『17teen、ココロごと愛して』【9】

 暗闇の中、莉世は大きくて力強い温かい手に抱き寄せられた。
 その彼からは男らしい香い、大きな肩幅、逞しい胸板、引き締まった腹部が感じらる。どれをとっても安心できる……ココロから寄り添っていられる相手だとすぐわかった。
 莉世は、切なげに手を包み込んでは甲に頬を擦り寄せる彼の事が、愛おしくてたまらなかった。
 一貴、こっちを向いて。……わたしにキスして。
 一瞬その彼が硬直するのがわかったが、立ち上がると真綿で包むように優しく抱き締めた……かと思えば、乾いた皮が肌を締めつけるように、莉世をきつく抱擁してきた。
 温かい息が唇にかかる。微かなお酒の匂いが漂ってきたかと思うと、柔らかい感触が唇に触れた。慣れ親しんだ唇を求めるように擦り寄ると、彼の髭がチクッと莉世の柔肌を擦った。
 一貴……好き、大好き。……愛してる。
 
 
「……愛してる」
 そう呟きながら、莉世は深い闇から覚醒した。
 一貴は、心配そうに莉世の瞳を覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
 莉世は、微笑みながら頷いた。
「大丈夫。とっても……とっても凄かったけど」
 一貴は顔を寄せると、莉世の鼻に自らの鼻を擦りつけた。
「かなり強烈だったみたいだな。あの場所が、お前にとって最高の快感のツボという事か。その場所を……俺だけに見せてくれて嬉しいよ」
 一貴が嬉しいと、わたしも嬉しいよ。
 莉世は微笑みながら、一貴に擦り寄った。
 二人はいつの間にかダブルベッドで横たわっていたが、まだ裸体のままだった。
 擦り寄った時に、少し硬くなった一貴自身がお腹に触れた。
「一貴、大丈夫?」
 一貴は苦笑いを浮かべた。
「大丈夫……とは言い難いが、これくらいなら何とかなるだろう。それに、莉世は一度失神したから、少し時間を開けた方がいいしな。……朝起きたら、俺の相手をしてもらうよ」
 でも……男の人って、大変なんでしょ? 硬くなったままじゃ。
 莉世は、乳房が露になっても気にせず、肘をついて一貴を見下ろした。
 えぇ〜っと、確か手や口や舌で触って欲しいって雑誌には書いてあったけど、一貴はどうなんだろう? ……ってそれより、わたしは口でする勇気はあるの?
 一貴に許すまで、1年はかかったっていうのに。
 もちろん、1年待った甲斐はあった……というか、待ったなんてバカみたいって思う気持ちもあるけれど、でもそれは気持ちが追いついたからで……。
「眉間に皺を寄せるぐらいなら、ごちゃごちゃ考えるな。俺は大丈夫だ」
  一貴は、莉世の肩を抱き寄せると、そのまま身を横たわらせた。
 もしかして、わたしの考えてた事がバレてた?
 莉世は頬が熱くなるのがわかると、一貴の肩に頬を寄せた。
「わたし、やっぱりダメね」
 目の前にあるチョコレート色に似た一貴の乳首に、ゆっくり指で触れた。
「そのアンバランスがいいんだ。俺は徐々に成長する莉世を見守りたいし、その都度俺が立ち会いたいと思ってる」
 一貴は、動く莉世の手を上から握り締めた。
「お前は、本当にどんどん女へと成長している。躰が先行してる部分もあるが、ココロもきちんとゆっくり成長してきてる」
「……そんなわたしでも、愛していてくれる?」
 一貴がその言葉に反応するように、莉世のこめかみにキスをした。
「お前が俺の前に現れた時から、ずっと愛していたよ」
 わたしが、日本に戻ってきてからずっと?
 莉世は口元を緩めながら、愛おしそうに一貴を見つめた。
「わたしも愛してる」
「よし! 俺を愛してくれてる莉世に……バースデープレゼントだ」
 えっ?
 莉世は、少し躰を起こして一貴を見た。
 その手には、小さな箱がある。
「一貴、わたしはもう貰ったよ。素敵なお店、素敵なディナー、素敵なホテル、素敵な……愛され方。どれも素晴らしいプレゼントだった。これ以上もう、」
「昔と違うんだ。俺はもう学生じゃない、社会人として働いてる。それに、お前はただの知り合いの娘じゃない。俺の女だ。そうだろ?」
 俺の女……か
 莉世は、躰の中心からさざ波のように広がる温かさを感じた。
「ほら」
 戸惑いながらも、莉世はその包みを受け取った。
「わたし、イベントがある度に貰ってばかり。それなのに、わたしは何もしてあげられない……」
「何故? 俺を愛してくれてるんだろ? それだけで俺は満たされてる。……莉世、深く考えるな。ただ俺だけの事を考えろ」
 いつも一貴の事を考えてるのに……
 莉世は、その包みを解き始めた。
「一貴は、わたしを甘やかしすぎだよ」
「甘やかしたいんだ」
 その言葉が妙にくすぐったい。
 莉世は、耳元を擽られたような甘い感覚を味わいながら、手元のプレゼントに視線を落とした。
 何だろう……、もしかしたら指輪?
 莉世は、彰子の左手薬指に填められた指輪を、いつも羨ましく思いながら眺めていた。
 独占欲の証、相手がいる事の証、愛されてる証……は、彰子を輝かせていたから。だから、わたしも一貴からそういう証が欲しかった。
 でも、そういう事は一度も言った事がない。
 莉世はドキドキしながら、蓋を開けた。
「うわぁ、素敵!」
 莉世の欲しいものではなかった為ちょっと落胆したが、それでもその素敵なアクセサリーに目を輝かせた。
 透き通るような青色の宝石・アクアマリンとダイヤが、螺旋しながら絡まり合ったプラチナのピアスだった。
 一貴の事だから、これがイミテーションの筈がない。それを証拠に宝石の鑑定書まで添えられてるのだから。
「アクアマリン……わたしの誕生石ね」
「あぁ。ちょっとしたパーティーでも大丈夫だし、普段でもおかしくない。着る服によって印象も変わるからな。どうだ、気に入ったか? 」
「もちろん!」
 莉世は、台座からピアスを取り出すと耳元に近づけた。
「似合う?」
 一貴は、莉世を情熱的に見つめてきた。
「あぁ、とっても」
 少し声が擦れる。
 こういう時の一貴が、どういう状態なのか……莉世にはもうわかっていた。
 一貴の欲望が少しずつ刺激され、そしてわたしを焼き尽くそうと燃えるのだ。
「ありがとう、一貴。大切に……大切にするから」
 そのピアスを台座に戻しサイドテーブルに置くと、莉世は感謝と愛を込めて、一貴を押し倒す形になりながら優しくキスをした。彼の素肌を唇で感じながら、大胆にも彼の下唇をそっと舌で撫でる。
 莉世の腕を捕えていた一貴の指に、強い力が加わったのがわかった。
「あぁ! 駄目だ! お前が失神から回復してまだ数分しか経っていないんだぞ。朝になるまで、俺を誘惑するな」
 誘惑?
 莉世は、クスクス笑いだした。
 突然、一貴は立場を逆転させるように莉世をベッドに押さえつけた。
「覚えておけよ。やめてと叫んでも、感じさせてやるからな」
 それって……お仕置きじゃないよね? わたしを感じさせるんだから。
 莉世は零れそうな笑みを隠して、一貴の背に腕を回して抱き寄せた。
「……うん、楽しみにしてる」
 一貴の躰に力が入り、筋肉が硬くなった。
「お前ってヤツは……どこまで俺を翻弄させれば気が済むんだ。もういい、早く寝ろ。体力を温存しておかないと、明日莉世が困る事になるぞ」
 莉世の上から隣へ移動すると、一貴は腕を伸ばして莉世を抱き寄せた。
 莉世も甘えるように、一貴の温かい躰に擦り寄った。
 その途端、莉世の瞼が重くなってきた。
 
 ありがとう、一貴。
 今日は、一貴がわたしを愛してくれてるって、すごく通じたよ。
 一貴の手で奏でられると、とてもえっちになるって事もわかったし。
 ……一貴に責任取ってもらわなきゃね。あんな恥ずかしい体位にも耐えられるようにしたんだから。
 でもね、あんな体位が出来るのも、相手が一貴だからなんだよ? 一貴を信頼しきってるから、だから身もココロも捧げる事が出来たんだよ。
 一貴もまた、わたしをココロごと愛してくれたから。
 強靭な胸板に乗せていた手を、鎖骨から男らしい喉仏、先程髭を剃ったばかりの滑らかな頬へと滑らせた。
 莉世は深い闇へと引きずり込まれながら、何故か違和感を感じていた。
 しかし、その理由を考える間もなく、そのまま力が抜けていった。
 
 
 一貴はスゥーと眠りに誘われる莉世を抱きしめ、滑らかな頬にキスをした。
「莉世……俺に全てを見せてくれて、信頼してくれてありがとう」
 その甘く掠れた声は、既に寝入ってしまった莉世の耳には届かなかった。

2006/05/25
  

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