番外編
「莉世、明日の日曜に花火があるのを知ってるか?」
もちろん知ってる。
一貴のマンションで、お昼を食べながら頷いた。
「彰子がね、一緒に行こうって、」
「断れ」
その一言に、思わずフォークが手から滑り落ちた。
「な、何で?! だって、一貴とは一緒に見に行けないんだよ? 絶対、学院の誰かに見られる可能性あるもの!」
「大丈夫だ、誰にも見つからない。俺と一緒に行くんだ」
誰にも?
莉世は訝しげに一貴を見るが、一貴は無視してパスタを食べていた。
確かに、一貴は花火を見に行こうと言った。
そして、何故か……待ち合わせは夕方ではなく、お昼。
おかしいなぁ〜と思うべきだった。
何故、こんなに早く出る必要があるのか、と。
莉世は、一貴にプレゼントされた……あの京都での浴衣を着ながら、お馴染みとなった一貴の国産車の助手席に乗り込み、流れる景色を眺める。
「ねぇ、花火は夜でしょう? いったい何処へ行こうっていうの?」
「まぁ、着けばわかるさ」
頬を緩めて言う一貴……目元もどこかしら楽しそうに細められてる。
もう、いったい何なの??
普通の住宅街とは言い切れないが、住宅もあればビルも存在する道路を走っていた。
いったい何処へ行くんだろう?
二人で一緒に花火が見れて、それでいて学院の誰にも見られない場所って、いったい何処なの?
物思いにふけっていると、音が聞こえた……チカチカというウインカーの音。
視線を上げて、一貴が入り込もうとしている場所を見て、莉世の目が驚愕に見開いた。
「一貴! な、何で」
と、言う間に、ビニールのカーテンの中に入った。
見間違える筈もない……正真正銘のラブホテル。
車を駐車すると、一貴が外に出て、助手席側のドアを開けた。
「ほら、行くぞ」
引っ張られるがまま、莉世は建物内に入った。
「ちょっと、一貴! 花火見ようって言ったじゃない。それが、どうしてラブホなの?」
「一石二鳥だろ?」
得意げにニヤリと微笑むその表情に……莉世は思わずドキッとした。
最初から、ラブホに行くつもりだったの?
「どれがいい? このヨーロッパ風にしようか」
莉世は顔を赤くして、下を向いていた。
昼間なのに、後から後からカップルが入って来る。
早く決めなければ、後ろから文句が出そうだった。
「……うん」
もう、何でもいいから早く隠れたい!
一貴がボタンを押すのも見ずに、奥のエレベーターへ向かった。
振り返ると、不機嫌な一貴が側に寄ってきて、その後ろにいる女性は、うっとりと一貴を見ている。
何故か、無性に一貴はわたしの彼だって事を示したくなり、一貴の腕に手を絡めた。
「莉世……」
視線を上げると、嬉しそうに……それでいて、欲望に輝く目で見下ろしている。
先程の不機嫌が、嘘のようだった。
まぁ〜、意味合いは違うけど……機嫌が良くなったって事だから、いっか。
スィートみたいに大きな部屋に入りながら、何故こんな昼間から……あんなにカップルが押し寄せていたんだろうと思った。
……それだけ、昼間からシタイと思ってる人が多いって事? 一貴みたいに?
チラッと一貴を見ると、ベッドに座って何かを見てる。
「何してるの?」
その隣に腰かけながら手元を見ると、ルームサービスのメニューを見ているのだとわかった。
「何か取ろう」
莉世は、欲しいものをチョイスし、一貴が電話を取る。
……え〜と、え〜と、2時間なんてあっという間だよ? こんなにゆっくりしていてもいいの?
と、そこまで考えて、躰中が急にカァ〜と熱くなった。
ば、バカ! わたしったら何考えてるの? これじゃ、まるで抱きしめてもらうのを待ってるみたいじゃない!
莉世は立ち上がると、部屋の探索を始めた。
確かにここって普通のラブホと思うんだけど……何故どんどん人が入って来たの?
ヨーロッパ風の部屋ではあるけど、この場合は特に……珍しいっていうわけでもない。
何があるんだろう?
――― コンコン。
ドアがノックされると、一貴がドアを開けた。
「お待たせいたしました」
一貴がそれを受取り、テーブルに置く。
美味しそうなポテトフライやから揚げ、ベトナム風春巻にトマト&モッツァレラチーズ……、見てるだけでお腹が鳴りそうだった。
……実は、花火を見るのに、何故昼に待ち合わせをするのかわからなく、昼食が喉を通らなかったのだ。
ソファに座りながら、食べ始める。
「ねぇ、ご飯食べるだけにココに入ったの?」
「まさか!」
って、事は……やっぱりスル事が目的で??
「まぁ、確かにラブホにしてみれば美味しいよな」
「うん、美味しい」
指についた塩を舌で舐めようとすると、その手を一貴が取り……口に含んだ。
柔らかい舌が指を愛撫する。
思わずギュッと瞼を閉じた……躰の芯が熱く火照ってきたからだった。
一貴の舌が離れるのがわかり、目を開けると、一貴の視線と絡み合った。
「……感じたか?」
「/////」
な、何て事を聞くんだろう? そんなの言えるわけないのに。
一貴の問いを無視し、莉世は黙々と食べた。
時計を見ると、もうすぐで1時間になる……。
あと1時間しか残ってない、いったいどうするの?
「さてと、風呂入ろうか」
おもむろに立ち上がると、莉世も引っ張りあげ、帯を解き始める。
シュルシュルという衣が擦れる音が、何だかとってもいやらしい。
浴衣も脱がされると……白のレース下着姿になった。
もちろんノーブラで、莉世はされるがままの状態で立っていた。
なぜなら、ココロの奥底では……一貴に愛されたくて仕方なかったからだ。
いったい一貴は、わたしをどうしちゃうんだろう? わたしの自制心や羞恥心を、どんどん剥ぎ取っていく。
一貴の目に晒されてるだけで、乳房は張り詰め、乳首がギュッと突き出る。
一貴は満足そうに、それを撫でた。
「っぁ」
喉の奥から、吐息が漏れる。
一貴は、莉世のパンティの両端に親指を入れると、ゆっくり下へ脱がせた。
片足ずつ抜き、莉世は明るい部屋の中で裸体となる。
胸の高鳴りで、乳房は何度も上下に揺れ、それを見ながら一貴も全て脱ぎ捨てた。
「行くぞ」
一貴の既に興奮しているモノを見て、莉世はまともに息が出来なかった。
目が覚めると、裸体のままベッドにいた。
「やっと目が覚めたか……このまま翌朝まで寝てるんじゃないかと思ったぞ?」
身を起こそうとするが、気怠い感覚が躰を支配し、どこもかしこも痛かった。
「莉世……お前どんどん感度がよくなるな」
お風呂場での数々の行為を思い出し、莉世は頬を染めた。
確かに……一貴に触れられる度、痺れるような何とも言えない電気が、躰を駆け巡る。そのつど、心臓が激しく高鳴り、下腹部が奮えて熱くなるのだ。
でも、それってわたしのせいなの? 一貴が……堪えれそうもないのに極限までわたしを引っ張り上げるから……だから、わたしも躰がめちゃくちゃになるのに。
「っあ!」
一貴の手が、背中を上下に撫で始めた。
「ほら……コレだけで、お前の躰は奮えてくる」
「一貴、だからだよ」
一貴は、嬉しそうに微笑んだ。
「俺も……お前だから……あんなにまで求めるんだぞ」
なんだか、愛の告白を受けたみたい。
莉世は、満足気に甘いため息を漏らした。
「ほら、早く起きよう! いったい何の為に、昼間っからホテルに来てたと思うんだ?」
ええっ?! ま、まさか……まだわたしを抱くつもり? 無理! もう神経の末端まで感じさせられたのに、まだわたしを拷問しようというの?
「一貴、お願い。もう許して」
一貴の目が、訝しげに細められる。
「何言ってるんだ? ほら、早く起きろ」
裸体のまま莉世を引っ張りあげ、側にあった薄いドレスのようなものを手に取る。
えっ? ネグリジェ?
一貴は、その白いネグリジェのようなドレスを、裸体の上から被せた。
「これは?」
「ん? この部屋がヨーロッパ風だっただろ? だから、その地方独特の……まぁそういう服だよ」
肌ざわりはシルクのようで、着心地はとってもいい。
でも、でも……
「これ、透けてる!」
躰にぴったりとまとわりつく為、乳房の形ははっきりわかり、その先端の色までわかる。
「俺しか見てないんだ。気にするな」
気にするなと言われても……
一貴といえば、自分だけちゃっかりバスローブを身につける。
なんだか……一貴が楽しむ為だけに着せられたような感じがするんだけど。
「ほらっ、こっちだ」
手を取られて、ソファに座らせる。
その時、大きなドーンという音が鳴り響いた。
「始まったな」
始まった? 何が?
ソファの正面にある窓を大きく開閉した。
すると、窓が額縁となって、綺麗な花火の絵が完成した。
「えっ? ……まさか、最初からココで花火を見るつもりで、ホテルに来たの?」
「当たり前だろ? ココなら、誰にも見られる事なく一緒に花火を見れる。それにこうしてお前にも触れられる」
一貴は、莉世を膝に乗せた。
莉世は、一貴の首に腕を絡ませて、綺麗に咲く花に見入った。
「うわぁ〜、綺麗……」
「……あぁ、綺麗だ」
「ねっ♪」
嬉しそうに一貴を見ると……一貴が見ていたのは、花火ではなかった。
「綺麗だ、莉世」
欲望を宿した目が、胸元からどんどん視線を上げ、唇に移る。
思わず胸が高鳴り、勝手に唇が軽く開いた。
すかさず一貴はその唇に誘われるように、キスをした。
高鳴る脈が耳の奥でワンワン鳴っているのか、それとも花火の音が耳に入っているのか…もう何がなんだかわからなくなっていた。