考えたら、映画2本も見れて、ジュースも買えるのに」
おもむろに、寛が肩を抱いてきた。
「いいの。デートなんだから。友達と見る映画と、カップルで見る映画って、やっぱり違うだろう?」
まぁ〜、それはそうだけど……さ。
でも、ホテルのラウンジのような雰囲気があって、ちょっと尻込みする。何だが、場違いのようで……。
チラリと寛を見ると、優雅に寛いでいる。
「寛って……もしかして、初めてじゃないの? このプレミアスクリーンで見るの」
「……あぁ、初めてじゃないよ」
そっか…そうだよね、当たり前だよね。あたしってば何聞いてるんだろう? 二宮さんとのデートの時、きっとプレミアで見たんだ。
「俺は嘘は言いたくないんだ、彰子」
自分の殻に閉じこもった彰子に、突然寛が言い出した。
寛の目を見ると、真剣な眼差しを向けていた。
「昔は昔だよ。今は、俺の中を占めてるのは彰子だけだ。もちろん、昔もそうだったけど、当時彰子は俺を無視してたし」
だって、それは!
口を開きかけた時、寛は頭を振った。
「わかってる。今はもうわかってるさ。ただ俺が言いたいのは、過去は消せないって事。だけど、今の俺はお前だけを見てるんだ。それは忘れないでくれ」
確かに、寛は今現在のあたしの彼。何も心配する必要はない。
今を見つめていれば……。
「ほらっ、中へ入ろう」
寛は彰子を促すと、その甘い空間の中へと入った。
映画は確かに面白い。
冒険心に溢れていて、戦いのシーンが繰り広げられ、二人の男との板挟みに遭う美しいヒロイン。
でも、そう簡単には集中なんて出来ない。
卵形をしたラブシートは、他の誰の目からも隠していた。
いわゆる、カップルだけの世界が保たれている。
センターの肘部分は、上に持ち上げられ、ラブチェアに座ってる雰囲気だった。
そう、独立したスタイルで、映画が見れる。
独立してるからこそ、孤立しているのも事実だった。
寛の腕はずっと肩に回され、二の腕を何度も上下に撫で上げる。
それでいて躰はぴったりと寄り添い、寛の熱があたしの身を焦がそうとするほどだった。
こんな状況では、見ようと思っても見れるものではない。
目は映画を見ているのに、意識は隣の寛に集中し、心臓は激しく高鳴るのだから。
ヒロインが、とうとう一人の男性の胸に飛び込んだ。
これ以上離れ離れになるのは嫌だと。
二人は舌を絡ませて激しくキスするシーンは、ジーンとくるものがある。
でも……
「彰子……」
肩にあった寛の腕が、首を抑え込んだ。
そして、膝に寛の手が置かれる。
ビクッと躰が震えた。
もちろん、ヒロインも喘いでいた。
「寛、ダメ」
擦れた小さな声で言うのに、その声を寛が塞いだ。
スクリーンのヒーロー同様、寛もキスしてきたのだ。
「っんん……ダメったら」
「シッー、声を出さないで」
寛の手は、大腿の内を円を描くように撫でる。
「本当に、ダメ。気付かれるよ」
「大丈夫。何の為のラブシートだと思ってるんだ?」
って、事は、あの隠れて見えないシートで、カップル同士はあたしたちみたいにイチャついてるって言うの? でも、やっぱりやだ。公衆の場でこんな事出来ないよ。
「寛、イヤ! だって、こんなの……アダルトビデオ見ながらするみたいだよ 」
思わず脳裏に浮かんだ事をそのまま口に出してしまった。
それを聞いた寛は、きょとんとなり、そして肩を揺らしながら口を押さえて笑った。
「ごめん、そうか。そうだよな。お前がそう思っても仕方ないな。でもな、俺がお前に触れたのは、触れずにいられなかったからさ。それだけはわかってくれ」
そう言うなり、再びスクリーンに顔を向けた。
もちろん、あたしの肩を再びしっかり抱き寄せて。
え〜と、え〜と……うん? よくわからないんだけど。
まぁいっか、 こうして無事に映画に集中出来るわけだし。
と、安易に考えたが、それは大きな間違いだった。
寛の存在を肌で感じていて、映画に集中出来る筈がなかったのだ。