急いでパンティを取り上げて躯の後ろに隠した時、叶都の母がソファにいる乃愛に目を向けた。
「足りないものはない?」
ベッドが乱れていないことに安心感を覚えたのか、少しホッとしたような面持ちで口を開く。
「はい……全て足りています」
乃愛の言葉に、叶都がプッと噴き出す。女二人が彼に視線を向けても、その口元は綻んだままだった。
「……さあ、もういいだろう。出てってくれ。……乃愛がカテキョになってから、一度も部屋に来たことがないのに、いきなりその態度は何? 母さんは、いったい何を確認したかった?」
叶都の母はいきなり慌てて、動揺を隠せないまま躯の前で両手を手もみする。
「せっかくのイブなのに、里井さんがこうして来てくれたんだもの。その、少しは楽しんで欲しいなってお母さんは思って……」
「ああ、俺らは楽しんでる! それをぶち壊したのは母さんだ。早く出て行ってくれ」
「わ、わかったわ……。里井さん、何か欲しいものがあったら下へ取りにきてくれて構わないからね」
突然話しかけられて、乃愛は急いで頷いた。
「あ、ありがとうございます」
もう一度乃愛の全身に視線を向けて、何かを探るように見つめるものの、安心したように頷くとそのまま部屋から出ていった。
叶都が、いつものようにドアに鍵をかけてこちらを向く。その視線を受けて、乃愛は脱力するようにソファに腰を落とした。
「よ、良かった〜! 特に疑われなかったみたい」
「それは、乃愛のお蔭だな」
「えっ?」
口元を綻ばせながら、乃愛の方へ近寄ってくる。
「服を着たままでも……、俺が触れられるような格好で来てくれたから」
乃愛に覆い被さるように身を傾けるとセーターの裾を掴み、そのまま上に引っ張り上げながら乃愛の耳元で囁いた。
「続き、していい?」
訊ねておきながら、叶都は乃愛の捲り上げて乳房を露にした。
「もう親は来ない。だから、気兼ねなく声を出せる。乃愛を気持ちよくさせてあげる。いいだろ?」
両手で乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだく。
「乃愛……、俺が欲しいって言って。俺とセックスがしたいと……」
懇願するような声音が、燻り続けていた乃愛の躯に火を点ける。
叶都を求めてるってわかってるのに、どうして言葉を欲しがるんだろう?
それでも求めてくれることが嬉しく、乃愛は口元を綻ばせながら叶都の首に両腕を回し、唇が触れ合うまで近づいた。
「叶都に愛されたい……、今、すぐにでも……」
叶都が身を起こすと、乃愛もつられて立ち上がった。
これからどうするの? ―――と訊ねようとしたら、叶都が乃愛の手首を掴み、そのまま身を離すように手を下ろされてしまった。
まさかの拒絶!?
呆然とみつめる乃愛に、叶都がいきなり身を倒した。タックルするようにして両足を腕で挟むと、一気に身を起こした。
「キャッ! か、叶都!」
天と地が逆になったことで、叶都が乃愛を荷物のように肩に担いだのがわかった。彼の腰に手を置いて、頭に血が昇らないように少し身を起こす。
「叶都! これは、いったい……キャッ!」
またも視界がグルッと回る。気付いた時は、背中に柔らかい感触が当たり、ベッドに仰向けになっていることがわかった。
そんな乃愛に、足元から叶都が近寄ってくる。
「一度、海賊のように女を掠ってみたかったんだ。好きで好きで……堪らない女を奪うために。俺という男を意識させるために」
乃愛の脳裏に、まるで海賊映画の一場面が浮かんだ。旅客船を攻撃した盗賊に捕えられ、その船長に寝室まで連れ去れる光景が。
なんて乱暴な――と言いたいところだが、何故か乃愛の心がドキドキし始めた。
その気持ちを知られないように手を上げ、叶都の頬に触れる。
「わたし、十分に叶都を意識してるのに……。初めて会ったあの日よりも、叶都に抱かれた一週間前よりも、今の方がもっと好き」
奪って欲しいと思うぐらいに……
新たに気付いた自分の気持ちに驚きながらも、こういう気持ちを抱くのもいいように思えた。嬉しそうに乃愛を覗き込む叶都の瞳が、キラキラと輝いているからだ。
えっちな女の子と見られることに、多少怯んでいたことは事実。
でも、叶都は気にしていない。寧ろ、大胆になって欲しい節があるようだった。
二人だけの時には、恥ずかしがる必要は全くない。親密な行為をする時は、生まれたままの姿になって愛し合う。二人は対等という意味なのだから。
叶都の手が、乃愛の大腿を撫で上げた。秘めやかな部分に触れたかと思ったら、指が膣内に侵入してきた。
「っあ……」
「大丈夫。まだ濡れたまんまだ。……美味しそう」
叶都の母親が部屋に来なければ、彼を受け入れて、今頃は快楽の世界に漂っていただろう。
そのことを考えた途端、降下していた昂ぶりが急上昇してきた。
叶都は乃愛の大腿を掴んで、左右に押し開いた。躯を下に移動させ、乃愛の恥毛を鼻で撫でたかと思うと、襞に沿って舌で舐め出した。
「あああっ! い、イヤ……だ、ダメっんん」
「本当に? これは嫌? して欲しくない?」
舌での愛撫をいきなり止められ、乃愛は抗議の呻きを漏らした。
本当にイヤだったら、身を捩って離れようとするってわかってるのに。わたしに気持ちいいと言わせたいの? ――思いを目で伝えるように叶都を見る。
思いが通じたのか、乃愛の股間から顔を上げた叶都の視線と重なった。その瞳は、いたずらっ子のようにキラキラしている。
気持ちいいって言えよ――という、叶都の言葉さえ聞こえてきそうだった。
「乃愛? じゃ、止めようか……」
身を起こそうとする叶都の動きを見て、乃愛は考えるよりも先に口走っていた。
「ヤダ! もっと……シて」
にんまりと口元を綻ばせる叶都。
「わかった……。乃愛が止めてと叫んでも、一度イかせてやる」
大腿に手を置くと、再び乃愛の秘部に顔を埋めて舐め始めた。小刻みに舌を震わせて、その振動を送り込んでくる。
「あっ……あっ、いい……っんん!」
襞を探るように舐めたかと思えば、叶都の手が大腿から秘部に伸びてきた。襞を押し広げて、さらに唇を寄せる。
「……っあ、ダメッんん、っん、ああっ!」
ぷっくりと膨らんだ蕾に、叶都が舌で刺激を加えてきた。さらに、指を挿入させて、セックスを連想させる動きをする。
愛液が溢れてくちゅくちゅと鳴る。恥ずかさを覚えるほど愛液が滴り落ちているのに、襲いかかる甘い電流に翻弄され、乃愛は絶え間なく喘いでいた。
躯が勝手に震え、堪らなく何度も頭を振る。
「叶都……ダメ……、わたしっ、あっ……」
「いいよ、イって。ずっと俺に弄られてて、欲求不満になってただろ?」
「そ、そんなこと……あんんっ」
舌で蕾を弄られるたびに、甘い電流がお尻か背中を駆け抜けて脳天まで突き抜ける。それがわかっていて、叶都は指の挿入のスピードを速めた。
「キュッて締まって俺の指を締め付けてきた。ほらっ、イけよ。……乃愛!」
叶都の声と同時に、強く蕾を吸われた。
その瞬間乃愛は躯を硬直し、強い風に煽られて天高く飛翔した。一瞬にして周囲の音が聞こえなくなり、心地よい快楽に身を投じた。
もっとその場で漂いたいのに、乃愛の意識も躯も一気に急降下していく。それに合わせて躯も弛緩し、ベッドの柔らかさに意識が向き始めた。
早鐘を打つ心臓。呼吸が荒いのもわかっているのに、どうすることもできない。
しばらくぐったりしていると、叶都がそっと乃愛にキスをしてきた。それを受けて、いつの間にか閉じていた瞼をゆっくり開けた。