EXCESS STORY
莉世がドアを締めた瞬間、思わず口からため息が漏れた。
「くそっ!」
一貴は、両手で髪を掻きむしった後、そのままゆっくり口元へと下ろした。
莉世の様子が、数日前からおかしかったのはとうに知っていた。
妙に空ろになって考え込み、授業中も集中していなかった。
そして、俺と会っている時も……
もちろん、今日が俺のバースデーだから……俺の望む事をさせてあげようという優しい気持ちだったに違いない。
だが、悩んで決断を下して欲しくなかった。
俺が莉世を求める時、すんなりと躰を開いてくれるように…俺に躰を開いて欲しかった。
俺の我が儘だという事はわかってる。莉世が、悩んだ末に俺の行為を受入れようとしたというのに、俺は逆に莉世を問いただすとは。
一貴はゆっくり立ち上がると、脱ぎ捨てたズボンを履きシャツを無造作に羽織った。
莉世、お前はわかっているんだろうか?
俺が、他の女たちのように……莉世を軽々しく扱っていないという事を。
俺が、とても大切にお前を想っているという事を。
もし、これが他の女なら……差し出されたものを簡単に受け取ったに違いない。だが、お前は他の女じゃない……お前は俺の大切な女だから……だからこんなにも俺はこだわってるんだ。
一貴は、そう言い聞かせはしたが……少なからずアレに影響を受けたのも事実だった。
それは……
暗闇の中、視線をゴミ箱へと移す。
外の明かりが部屋に漏れ、バラバラに破られた白い紙が光る。
思わずため息が漏れた。
その白い紙は、階下で佐伯に会った時に手渡されたものだった。
莉世が部屋にいるという事実を知らされて、歓びを噛み締めた時、その電報を受け取ったのだ。
差出人を見て、沸き上がった歓びは一瞬で冷めた。
響子……
莉世がこの紙を手に取ろうとした時、すぐに意識を俺に戻さなければと思った。
莉世に……あの文章を見せたくはなかったから。
ある意味、響子がコレを送ってきた事で、俺は莉世に対していい行動が取れたと思う。
だが……こういう手でくるとはな。
ゴミとなったその白い紙に背を向けた。
響子の手から逃れるように……
じいさんから、話は伝わっている筈なのに性懲りもなく、……否、それを知ったからこそこんな行動に出たんだな。
数ヶ月前は、俺の事に執着してる様子はなかったというのに。
逃がした魚は……大きいってワケか? それとも、演じていただけなのか?
俺は、簡単に動かせる男じゃないぞ……響子。それは十分にわかっている筈だ。
暗闇で一貴の目が光る。
俺の幸せを……お前に壊させるものか!
一貴は怒りから沸き起こる力をグッと抑えつけ、ドアを開けた。
途端、頬の緊張が解ける。
なぜなら、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐったからだ。
向こうには……俺の莉世がいる。
愛らしくて優しい莉世を求めるように、一貴はドアを閉めるとリビングへ向かった。
響子の事は、俺が何とかしよう。もし、響子が莉世を悲しませるような事をした時は……俺は決してお前を許さない!
決意を込めた時、躰の線を浮き上がらせた莉世の後ろ姿が目に入った。
先程、最後までコトを進めようとしなかった事が悔やまれる。
一貴は、知らず知らず唇を引き締めていた。
莉世が、人の気配を感じて振り返った。
一貴を認めると、莉世は優しく微笑みかけてきた。
その微笑みだけで、一貴の躰に火が灯る。
あぁ、莉世……今俺がどれほどお前をこの腕に抱きたいと思っているか、わかってるんだろうか?
……まぁ、時間はあるさ。
食後、軽い運動とは言わず……激しい運動へと誘う事にしよう。
いつも感じる…あの身も奮えるような開放感・期待感を、数十分後に莉世と共に得られるかと思うと、一貴は莉世に向かって、優しく微笑まずにはいられなかった。