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『続 ・Ring of the truth 〜真実の想い〜』【10】

―――ガチャ。
 
 寛がドアを開けると、そこには二宮がいた。
 彰子は胸元で拳を握り、男を蕩けさすような微笑みをする彼女を見て、怒りが込み上げてきた。
 あんな、可愛い顔してながら……やることは残酷極まりない。
 何であんな事が出来たんだろう?
 
「やだぁ、寛ったらまだそんな格好なの?」
 甘い声で掠れたような声が届く。
「何の用?」
 寛の声が強ばっている。
 あたしからの手紙を盗んだ事に怒ってるんだ。
「今日は、サークルの皆で集まろうって言ってたじゃない? 絶対寛は忘れてると思ったから、こうして迎えに来てあげたの」
 彰子は唇を噛んだ。
 そうだった……あたしはテスト休みで暇だったから来たんだけど、寛にだっていろいろ用事がある筈なのに……あたしったら自分の事ばかり考えて、寛の予定なんて頭になくて……。あぁ、あたしって大馬鹿者だよ!
「あっ、俺抜けるわ」
「……わたしも抜けようかな〜。こうして寛といてる方がいいし」
「あぁ、それは無理。俺、今彰子といるんだ。邪魔だから帰って」
「えっ? 彰子って……まさか、」
 寛の肩ごしから、部屋の中を覗き込んだ。
 肩を露にしてベッドにいる彰子を見ると、二宮は可愛い顔をどんどん歪ませた。
「どうしてあなたがいるのよ! 何ベッドに入ってるの?! そこは、わたしの場所よ!」
 どうしてだろう? 普段のあたしなら絶句して……寛を真っ先に疑ってる。
 だけど、あたしは二宮さんの負け惜しみにしか聞こえない。
 こんな風にしか寛を愛せないんだとわかると、同じ女性として悲しくなってきた。
 
「俺の彼女に、そんな口の聞き方するのはやめてくれ」
「寛……、彼女とは別れたじゃない! 東京で別れたって言ってたじゃない!」
「あぁ、別れた。そしてヨリを戻したんだ。俺は彰子だけを愛してるから。ありがとう、早弥香……いや、二宮。お前が彰子に手紙を送ってくれなかったら、こうしてヨリを戻す事が出来なかった。それは感謝してるが……もう勝手に人の郵便物を盗らないでくれ」
「寛、もういいよ!」
 彰子は、ベッドから叫んだ。
 その声を聞いた寛が後ろを振り返った。
 遠くからでも、二宮さんの苦しい表情がわかる。
 あたしが、寛と二宮さんを見た時と同じ表情……心が引き裂かれたような苦しみを必死で抑え込んでる。
「もういい……二宮さんだって、自分がとんでもない事をしたって、ちゃんとわかってる筈だよ」
「あなたに何がわかるのよ! 人の男を奪っておいて、」
「わかってるよ! あたしだって、寛を愛してるもの。だから、二宮さんが寛を愛する気持ちがよくわかる。だけど、これは寛が決める事で……あたしたちが決める事じゃない。選択権は寛にあるんだから」
 そう、寛にある……
 彰子は寛の揺るぎない視線を見返した。
 そうでしょう? 寛がどっちの女を取るのか……寛に決める権利がある。
 寛は、あたしと二人だけの時に、ちゃんとあたしを取ってくれた。
 でも、今は……二宮さんがいる前で選ばなくちゃいけない。そうしないと、二宮さんはいつまでたっても前に進めない。
「……俺は、彰子だけが欲しい」
 寛は二宮を見る事もなく、彰子だけを見つめた。  
「彰子以外の女は、いらない」
 
 狭い部屋に、ドアが閉まる音が響いた。
 二宮が、出て行ったのだ……
 
 
「信じてくれ、俺は本当にお前だけが欲しいんだ」
 ドアに鍵をかけ、彰子のいるベッドに座ると、寛が囁いた。
「うん……わかてる。ありがとう」
 彰子は寛の首に抱きついた。
「俺こそ……ありがとう。二宮に、温情をかけてくれて」
「だって、同じ女だから」
 寛が、素肌の肩にキスを繰り返した。
 
「……お前が俺を愛してるって言ってくれた時、思わず事故りそうになったよ」
「えっ?」
 事故? いったい何の話を……?
「俺の背中でそう言ってくれた時だよ。一瞬聞き間違いかと思った。だが、俺の全神経は、全て後ろに乗っていた彰子に注がれてたから……」
 寛の口が耳朶を挟む。
「あの時、嬉しかった……。まだ、俺が箱を送りつけたと思っていただろう? なのに、俺を愛してると言ってくれた。俺は…それでもう一度お前を手に入れる努力をしようと思ったんだ……いや、それは語弊があるかも知れないな。ファミレスで会う前から……桐谷さんが俺に電話をかけてきて、彰子が京都にいると知った時から、俺はお前をもう一度手に入れようと思ったんだ」
 彰子の躰が奮えた。
「だけど、冷たく感じたよ?」
「当たり前だ! 俺の気持ちは確かだったが、お前には男がいるかもしれないって思った。とても綺麗になっていて……絶対一人の筈がないって思ってたから」
 寛の舌が我が物顔に動く。
 まるで、あたしは寛だけのモノだって言ってるみたい……。
「聞きもしないうちから嫉妬?」
「あぁ」
「……あたしも嫉妬してた」
「俺たち……バカだな」
 彰子は首をのけ反らせ、寛の愛撫を受入れた。
 
 
「何処かホテル予約してるのか?」
「ううん」
 アソコの痛みなんて忘れて、感情のままもう一度愛し合った。
 そして 、荒い息が落ち着くと寛が聞いてきた。
「ココに泊まれよ。お前の友達も一緒に」
 友達……、あっ莉世!
 はと時計を見ると、もう昼をかなり過ぎてる。
「どうしよう、あたし莉世に何も連絡してないよ!」
 彰子は裸のまま飛び起きると、鞄から携帯を取り出した。
 あぁ、あたしって本当にバカだ。
 
『はい?』
「莉世? あたし! ごめん連絡出来なくて」
『いいよ、気にしないで。それに彰子の声から、上手くいった感じがするんだけど?』
 彰子は顔を赤くした。
「うん」
『良かった…本当に良かった!』
「ありがとう。あのさ、寛が部屋に泊まっていいっていうんだけど、どうする?」
『うん? 彰子だけ泊まらせてもらったら? ……わたしはお邪魔したくないし』
「莉世、駄目だよ! これは二人の旅行でしょう?」
『ふふっ、旅行っていうか、彰子の為だけに………』
 突然莉世の声がぷっつり途絶えた。
「何? どうかしたの?」
『うそ……、何で一貴が大阪にいるの?』
 その声は恐れているような声だった。
「何? センセがいるの? 莉世?」
『彰子、ごめん。一貴が怒りながらこっちに来る……また連絡する』
「莉世?! 怒ってるって、どうして」
 しかし、もう応答はなかった。
 
「どうかしたのか?」
「何か、面倒な事になりそうな気がする」
 青ざめながら、寛に振り返った。
 寛は彰子の震える躰を抱きしめ、ベッドへ連れ戻す。
「センセって?」
「莉世の彼氏なんだけど……」
「彼氏なら大丈夫さ。彼女は、優しそうで可愛かったから、彼氏もバカなマネはしないだろう」
「うん、莉世に対しては絶対そんな事しない。だけど、」
「彰子? 連絡してくるって言ったんだろう?」
 確かに、そう言った。
「そして、彰子が俺のところにいるのも知ってる。大丈夫さ」
「うん……」
 本当にそうだといいんだけど。
 
「今は、俺との時間を考えてくれ……」
 彰子は引き裂かれそうな気分だった。
 寛も莉世も大切……、だけど、センセと一緒なら莉世が大丈夫だって事もわかってた。
 彰子は、とうとう寛の肩に頭を凭れさせた。
「日程は? いつまでこっちにいる予定?」
「一応3泊する予定だった。1週間後には終業式があるから、それまでには戻らなきゃいけなかったし」
「なら、それまで一緒にいられるな。……夏休み、バイト決めてたけど断って東京へ戻るよ」
「いいの? そんな無理しなくても、」
「いいんだ。俺は彰子といられる時は、一緒にいたい。それに両親や奈緒子もそろそろ怒りだすだろう? あと、奈緒子にお返ししなければならないし」
 お返し? 何の?
 寛は、不審そうな顔をする彰子を見て笑った。
「あれだよ。あのはと時計。奈緒子の奴……あんなのを送ってきたんだ。ポッポー・ポッポーとうるさいのにな」
 あのはと時計……奈緒ちゃんからのプレゼントだったの?
 ……あたしったら、誰か他の女からのプレゼントだと思って……バカみたい。
 真実を知った事で躰の力が抜け、思わず笑いが込み上げてきた。
 
 その時、寛の携帯が鳴った。
 笑いを堪えるあたしを不思議そうに見ながら、寛はベッドから起き上がり、携帯を取った。
「もしもし……」
 その手元には……汚い合格祈願のお守りが揺れている。
 折れ曲がった汚いお守り、あたしが投げつけたお守りが。
 奈緒ちゃんが言った事は本当だった。
 1年以上も経つのに、まだそれをつけてるなんて……。
 嬉しくて涙が溢れそうになった。
 よし! 寛が夏休みに戻ってくる前に、手作りの携帯ストラップを作ってあげよう。
 彼女からの贈り物だって、わかるように……。
 
 
 彰子は幸せな表情をしながら、裸姿の寛を見つめた。

2003/07/10【完】
  

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