4万HIT記念企画♪
Summer vacation 1
4人は2組に分かれると、ボートに乗り込んだ。
彰子は、莉世と一緒に乗る事になり、勢いよく進み出た。
二人はキャーキャーいいながら、右に左へと揺れるそのスピードを大きく揺らした。
長いトンネルから抜け出した途端、二人はドボンと水の中に沈んだ。
高笑いしながら、水中から顔を出し、水を拭うと、
「えっ? 彰子?!」
という声が。
彰子はびっくりして、視線を前に向けると、何とそこには寛がいた。
今日は、ボートを回収する仕事らしい。
でも、まさかこんなに早く会えるなんて思っても見なかった。
「お前、来るなんて一言も言ってなかったじゃないか!」
その表情は、驚愕と嬉しさと怒りがミックスされたような複雑な表情で、あたしは少し戸惑った。
「言う暇がなかったの。あっ、莉世だよ。覚えてる?」
隣に佇む莉世を指す。
我に返った寛は、莉世に会釈して挨拶をするが、すぐに彰子へと視線を向けた。
目は一瞬にして細められ、彰子の輝くばかりの躰を、舐めるように視線を動かす。
思わず躰が熱くなったが、奥歯を噛み締めて表情に出さないようにした。
そこで初めて、寛の陽に焼けた見事な裸体を見た。
寛が東京へ戻って以来、そういう関係にはまだ一度もなっていない。だからなのか、寛のその見事に陽に焼けた……逞しく引き締まったその躰から、視線を外す事が出来なかった。
今までの寛じゃないみたい……
こんなに変わるものなの? たった、数日の事なのに?
「彰子、俺13時から休憩なんだ。その時、抜け出せるか?」
抜け出す? で、でも、あたしは友達たちと。
チラッと見ると、皆がプールの端から親指を上に突きたててる。
いいって事? 寛との時間を作ってもいいの?
「そこで待っててくれ。いいな、13時にだぞ!」
寛はそう言うと、ボートをベルトコンベアーに引っ張って行った。
茫然となったまま、彰子は莉世たちがいる場所へ向かった。
「いいよ、わたしたちの事は気にしないで。3人で好き勝手に遊ぶし」
莉世が、嬉しそうに後押ししてくれ、華緒と奈美は優しく頷く。
「ごめんね」
彰子は、申し訳なく思いながらも、その好意に縋り付く事にした。
4人は、いろんな場所に行って水のアトラクションを楽しんだ。その時、同じ4人グループの男たちが後をつけてるとも知らずに。
洞窟の中に入り、ひんやりとした感覚を味わっていると、隣に誰かが立った。
何気なく横を見ると、見知らぬ男性。
何だか嫌な感覚を覚え、彰子はその場を離れようとした。
「あのさ、俺らと遊ばない?」
すかさず話しかけるその男に、彰子は舌打ちをしたかった。
うるさいな。莉世たちはどうしたんだろう?
後ろを振り返ると、男に囲まれてる。
「あぁ、あいつら俺のダチ。大丈夫だよ」
「何で、彼女たちがあたしの友達だってわかったの?」
訝しげに問うと、その男はニコッと笑った。
「実は、可愛いなぁ〜と思ってつけてたんだ。少しでも一緒に遊べたらと思ってさ。どう?」
嫌! そう言いたかった。
だが、彰子は何も言わずに、莉世たちの方へ歩く。
「彰子、どうする?」
奈美が心配そうに縋り付いてきた。
もちろん、莉世と華緒……あたしは彼氏持ち。こんなうざったい遊びに付き合う事はない。
でも、ずっと後をつけてきたって言った。それって、何だかヤバイような気もする。
「ごめん、あたしらは、あたしらで遊ぶから。他を探してよ。…行こう」
彰子は申し訳なさそうな表情をして、踵を返した。
彼らから背を向けた時、彰子の表情には、苛立ちが浮かんでいた。
4人は、大きな屋内のレストランに入り、昼食を取る事にした。
腕のパスを出し、好きなものを注文して、席についた。
しかし、あの男たちが近寄ってくるのを感じて、彰子はムカムカしてきた。
「あいつら、また来たよ」
「えっ?!」
莉世たちも、うんざりしてる様子。
「一度だけ遊んだら、向こうへ行ってくれるかなぁ〜」
奈美……そんなのあるワケないよ! 一度遊んだが最後、そのまま夜まで引きずり回されるんだから。
「何でこんなにしつこいんだろう?」
「わたしたちが、可愛いから?」
ニッコリしながら言う奈美を、一発殴りたくなったのは、絶対あたしだけじゃない筈。だって、華緒が鋭く睨み付けてるしね。莉世は……困ったような表情をしてる。
少し離れて座る彼らを極力見ないようにし、急いで昼食を食べ終えた。
暗黙の了解のように、すぐさま4人は立ち上がり、すたすたとレストランから出て行った。
約束の時間まで、まだ1時間はある。
食後の運動という事で、4人は深めのプールに入り、ピーチバレーをし出した。
水中の中で動くのはかなり重労働、そしてダイエットにもなる。
嫌な思いを振り払い、楽しくしていると、突然ウエストを掴まれた。
「ちょっと!」
思い切り振り返ると、先程の男たち。
「俺らもまぜてよ」
「その前に、腕を離してよね」
身を捩って彼から離れた。
何か……すっごいムカツクんだけど。
「彰子、入れてあげようよ」
「本当か? おおっ、ラッキー!」
……奈美……あんたって子は、どこまで短絡的思考なの!
いつの間にか、間に入る彼らから逃れる事はもう無理のようだ。
あたしは、もう少ししたら抜けれるからいいけど、莉世たちだけで、こいつらの相手が出来るの?
……絶対無理、奈美があの調子じゃ、上手く丸め込まれてしまう。
「あたしらは13時から用事があるから、それまでだからね」
きつく念を押すように言うが、相変わらずニコニコしてる彼らに、言葉が通じたかどうかわからなかった。
何事もなく、ビーチバレーは進む。
何も問題は起こらないし、何もしようとはしない。
あたしの考え過ぎ? ……でも、あたしはまだ気軽に腰を抱いてきた、あの馴れ馴れしさを忘れてはいない。
「なぁ、鬼ごっこしないか?」
「うん、する〜!」
喜んでいるのは奈美ただ一人。
頭を抱えたくなってきた。こんな事なら、古賀のグループを誘えば良かった。そうすれば、こんな風にはならなかったのに。
「まず、俺らの一人が鬼になるよ」
勝手にじゃんけんをし出して、「20数えるぞ!」と叫ぶ。
莉世を見ると、あたし同様困惑してるようだし、華緒は……怒ってた。
奈美だけが楽しそうにしてる。
時計を見れば、あと15分ほど。
仕方ない、彼らに合わそう。
彰子は、平泳ぎをしてその場から離れた。
……そもそも、何故彼らが鬼ごっこをしようと言い出したのか、もっと考えるべきだったのに、彰子は目先の事に捕われていた為、考えを疎かにしてしまった。
寛に、もう少しで会える。
この遊びはあと15分で終わるのだから……と。