一貴が見守る中、莉世はキッチンでバタバタと動き回り、出来上がった料理をリビングへ運ぶ。
そして、全て並び終えると、ろうそくを灯し電気を消した。
莉世は意識して、一貴の隣に腰を下ろした。
「ハッピーバースデー……一貴」
お祝いという事で、シャンパンを少し入れたグラスで乾杯をする。
「ありがとう。だが……これでお前との差がまた一つ増えたな」
莉世は、ゆっくり微笑んだ。
「でも、わたしも誕生日が来たら……その差は縮まるよ」
一貴は、莉世を見ながらシャンパンを口に含んだ。
ろうそくの光に反射した目は、いつにも増して独占欲を示す炎が見え隠れしている。
一瞬で胸が熱くなった。
今、どんな事を考えているのかを知られないように、そっと視線を下に向ける。しかし、すぐに一貴の指が顎を持ち上げた。
そして、そのままキスをし……口移しでシャンパンを注ぎ込む。
「っん…」
唇の端からシャンパンが流れ落ちる。
一貴は、それを素早く舌で拭った。
「美味しいか?」
味なんてわかるワケがない。でも、莉世は激しく高鳴る心臓に呼応するように、何度も頷いた。
「どうして制服なんだ? 家に戻らなかったのか?」
手の震えを悟られないように、グラスをテーブルに置く。
「ううん、戻ったよ。ケーキを取りにね。でも時間がなかったから、そのまま出てきて……」
「何の時間?」
一貴が莉世の頬を撫でる。
莉世はビクッとして、一貴の欲望に燃える目を見つめた。
「だって、明日は学校があるから……早く帰らなくちゃいけないし、それに」
「それに?」
激しく上下する乳房に、一貴の甲が触れて……莉世は絶句した。
ボタンを弄ぶように、ゆっくり外しにかかる。
「か、一貴。せっかく……作ったのに」
「そうだな、だが……時間がないんだろ?」
「でも、まだプレゼントも渡してないよ」
スカートから裾を引っ張り出した一貴は、眉間を寄せる。
「お前じゃないのか?」
莉世は喘ぐように、息を吸った。
わたしの考えを知っていたの? わたしが、一貴にあげようとしているものが何なのか……気付いていたの?
莉世は、羞恥心を隠すように頭を振った。
「待って。持って来るから……」
胸元が開かれ、半分乳房が見え隠れする姿のまま、莉世はふらつく足取りでベッドルームへ向かった。
莉世は、鞄の中からプレゼントを取り出した。
その時、隅にあるゴミ箱の中で……暗闇の中で光る白い物が目に飛び込んできた。
何? 今の?
ゆっくり近付き、 外の光で反射するその白い物を見ようと、ゴミ箱に手を伸ばした時、突然その手をきつく取られた。
ビックリして振り返ると、一貴も顔を顰めて莉世を見つめていた。
「一貴」
「さぁ、おいで」
グイッと引っ張られて、思わずベッドに倒れ込む。
「ま、待って。今、ゴミ箱の中で、」
素早く身を起こしながら言うが、その視線を遮るように…一貴がベッドに腰かけた。
「ゴミだ……何も気にする事はない」
一瞬、一貴の声に怒りが漲った。
何故、そんな些細な事で怒るのかワケがわからず、莉世はとにかく雰囲気を変えようとプレゼントを渡した。
「……そんなにいいものじゃないけど、」
「俺は、お前さえ側にいてくれれば…それでいいが?」
思わせぶりな言葉を発し、ニヤリと笑う。
「もう! 今までだったら、『ありがとう莉世』って言って、受け取ってくれてたじゃない。どうして今日に限って、」
「今日だからだろ?」
遮るように言われて、莉世は開いた口を噤んだ。
そう、今日だから……。彼女となって、初めてのバースデーだから。
「そう、だね」
莉世は、囁いた。
「開けてみて」
一貴の視線が胸元を這う。
「お前を?」
「ち、違うよ!」
顔を真っ赤にしながら言うが、躰が期待を持つように奮え始めたのは隠せる筈もない。
なぜなら、一貴はわたしの一挙一動をよく見てるから……。
しかし、一貴はプレゼントの包みを開けた。
莉世は、一貴の一挙一動を見守った。
どう? 嬉しい?
莉世は心配そうに一貴の表情を見つめていると、一貴は出てきた品物を見て大きく目を開く。
「莉世、どうしてコレを?」
「どうしてかって?」
思わず一貴の太股に手を伸ばした。
「だって、知ってるもの。一貴が…わたしの為にたばこを止めてくれてるのを。でも、わたしがいない場所では吸ってるでしょう? その時、コレを使ってくれたら…嬉しいなと思って」
光で反射するデュポンライターを、一貴はギュッと握り締めた。
「ありがとう、莉世。大切に使うよ」
良かった〜、喜んでくれて。
莉世は胸を撫で下ろした。
そして、秘密を打ち明けようとした。
蓋を開けた中に、<K&R>と名前を彫ったという事を。
微笑みながら顔を上げて告げようとした瞬間、一貴が覆い被さって唇を奪った。
その突然の行為に、莉世は目を大きくした。
そのまま後ろに倒され、短いスカートが捲れ上がったのがわかる。
肩を押しやるが、一貴の勢いは止まらない。
強く握り締めた拳が、だんだん緩んで……一貴が求めるまま、首に腕を回す。
「莉世…莉世」
甘く囁く声に、莉世は胸がいっぱいになった。
わたし、一貴に愛されてる。こんなにも!
一貴は、やっと唇を離すと身を軽く離した。
そして、残っていたボタンをゆっくり外し始める。
今日の一貴は、いつもと違う。
確かに貪欲に求めるけれど、最初はゆとりを保ちながらわたしを翻弄させていくのに、今日は……全く違う。
でも、それはわたしも同じだ。
一貴のバースデーだからこそ、わたしは決心をしたんだもの。
ブラウスの前がはだけ、素肌に一貴の手が触れる。
冷たい手に、躰がピクッと震えた。
それを感じ取った一貴は、手の動きを抑えた。
問いかけるように視線をあげると、一貴は真剣な眼差しを向けていた。
「こんな……幸せな誕生日、生まれて初めてだ」
莉世は、一貴の頬に手を伸ばして微笑み、そのまま引き寄せキスをした。
わたしだって、こんなに喜んで貰えるなんて思ってもみなかった……