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『Ring of the truth 〜込められた想い〜』【7】

 あたしは、寛の彼女だと思っていた。
 付き合おうと言われてなくても、必然的に付き合ってる状態だったから。
 あたしは、指輪に込められた想いを、信じていた。信じたかった!
 でも、信じるのが難しい事って、やっぱりある。だから、そういう時は言葉が欲しいって思う。安心させて欲しいって、思うのよ……。
 
 
* * * * *
 
 冬の到来と共に、受験シーズン真っ盛り。
 だが、彰子の受験は無事に終わっていた。
 
 彰子は、真夜中まで点いてる寛の部屋の電気を見て、胸がつまった。
 寛は、二宮さんと同じ大学に行く為に、あんなに勉強してる!
 あたしを残して、去ろうとしてる!
 彰子は、その現実に堪えられなく、顔を背ける日々が続いた。
 
 
 だが、そんな簡単に寛を忘れるなんて、出来る筈がない。
 彰子は、とうとう我慢が出来なくなり、寛の部屋を見た。
 すると、そこには仲良さそうに勉強する…寛と二宮がいた。
 顔を寄せて合って、親密そうな二人の姿を!
 いきなり、二宮が視線を上げ、彰子とばっちり視線が合った。
 すると、意地悪くニヤッと笑った。
 二宮は、親しげに寛の肩に手を触れ、耳元で何か囁いた。
 途端、寛は急に大声で笑い二宮に微笑みかけた。
 あの微笑み……もう長い間あたしに向けられてない。
 あたしは、 やっぱり勘違いしてたの?
 
 彰子は、仲が良さそうな二人を視界から遮るように、部屋の隅に行くと座り込み、膝を胸元まで引き寄せた。
 確かに、寛はあたしを好きだって言った。
 でも、そう言われたのは……あの日だけ、木嶋さんに抱きしめられたのを見た寛が激昂した……あの日だけ。あれは、その場の勢いだったの?
 彰子の涙腺が緩み、涙が溢れた。
 やだ、やだ、こんなあたしっ!
 あたしは、泣き虫じゃない……こんなに弱くない!
 そう、あたしはずっと泣いた事なんかなかった。
 だけど、そのあたしが……泣きたくなるのは、寛が絡んだ時だけ。
 寛が、あたしを……こんなに弱くさせてる!
 戦慄く唇を、彰子は必死に堪えようとしたが、頬を流れる涙が、容赦なく感情の波を押し上げた。
 
 寛に付き合おうって言われなくても、あたしは付き合ってるつもりだった。
 一緒にデートし、笑ったり怒ったり、仲直りしては愛情を示すキスを繰り返したり……。
 4月には、初めての1泊に初めてのセックス、初めての指輪…… これって、付き合ってるって事じゃないの?
 でも、それは……あの可愛らしい、でも毒のある二宮さんと再び付き合う為の、お遊びだったって事なの? あたしは……単なる二宮さんの代わりだったの? 二宮さんの勉強の邪魔にならないように、たまたま側にいたあたしと遊んでやろうって思ったわけ?
 彰子の、もやもやとした霧が一瞬で消え去った。
 問いかけた内容が、あまりにも真実に思えたからだ。
 寛は……あたしがバージンだったって知ってた。
 そのバージンを寛が貰う代わりに、お詫びも込めて、この指輪をあたしにくれたんだ。
 ……寛は、全て計画の上であたしと付き合い始めたんだ。
 そして、あたしを捨てて、二宮さんの元へ戻るんだ。
 
 その事実を拒否したかった。
 寛はそんな事はしない……あたしを好きだから、だから指輪だってくれたんだ。
 いくらそう自分に言い聞かせても、一度浮かんだその事実は、彰子を蝕み始めた。
 彰子は、ベッドに顔を伏せると、声を殺しながら涙を流した。
 
 
 寛は、冬休みも集中合宿に出かけた。
 彰子に、一言も言わないで……。
 
 年が明け、月日がどんどん過ぎて行った。
 彰子の手には、合格祈願のお守りがあった。
 受かって欲しくないが、頑張って欲しいという気持ちもあったからだ。
 
 寛とは、もう恋人同士ではないと悟った今でも、彰子は寛が恋しくて仕方なかった。
 しかし、寛を一目見ようとすればいつも、寛の部屋には二宮がいた。
 親しそうにお互い励まし合って、わからない問題を一緒に解いてる。
 あたしには、決して出来ない事……。
 彰子は、合格祈願のお守りを強く握り締めた。
 いい加減、このお守りを渡さなきゃ。寛に頑張ってって言わなきゃ……。
 
 
  彰子は、寛の家のインターホンを鳴らした。
「あっ、彰子ちゃん。どうしたの?」
 寛の妹・奈緒子だった。
「奈緒ちゃん……寛、いる?」
「いるよ。あっ、でも早弥(さや)ちゃんも来てるんだけど……まっ、いいや。寛兄ちゃんの部屋に行ってよ」
 にっこり笑って彰子を玄関内に促すと、奈緒子はそのまま奥へ消えた。
 二宮さんもいるんだ……
 胸が再び痛んだが、彰子は意を決して2階へ上がった。
 
 寛の部屋の前で、深呼吸し……ドアを開けた。
「寛、あの、」
 そこで、言葉が止まってしまった。
 目の前の光景が……彰子の言葉を飲み込んだのだ。
 彰子が入ってきたのを知った寛は、二宮を押しのけ身を起こした。
「彰子!」
 と、驚愕した声が耳に入ったが、彰子は決定的な現場を見せつけられて、躰が氷ついてしまっていた。
 
 寛の唇には、グロス系のナチュラルピンクの口紅がついている。
 その色は、二宮がつけていた口紅の色だった……

2003/05/20
  

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