※ 何故、いきなり莉世が京都……そして○○に??
詳細は、《Ring of〜》シリーズ、『続・Ring of 〜真実の想い〜』を参照vv
康貴は、口元を緩めながら携帯を莉世に返した。
未だ笑いを堪えてるのがわかる。
「実はな、3月の下旬ぐらいだったかな。兄貴から電話があったんだ」
* * * * *
「はい」
『康貴か? 俺だ』
「兄貴?」
康貴はデスクを離れると、会議室へ向かった。
就業中に電話をかけてくる……となれば、仕事の事しか考えられない。
『今、いいか?』
「あぁ、ちょっと待って」
急いで一室に入ると、窓際に行き、ブラインドを上げた。
「OK、いいよ」
『実はな……ある、色の……携帯を試作品で作って欲しいんだ』
「はぁ? 何で? そんなの兄貴の仕事じゃないだろ?」
『だから、試作品だって言ってるだろ?』
「……それって、残業手当てつくよな?」
『つくわけないだろ? 私用なんだぞ』
あれ? でも、さっきは試作品って言ったぞ? ……それなら私用じゃないと思うけど?
『色の指定は、すぐにFAXで送る。いいか、それ一つだけでいいんだ。他にいくつも作る必要はない。かかった費用は俺が全て出す。出来たら、すぐに送ってくれ。詳しい携帯ショップの住所は一緒にFAXで送る。いいか、必ず4月8日までにショップに着くように仕上げてくれ』
「ちょっと待ってくれよ! ほんの数週間で作れっていうのか?」
『そういう事だ。……あっ、いいか…絶対仕事をサボるなよ。お前の空いた時間で作ってくれ。じゃぁな!』
―――ブチィ。
「はぁ、言いたい事ばかり言って切るとは……さすがお兄様だよ」
康貴は、ため息をつきながら会議室を出ると、部屋に戻った。
うるさい音を立てて、FAXから一枚の用紙が出ていた。
見覚えのある字……差出人を見なくても誰かわかる。
兄貴。
康貴はマグにコーヒーを注ぎ、FAXを取るとデスクに向かった。
一口啜りながら座った時、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。
な、何? 色の指定が……ベ、ベビーピンク?!
様々な色見本の品が書かれ、それに近い色を作れと言う。
おいおい、どうして兄貴はベビーピンクなんて発想に至ったんだ? ……それよりも、この色を探して作って、工場に無理言って1点だけ作らせろっていうのか? これはかなり金かかるぞ? まぁ、交渉はしてやるが……。って、こんなの俺の空いた時間で作れるわけないぞ! ……有給取れって事か?
くそっ〜! 三男の辛いところだ!
* * * * *
「と、まぁ〜そういう事で、それは俺が作ってやったやつなんだ。たった1点ものの携帯さ」
康貴は耳朶を触りながら、何かを隠すように照れ笑いした。
しかし、 莉世は康貴の仕草等全く気にする事もなく、ただその話に圧倒されてしまっていた。
しっかり携帯を握り締め、愛おしそうにそれを撫でる。
確かに、一貴は権力を振りかざしたかもしれない……だけど、それはわたしの為に……と作ってくれたもの。
しかも、3月の下旬だなんて……わたしがまだ一貴と再会してなかったのに!
「それを莉世にあげた時点で、兄貴の気持ち……決まってたんだな。それ、大事にしろよ」
莉世は、涙を振り払おうと何度も瞬きした。
「うん、大事にする」
莉世は再び携帯を康貴に渡すと、康貴は自分の携帯番号を打った。
「よし! これで、お互いの番号が表示された。何かあったら、いつでも連絡していいからな」
「ありがとう、康くん」
全ての事を含めて、お礼を言った。
無駄ではなかった……。こうして康くんと会えて、いろんな話しをして……本当に良かった。重くのしかかっていたどんよりとした気持ちが、フワァーって軽くなったような気がする。頑張らなければ……わたし、絶対一貴を失いたくないもの!
会社のロビーに入ると、康貴は莉世をソファへ促した。
「荷物取ってくる」
「あっ、いいよ! 自分でするから。仕事……忙しいんでしょ? 早く戻って」
康貴の表情が、急に当惑気味になった。
「いや、別に……そんなに急いではいないんだ」
康貴は、視線を逸らせるように、再び腕時計に目を落とす。
「いいよ。わたしなら大丈夫。ちゃんと友達に連絡するし、ね」
「大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい。まぁ、とりあえず荷物取ってくるから、そこに座ってろ」
そう言い捨てると、康貴はロッカー室へ向かった。
もう、小さな子供じゃないのに……。
その時、携帯が鳴った。
取り引きしてる周囲の視線が、突き刺さったような気がする。
莉世は急いで立ち上がると、受付け横にある開かれたドアに走った。
「はい?」
『莉世? あたし! ごめん連絡出来なくて』
焦ってるように言うが、その声の微妙なトーンで上手くいった事がわかった。
莉世は思わず笑みを溢した。
「いいよ、気にしないで。それに彰子の声から、上手くいった感じがするんだけど?」
一瞬、間が空いた。
『うん』
ほらっ、やっぱりね! 久木さんの、最初のあの言葉から、わたし絶対上手くいくってわかってたの!
「良かった……本当に良かった!」
『ありがとう。あのさ、寛が部屋に泊まっていいっていうんだけど、どうする?』
「うん? 彰子だけ泊まらせてもらったら? ……わたしはお邪魔したくないし」
そうそう、彰子だけ泊まらせてもらったらいいよ。
仲直りしたカップルの間にいるなんて、わたしには出来ません。
莉世はニコニコして、視線を泳がせた。
康貴は、まだロッカー室から出てなかった。
『莉世、駄目だよ! これは二人の旅行でしょう?』
これが、二人で来たって思い出してくれて嬉しいけど、やっぱり彰子には久木さんとの時間が必要だと思うし……もっと楽しんで欲しいの。
「ふふっ、旅行っていうか、彰子の為だけに……」
と、そこまで言って、莉世は声を失った。
大きなガラスドアから、怒りを漲らせた……見知った顔が入ってくる。
『何? どうかしたの?』
彼は、周囲をキョロキョロと見て、素早く莉世を見つけると、射貫くように真っ直ぐ歩いてきた。
「うそ……、何で一貴が大阪にいるの?」
何故、彼がココにいるのかわからない。
それに、あの凄まじい形相。怒ってる……一貴は、わたしに怒ってる!
『何? センセがいるの? 莉世?』
「彰子、ごめん。一貴が怒りながらこっちに来る……また連絡する」
『莉世?! 怒ってるって、どうして、』
彰子が何か言っていたが、莉世は切る。
憤怒を漲らせた ……一貴だけを見つめながら。