※ 何故、いきなり莉世が京都……そして○○に??
詳細は、《Ring of〜》シリーズ、『続・Ring of 〜真実の想い〜』を参照vv
日曜だというのに、出勤してる人は多かった。
何気なくロビーを見渡すと、商談しているのか……書類片手に密に話し込んでいる人たちもいる。
何故かホッとせずにはいられなかった。
まだ、カレがいるのか……出勤してるのかもわからないというのに。
莉世は、この社会という独特な雰囲気に圧倒されながら、受付に向かった。
だけど、本当にこれでいいのだろうか?
やっぱり、わたしは一貴本人から聞くべきなんじゃない? 他人を巻き込むのは良くない……二人だけの問題なんだから。
でも、わたしは一貴に聞けないでいる、ずっと。……だからわたしの躰がおかしくなってしまった。倒れた時のアレは、まさしく予兆だった。
それ以降、わたしはだんだん一貴に応えられなくなってしまった。
好きなのに、愛してるのに……わたしは自分が傷ついてる事で、逆に一貴をも傷つけてしまった。
どうにかして、絡まった鎖を解きたい!
なら、根本から解きほどかなければ……。一貴に聞く勇気がないのなら、他の人から聞けばいい。そう、一貴以外の人から……。
「すみません」
「はい、お約束ですか?」
にこやかに受付嬢が接する。
「いえ、約束はしていないんですけど、こちらにお勤めの方と会いたいんです。休日出勤しているのかどうかもわからないんですが……」
「ご親戚の方ですか?」
「いいえ」
莉世は頭を振った。
「部署などはご存じですか?」
部署?! ……駄目だ、全くわからない。
「いいえ、わからないんです。あの、水嶋康貴さんという方なんですけど、」
と、そこまで言うと、受付けの顔が微妙に変化した。
いい方にではなく、悪い方へ……
「申し訳ありません、水嶋にどのようなご用件でしょうか?」
ご用件? ……そんなの、誰にでも言えるような事ではない。
「それは……ただ話しがあって」
「水嶋は本日出社しておりますが、席を外せるかどうか……」
「そこをなんとか! きっと、康……いいえ、水嶋さんは、わたしが来たと知ってくれれば、必ず会ってくれると思うんです」
受付嬢は、さらに訝しげに莉世を見回した。
「……何か、紹介状とかはお持ちですか?」
紹介状? そんなの持ってるわけないよ。……あっ、コレ使えないだろうか?
莉世は、先程入れておいた名刺を取り出した。
「コレ」
その名刺を受け取った受付嬢は、目を大きく開けて「すぐに連絡してみます」と言いい、電話を取り上げる。
良かった〜、パパの名刺が役に立つなんて。パパ感謝!
「お待たせしました。水嶋はすぐに下りて来るそうです」
「あっ、ありがとうございます」
返された名刺を、再び元の場所へ入れた。
何処で待っておこうか……と、周囲を見渡してると、エレベーターから一人の男性が走って来た。
「莉世!」
嬉しそうに笑っている康貴を見た莉世は、一瞬で表情を緩めた。
「康くん!」
康貴は莉世を思い切り抱きしめるなり、グルグルと回り出した。
「ちょっと!」
康貴は笑いながら動きを止めると、莉世を下ろした。
「おかしいな〜。確か莉世は、いつもグルグルやって……っておねだりしてた筈だが?」
「いつの話しをしてるのよ!」
莉世は顔を赤らめて言い返し、周囲にいる人々から注目を浴びてるのにも気付いた。
「もう、やだ〜」
康貴は、ただニコニコして莉世を見つめていた。
「っで、なんでおじさんの名前をわざわざ受付で言ったんだ? 莉世だと知っても、俺はすぐに飛んできたぞ?」
二人は、ロビーの一角にあるソファに座っていた。
「だって、康くん……抜けられないかもって言われて。だからパパの名刺が役に立つかなと思って、出してみたの」
「確かに、効き目があったな……」
康貴はチラリと受付を見たが、すぐに視線を莉世に戻した。
「兄貴と一緒に来たのか?」
そう聞かれ、莉世は顔を強ばらせた。
「ううん」
その曇った表情を見た康貴も、つられて目を細めた。
「……兄貴は、莉世が大阪に来てる事は、知ってるのか?」
莉世は、再び頭を振った。
「友達が、彼氏と仲直りするのについてきたの……」
莉世は、康貴の顔を真正面から見つめ返した。
「……わたし、康くんに聞きたい事があって、いるかどうかもわからないのに、ここまで来たの」
莉世の目には、決心が浮かんでいた。
「……ちょっと待ってくれ、何か飲み物を頼んでくる」
康貴は立ち上がると、受付へ行った。
受話器を取り上げるのを見て、莉世はため息をついた。
康くん、変な顔をしてた。
わたしが一貴に何も言ってないって知って、一瞬だけ顔を顰めた。
おかしいと思ったんだろうか? ……おかしいと思ったに違いない、だってわたしがどれほど一貴を愛してるのか、康くんは知ってるんだから。
なのに、何故わたしが大阪にいるのを……一貴が知らないのか、絶対不思議に思ってるに違いない。
……康くん、遅いなぁ〜。
莉世は、戻ってくるのが遅い康貴を探すように、受付を見る。途端、受付嬢と視線がばっちり合った。
それと同時に、康貴が受付の受話器を置き、莉世に向かって歩き始めた。
康貴が歩く姿をずっと見ていた。
真正面に座るまで、ずっと……
「コーヒーでいいよな?」
莉世は頷いた。
康貴がタバコを取り出し火をつけようとして、莉世を窺う。
「タバコ……駄目だったんだよな、ごめん」
「いいよ、吸っても。これだけ広かったら、すぐに匂いなんてなくなるしね」
莉世は肩を竦めた。しかし、康貴はタバコをテーブルに置いた。
「それで、俺に何の用があったんだ?」
莉世は一瞬視線を手元に落とした。
何を躊躇してるの? 自分で決めたんでしょう? 一貴を傷つけたくないんでしょう? 応えたいんでしょう?
……鎖を解きたいなら、一歩踏み出さなくちゃ。
莉世は、視線を上げ……康貴の目を見つめ返した。
「康くん……、あの日……いったい何があったの?」