「お、び……が」
「大丈夫だ、崩れるような事はしない」
一貴はそう言うなり、莉世の腰を手元に引っ張った。
着物を着ているせいで胸が締り、息が苦しくなる。
莉世は顔を顰めながら、その体勢が何を示すのかわかった。
これは、アノ時と一緒!
「や、ヤダ、一貴!」
後ろを振り返るが、一貴の断固たる意思の強さと、欲望で開かれた目を見て……もう何を言っても無駄だと思った。
一貴は……今、わたしを欲しがってる!
一貴は素早くズボンを緩めて、ポケットから一つの包みを取り出した。
コンドーム。
莉世は、一貴が既に大きくそそり勃つ自分自身に装着するのを、驚きの目で見つめた。
「っぁぁ……」
莉世は瞼をギュッと閉じた。
男性の生理的現象はわかっていたつもりだった。それを受入れてるという事もわかっている。
わかってはいたが、たったちょっとの触れ合いで一貴は……。
意識をしたせいで、秘部が生き物のように蠢く。
「声……顰めるんだぞ?」
耳元で囁かれた途端、一貴がゆっくり挿入してきた。
「っぅんっ!」
まるで飲み込むように、一貴を迎え入れてる。
「っぁ」
一瞬、ピリッと痛みが走った。
やっぱり、この体勢はヤダ……。痛いし、一貴にも触れられないもの。
莉世が顔を顰めた後、一貴が満足そうな吐息を漏らした。
それは、二人がぴったり重なった事を示している。
一貴は、しばらくすると律動を始めた。
「っぁん、ぁぅ」
莉世は、声を出さないよう努力してるつもりだったが、自然と漏れていた。
「莉世、抑えるんだ」
無理、絶対無理! そんな事を会得しようとする事が間違ってる。一貴に触れられて、愛されてるから……こんなにも感じてしまうのに。
一貴の手が再び茂みに触れる。
「っぁぁぁ……」
奥まで突いてくる圧迫と痛み、それを引き換えにするような甘い快感が躰中を駆け巡る。
わかってる……一貴はわかってくれてるんだ。わたしがこの体位が辛いって事を。痛みが走るという事を。
だから、一貴は愛撫の手を伸ばして…わたしを感じさせようと、飛翔させようとしてくれる。
莉世は、もう力が入らなかった。
膝はガクガクし、立っているのが精一杯。手首で支えていた躰も、一貴の突き上げる力で、ドアがガタッガタッとリズミカルに動く。
「もう……ダ、メ…」
莉世は、瞼を閉じて頭を振った。
これ以上耐えられない。
激しく収縮する膣から、もう限界に近い事がわかる。
「はぁぅ……っん、かず、きっ」
一貴が、微妙に速度とリズムを変えたのだ。
まるでドラムを打つかのように……膣内(なか)を擦るように律動する。
それが、また莉世を狂わせた。
今までと違った快感が、躰を支配したのだ。
それに加え、一貴はぷっくりと膨らんだ蕾の周囲に、何度も愛撫の手を伸ばす。
莉世の躰は、自然と動いていた。一貴のリズムに合わせて。
いや、一貴が莉世のリズムに合わせて。
「あぁ、ダメ……もぅ、ぅ……っぁん」
本当に、もうダメ。一貴、わたし!
莉世は、押し寄せる波に備えて、思い切り強く拳を握り締めていた。
それを見た一貴が律動を早めると、一瞬で蕾を撫でた。
「っきゃぁぁ!」
莉世は、躰をのけ反らせた。
声は、最初こそ漏れたが、すぐさま一貴が顎を支えてキスで封じ込める。
くぐもった声は、一貴の口内に吸収された。
莉世は、きつい体勢でキスを受けながらも躰を痙攣さえ、そのまま崩れそうになった。
しかし、一貴がしっかり莉世の腰を支えていた。
莉世が息を整える間もなく、一貴はもう一度何度か律動を繰り返して欲望を解き放った。
一貴が腰を離した瞬間、莉世は力尽きたように、へなへなとその場に崩れ落ち、額をドアに押しつけた。
信じられない……、わたし、しちゃったよ。もちろん、抱いて欲しいって気持ちは、確かにあった。あったけど、階下には両家の家族がいるのに!
未だ勝手に収縮を繰り返す秘部に、莉世は手を震わせた。
「ほら、立って」
既に身仕度を整え、バスルームからタオルを持ってきてくれているそのバイタリティに、莉世は呆然となった。
何故そんなに…意図も簡単に動けるの? わたしだけが…いつも翻弄されてしまってるって事?
莉世は、何故か悔しいという気持ちが沸き起こってきたのを感じた。
一貴にも、わたしみたいにめちゃくちゃに感じて欲しい…って思うのに。
……一貴って、感じてるの? そのぉ、わたしみたいに?
莉世は、一瞬表情を曇らせた。
「何不機嫌そうな顔をしてる。……かなり感じていたと思ったんだが?」
眉を上げてニヤリと笑う一貴に、莉世はボディージャブを一発お見舞いした。
「させ過ぎだよ!」
怒るかと思いきや、一貴は満足そうに口角を上げた。
「……ほらっ、立って。拭いてやる」
腕を取られて立たせられると、一貴は莉世の愛液を丁寧に拭った。
「昔も、こうやって拭いてやったな。あの時は、おもらしをしてしまった時だったが。その染みも未だ残ってるが、今日は……新たな染みを作ったな」
おもらしという言葉に、莉世は顔を赤くさせていたというのに、違う染みの話をさせられ、しかも真下にある現実の染みを見て、莉世は顔を真っ赤にした。
「一貴が抱かないって言ってたんだよ。なのに、ここで……」
「う〜ん、この部屋だったから抱きたかったのかも知れないな。お前が悪いんだぞ。俺が自制心を働かせているというのに、ベッドルームに入りたいと言うんだから」
……わ、わたしのせい、ですか?
莉世は言い返したかったが、確かに秘密の部屋とも言うべき部屋に入ったのは自分だった。
「じゃぁ、気軽に男性のベッドルームに入るのはよくないんだね?」
「当然だろう? そんな事も知らずに、過ごして来たのか? ……まだまだお前を教育しなければな」
顔を顰めた一貴を見て、莉世は笑いが込み上げてくるのがわかった。
だが、必死にそれを押し止め、脱ぎ捨ててあるパンティに視線を向けた。
「……どうしてくれるの?」
莉世は、パンティを指した。
「仕方ないな」
仕方ない? ……濡れてるパンティを履けって言うの?
だが、一貴はそのパンティには見向きもせず、クローゼットを開けた。
その中から、一つパンティを取り出すと莉世の足元に跪いた。
「ほら」
そう言われたが、莉世の足は動かなかった。
「どうした?」
一貴は、下から莉世を仰ぎ見る。
わかってるの? どうして一貴の部屋に女性物の下着が? 誰か…一貴の元恋人が残していった物なの?
莉世はこういう事態が起こると、どうしても口が重くなる。
素直に聞きなさい、莉世。
思い出すの! 昨日、初詣でお願いした…お祈りした事を。
「ぁの…」
口ごもりながら、ゆっくり声を発するが、一貴がそれを塞ぐように口を開いた。
「これが誰のモノなのか……なんて気に悩む必要はないぞ」
「えっ?」
「新品未使用……誰のモノでもない。否、違うな……これは莉世のモノかな」
「わ、わたし?!」
それってどういう事なの?
莉世は、思わず聞き返そうとしたが、一貴の表情を見て口を噤んだ。
唇を引き締め、眉間を寄せて難しい表情をしていたのだ。
莉世は何も聞く事なく……恐る恐るレースがついたピンク色のパンティに足を通すと、 一貴がそのまま上へ引っ張り上げた。
そして帯に挟んだ肌襦袢を下ろした後、着物も下ろしてくれた。
帯も緩まってなければ、胸元の合わせも乱れていない。
まるで、何もなかったかのようだった。
視線を上げると、一貴が守るように莉世を見下ろしていた。
「大丈夫……だったろ?」
「着物はね」
莉世は頬を染めると、照れたような笑いが口元に表れた。
「歩けるか?」
「なんとか……」
下半身に残る心地よい気怠さを感じながら、莉世は壁に手をついた。
「さぁ、向こうへ行こう。このままココにいたら……次は2回戦だぞ?」
「あっちへ行こう!」
莉世は、真剣に頷きながらそう答えた。
それを見た一貴は、喜んでいいのか悲しめばいいのか……それとも怒ればいいのかわからないといった…複雑な表情をしたまま表情を歪ませた。
「……落ち着いたら、口紅を塗り直せよ。剥げてるからな」
莉世は唇に手をあてた。
言われるまで気付かなかったよ。……うん、一貴の言うとおり、ソファに落ち着いたら塗り直そう。
「その前に……」
「えっ?」
顔を上げた瞬間、一貴は横からキスをしてきた。
「っんんん」
舌で唇を愛撫され、莉世はブルッと躰を奮わせた。
うっとりとなりながら、ゆっくり瞼を開け、一貴の真摯な瞳を見つめた。
「こんな状態で、下になんかいけない」
「そうだな。お前は……満たされて幸せいっぱいな表情をしている」
だって、それ本当だもの。
一貴にドアを開けてもらいながら、莉世は頬が染まっていくのを止める事が出来なかった。
「こんにちは、一貴」
突然女性の声がし、莉世はハッとなって視線を正面に向けた。
瞬間、頭をガツンと殴られたような衝撃が莉世を激しく襲った。
うそ……うそ……、どうしてココに?
まるで、全てが無と化したかのように、莉世は呆然と佇んでいる事しか出来なかった。