番外編
莉世は、目を閉じて一貴のキスを受入れた。
瞼の裏で火花が散るように、花火の弾ける光が瞼を射す。
何ともいえない相乗効果が生まれていた。
まるで……導火線に火をつけられ、早く上空に舞い上がって花を咲かせたい、綺麗に見事に咲き誇って……そして静かにため息をつきたい。
まさしく、花火はアレと似ている。
覆い被さる一貴に支えられながら、一貴の唾液全てを受け止めた。
一貴が顔を離すと、唇がヒリヒリした。
どれぐらい感触がなくなったのか気になり、舌で唇に触れると、一貴が軽く呻いた。
「……どうしたの?」
息を整えながら言うと、一貴は頭を振る。
うん? 何、どうしたの?
「何?」
縋るように手に力を入れると、一貴は仕方なさそうに視線を合わせる。
「そんな……誘うような手管を何処で仕入れてきたんだ?」
えっ? 誘うってわたしが?
「わ、わたし誘ってないよ。誘ってるのは、一貴の方じゃない。わたしを膝に抱き上げて、キスで蕩けさすんだもの」
再び、一貴は頭を振ると、莉世の唇に手を伸ばし触れた。
「コレだよ。俺にキスされて……その後、可愛らしいピンクの舌で唇を舐める。それが誘いでなければ、いったい何なんだ?」
それが、誘いになるの?
莉世は頬を染めながら、再び唇を舐めた。
「ほら、また!」
これも、ダメなの? だって、話しやすいように、舌を滑らかにしただけなのに。
「だけど、違うよ。誘ったんじゃない。一貴が……ひどく吸うから、唇がヒリヒリして、どれぐらい感覚がなくなったのか知りたかっただけ」
一貴の視線が、ぷっくり腫れてるであろう唇に視線を移す。
「……痛かったのか?」
え〜と、……痛くないと言えば嘘になる。だけど、あんな激しいキスをされたいとも思ってるし、でもそんな風に思ってるって知られたくないし。
「……大丈夫、だって一貴のキスだもの」
一貴の口角が、満足そうに上がる。
最近、一貴の行動がわかるようになってきた。
もちろん、ラブホに入った時の態度もそう。一貴は、わたしが愛情表現を示す度に嬉しそうにする。恋人同士でも、愛情表現って大事なんだね。わかってはいても、やっぱり言われたいって思うもの。わたしだって、一貴に言われると嬉しくなるし、ね。
「だが、唇を舐めるのは、俺の前だけにしろよ」
一貴は、注意をするのを忘れなかった。
背中にソファがあたった。ラブソファの肘あてに、寝かされたのだ。
窓の外の花火はもちろん見えるけど……、な、何で横に?
「一貴?」
「花火、見えるだろ?」
「うん、見えるけど、一貴も花火見ようよ」
「あぁ、見てるよ」
うそ、うそ! 一貴ってば、わたしを見てるじゃない!
一貴は、莉世の透けてる乳房を下から包む込むように触れた。
その柔らかいタッチが、何ともいえない。
莉世は、思わず目を瞑った
これじゃ、花火なんて見てられないよ! 神経は、全て一貴に集中してるんだから。
「っああ!」
温かいヌメッとしたのが、乳首を含んだ。
一貴が、ネグリジェの上から攻めたてているのだ。
しかも、薄い生地の為、まるで直に舐められてるような錯覚が沸き起こる。
莉世は、一貴の行為を無視しようと、花火を見るが……花火が花を咲かせる度、どんどん身の内から奮えてくる。
あぁ、ダメ! 花火に集中出来ないよ。
口から甘い吐息が漏れた。
「っん?」
一貴が、顔を上げる。
「何を考えてる?」
莉世は咄嗟に顔を赤くさせた。
言える筈もない。花火とえっちが似てると思ったなんて。
「え〜と、……花火見ようよ」
「見てるよ」
だから、見てないって!
一貴は、手を大腿に置いた。
途端、その後に続く行為に、思わず躰が飛び跳ねる。
莉世は、何を言っても無駄だと悟ると、花火に目を向けた。
躰は、一貴の目に晒したままで。
「っ……やぁ、っんん!」
肩からネグリジェをはだけさせられた乳房は、一貴が動く度に揺れてる。
莉世の足を開けさせ、間に膝をつきながら、足とネグリジェを抱え上げ、一貴は、激しく上下に打ちつけていた。
いやらしい粘膜の音が、花火の音と共に競演している。
まるで、一貴が指揮を奮ってるかのようだった。
莉世は、一貴のバスローブがはだけた素肌の肩に、両手を置いていた。
一貴の口からは、切羽詰まった荒々しい息遣いが漏れ、莉世の口からは甘い喘ぎが漏れる。
もう、お願い、解放して!
このホテルに入ってから、一貴の成すがままにされていた。
その疲れが、より一層躰を敏感にさせる。
「かず、きぃ……わたし、もう」
解放を求めて、莉世は一貴の腰に足を絡ませたかった。でも足をしっかり抱えてる一貴が、それを許さない。
「お願い……っあ!」
一貴が、より一層足を持ち上げ繋ぎを深めた。
「り、せ……もう、少しだ。あと、もう……少しッ!」
途端、窓が急に明るくなった。
花火のラストを飾る、最高の打ち上げ花火の瞬間だ。
激しく燃え盛る花火。
まるで昼間を想像させるような光と音の競演と共に、一貴が激しく揺らした。
その時、一貴の指が莉世のお尻を捻りあげた。
その痛さに、莉世は思い切りのけ反った。
「っああぁぁ!」
一瞬でイカされたのがわかる、膣内(なか)が激しく収縮していたからだ。
それを一身に引き受けた一貴のモノが、グイィと奥に進んだ。
「っうううっ!」
一貴ものけ反り、顔を苦しそうに歪める。
そして、ガクッと倒れるように……莉世の上に倒れ込んだ。
窓から見えた鮮やかな光も、だんだん暗くなり……闇となった。
「ねぇ……」
「何だ?」
満ち足りた後、一貴が莉世の上から横に身を倒したが、莉世の躰を離しはしなかった。
莉世は、そんな一貴を愛おしいく思いながら、汗を含んだ髪に触れていた。
「……花火、ちゃんと見なかったね」
「俺は見たぞ?」
「見てないよ。だって、わたしたち……」
「お前という花火を見ていたさ」
わたしという……花火?
まさか、一貴もわたしと同じように連想していたって事?
まるで、えっちの最初から最後までのように、花火とよく似てるって。
「どうだ? いつもと違って良かっただろ?」
全く否定は出来なく、莉世は頬を染めた。
「だけど、花火見たかった」
「わかった。来年また見よう」
来年? また見よう? ……って事は一緒に見るって事だよね? わたしはまだ高校生だから、一貴とはまだ外ではあまりベタベタ出来ない……。
ん? それでも、一緒に見るって……まさか!
驚愕に開かれた莉世の目を見て、一貴はニヤリと笑った。
「また、ココで見ような。……花火」
そして、またえっちするんでしょう? もう!
一貴をその場に置いたまま立ち上がり、シャワーへと向かった。
その時、莉世の頬は幸せそうに輝いていた。
「ところで、あの場所どうやって探したの?」
一貴に車で送ってもらいながら、 話しかけた。
「あぁ? 教えてもらったんだ」
「誰に?」
チラリと一貴が視線を向けるが、再び正面へと戻る。
「……片瀬」
「片瀬? 片瀬って……まさか、片瀬先生?!」
「あぁ」
ま、まさか……片瀬先生にまでバレてるの? わたしたちの事。
莉世の考えてる事がわかるのか、
「違う……アイツにはバレていない。ただ、花火の話になった時にだな、花火が見えるいいホテルがあると、勝手に話しだしたんだ」
と、すぐに反応した。
ふぅ〜ん、それでちゃっかりインプットしたワケなんだね。さすが、抜け目がないって言うか……。
「あれ? そういえば、一貴と片瀬先生って、仲がいいの?」
一貴が、ブスッと顔を曇らせた。
「別にそんな事はない」
あっそ。そう言うんなら、一応信じてあげる。
「……あの場所、ヨーロッパ風の部屋なんだが、特等席の一つらしいぞ?」
「特等席?!」
「あぁ」
あれって、特等席になるの? ……もちろん、確かに花火はすごく綺麗に見えた。しかも、額縁の絵のように。
でも、ほとんどえっちが先走っていて、花火を堪能出来たって事は、ないと思うんだけど。
まっ、いっかぁ〜。 花火見れたしね♪
莉世は、幸福の微笑みを浮かべながら、前を見つめていた。
街頭の電灯の明かりが、規則正しく車内に射し込み、 そのせいで、後部座席にある白い服が浮かびあがる。
それは、ホテルで莉世に着せられたネグリジェだったが、正面を向いてる莉世は全く気付いていなかった。
一貴は、ただ満足気に微笑んでいた。