『サクラ咲く、ココロの華』【2】

「おっそ〜い! ダレと、何、長話してたの?」
 彰子の大声が、莉世と古賀に降り注いだ。
 
 莉世は彰子の側へ近寄ると、小声で話しかけた。
「彰子……やめてよ、こういうの」
 彰子は、ハハッと屈託なく笑った。
「バレたぁ?」
 ……だから、彰子は憎めないよ。
「彰子のおっせかいが、また顔を表したのね」
 ボソリと言う華緒に莉世が振り返ると、彼女は諦めた表情を見せて苦笑いしていた。
「何? 前にもあったの?」
 華緒はため息をつくと、少し微笑んだ。
「まぁ〜、ね」
 その意味深な華緒の言葉に、莉世はもっと聞き出したかったが、突然奈美の声で引き戻された。
「ちょっとぉ、どうしたの莉世? 泣いてたの?」
 驚いた奈美を見つめながら、莉世は頬を染めた。
「泣いたっていうか……」
「桐谷の肩に毛虫がいたんだ。それが怖くて泣いたってわけ。……それにしても、こんな桜の下にいたら、毛虫がいて当たり前だぞ?」
 古賀は皆に説明をしながら、莉世に視線を向けて一方の眉を上げた。
 その態度が、何か秘密を共有していると言ってるように見えるのは、わたしだけだろうか?
 莉世は、苦笑いした。
「あぁ、さっきからずっといた、あの毛虫ね」
 彰子のその言葉に、莉世は青ざめた。
「し、知って……たの? 知ってたら言ってよ! もう恥ずかしい思いしちゃったじゃない」
 莉世は、彰子を睨みつけたが、彰子はその事より、敏感に言葉の意味を嗅ぎつけた。
「何? 恥ずかしい思いって? 古賀、何があったの?」
 莉世の頬が、どんどん染まっていた。
 古賀は肩を竦めただけで、何も言わなかった。
 
「もういいでしょ? それより、どうして、ここに……古賀くんたちがいるの?」
 彰子はニヤッと笑った。
「せっかくだから、親睦会の前に親睦を深めようか? って言ってきたの。それで、どうする? ……って話になって」
「あたしはいいよん」
 奈美が笑顔で答える。
「わたしだって……どうせ暇だし」
 何か怒ったような華緒が、ボソッと呟く。
「あたしもいいよ。どうせ何もないし。っで、莉世は?」
 一気に視線が莉世に集まった。
 その時、柴田のすがるような視線とバッチリ合い、彰子から聞かされたアノ話を思い出した。
 こんな状況で、断るなんて……出来るわけないじゃないの。
「……いいよ」
「ヨッシャ!」
 微かに聞こえたその声……、見るまでもなく、古賀の声だった。
 
 
『2−6の、桐谷莉世、すぐに教務棟英語科・水嶋の所まで来てください』
 
 突然、鳴り響いたその放送に、莉世の顔は凍りついた。
 転校初日以来の呼び出しだ。
 学校で呼び出すって……どういう事? あまり目立たないようにしたいのに。
「あぁ〜あ、いったい何の用だろ、水嶋センセ」
 彰子がチラッと莉世を見た。
 莉世は、ゴクッと唾を飲み込んだ。
「さぁ。もしかしたら……英会話の事かも」
 莉世は自分で言いながら、何て情けない言葉の濁し方だろうと思った。
「ふぅ〜ん……」
 莉世は、彰子の言葉一つ一つに敏感に反応してしまい、ドキドキするのを止められなかった。
「……じゃぁ、先生の所に行ってくる」
「あっ、お弁当箱持っていってあげるね」
 無邪気な奈美の声を聞きながら、莉世は教務棟へ向かった。
 
 
 一度だけ入ったことのある、一貴の個室。
 莉世は、そのドアの前で佇むと、ゆっくりノックした。
 
――― コンコンッ。
 
「誰だ!」
 怒鳴った声が返ってきた。
「あっ……桐谷です」
 莉世も馬鹿ではない……この教務棟には各階につき5人の先生たちの個室がある。だから、一貴の個室の他に、4人の先生の部屋があるって事だ。
 そこにいるだろう先生や生徒たちに、聴かれる危険性を侵すわけがなかった。
 ドアが、突然開かれると……とても怒った表情をした一貴が、目の前に現れた。
 莉世の目は、驚きから大きく見開いた。
 その怒りが、どこからくるのかわからなかったからだ。
 一貴は黙ったまま、莉世の腕を強く掴むと、部屋へ引っ張り入れ、思い切りドアを叩きつけるように閉めると鍵をかけた。
 何故……鍵なんか?
 それに、何でこんなに怒っているの?
 
 怒りを隠さず、目をギラギラさせた一貴が、莉世に大股で近寄ってきた。
 莉世は咄嗟に後ずさり、備えられたソファにお尻があたった。
 後退しようにも、それ以上後ろへ行く事が出来ない。
「……かず、き? どうしたの? 何だか、怖い……あっ!」
 突然、一貴が莉世のうなじを左手でがっしり掴んだのだ。
「かず、っぁ……っん」
 一貴は無理やり莉世の唇を奪うと、荒々しく角度を変え何度も何度も吸った。
 その激しさに、莉世は息をつく暇がなかった。
「っんん……やぁ、……かずっ!」
 一貴は、莉世の唇を割ると舌を進入させ、莉世の舌を奪うように絡め始めた。
「ぁぁ」
 何? いったい、一貴どうしちゃったの?
 莉世は一貴の荒々しさに圧倒され、なすすべもなく、一貴の胸板で拳を握った。
 一貴が唇を離すと、莉世は荒い息を肩でしながら、潤んだ瞳で一貴を見上げた。
 しかし、一貴の目には……怒りと欲望が入り交じった……激しい情熱が見え隠れしているだけだった。
 一貴は、莉世のうなじから手を離さず、右手をブレザーのボタンに手をかけると、素早く全てを外した。
 そして、乱暴にそのブレザーを脱がせると、絨毯が敷かれた床に放り投げた。
 その突然の事に、莉世は一貴を疑いたくなった。
「一貴、何してるの? ……ちょっと!」
 一貴は、一言も口を聞かず……莉世の赤いリボンもブレザーと同じように取り外す。
 そして、ブラウスのボタンを荒々しく外した。
 途中のボタンが弾けて飛んでもお構い無しで、手を緩める気配は一向にない。
「一貴っ、何やってるの? ココ学校だよ? やだ、やめて!」
 一貴から逃れようと身を捩るが、力に阻まれて身動きが出来ない。
 何で? どうして? いったいどうしちゃったの?
 莉世は一貴の考えがわからなく……一瞬で青ざめた。
 一貴は、ブラウスの襟を持つといきなりバッと開かせて……肩を露にさせた。
「キャッ!」
 一貴の目に、白いレースのブラジャーに形よく包まれた乳房が現れた。
 小さなカップに収まりきらない乳房は、こんもりと盛り上がっている。
 一貴の息が荒々しくなった。
 
 莉世の胸も、激しい欲望で上下に揺れていた。
 でも、理性が……こんなところでしてはいけないと訴えている。
 それに、一貴がどうしてこういう行動をとったのか、全くわからない。
 莉世は、どうにかしてやめさせようと思った。
 わたしが欲しいなら、今じゃなくったって後でも出来る。
 莉世は掠れる声で、ゆっくり……わかってくれるように口を開いた。
「一貴? お願い、止めて? 今は、嫌。ココじゃイヤ……一貴のマンションでならいい。だから、お願い、今は止めて」
 一貴は、莉世を睨み付けた。
 その目に、莉世はショックを受けた。
 な……何で? 何でそんな目でわたしを見るの?
 その憎々しい……何と表現すればいいのかわからない目をして、莉世のココロの中にでも進入しようとでもするその視線に、莉世はどうすればいいかわからなくなった。
「かず……き、イヤよ……ココ学校だよ? ……駄目、出来ないよ。一貴を愛してるけど……ココじゃイヤ」
 言えば言うほど、一貴の視線はどんどん鋭くなる。
 莉世は、カラカラな喉を潤そうと何度も唾を飲む込むが、喉から勝手に出てくる喘ぎが、それを押さえつけてしまい喉が動かない。
 
 
 一貴は、莉世に顔を近づけてくると、耳に温かい息を吹きかけた。
「っぁ……」
 莉世の背筋に、甘い痺れが走った。
 たったそれだけなのに、力が抜けていく。
 莉世は、一貴を止めさせようと袖を掴んだ。
 だが、一貴は莉世が感じる……耳の後ろを唇と舌で愛撫を繰り返し、うなじを優しく愛撫する。
「やぁぁ……やめっ、……っんん、ぁっ……」
 途端、一貴はガバッと莉世の肩を押すと、莉世の潤んだ瞳を睨み付けた。
 その目を再び見て、莉世は躰を強ばらせた。
「な、何で? 怒ってるの? わたし……わからない。何でそんな風にわたしを見るの?」
 一貴は、莉世の肩に置いておいた手に力を込めると、ギュッと掴んだ。
「っ…」
 その痛さに、莉世は顔を歪めた。
 でも、一貴の目にも何かが歪んでいた。
 
 一貴は、再び莉世をきつく引き寄せ、柔らかい莉世の唇を求めた。
「っんん!」
 何か飢えたようなキス、何か取り戻そうとするようなキス、何かを伝えたいようなキス………。
 一貴が何を言いたいのか、全くわからなかった。
 でも何かを言ってる、何かを表現してる……それだけはわかった。
 だからと言って、学校で……しかも昼休み……誰が来るかわからない教務棟で、何もかも忘れて一貴と愛し合う事など出来ない。
 莉世は、一貴が齎す甘美な感触を振り解こうと、一貴の胸板を押した。
 しかし、一貴は莉世の腕を捕らえると、そのまま手を後ろに持っていき、片手で莉世の腕を拘束した。
 一貴は唇を離すと、そのまま莉世の谷間へ顔を埋めた。
「一貴っ! やだって……ぁんっ、だめっ………やぁ」
 莉世の躰が、フルフルと奮え出した。
 激しく上下する乳房が、一貴の鼻や唇……舌を押し上げる。
 膨らみに沿って一貴の舌が、肌を舐める。
 やだっ、やだぁ。汗かいてるのにっ!
 してほしくない、嫌だ、離して欲しい! そう思ってるのに躰は勝手に動き出し、一貴を待ち受けた莉世の秘部はじっとり潤ってきた。
 やだ、やだぁ!
「やめ、て……かず、きぃ……はぁぅ……、だめぇ」
 肌も一貴の唾液で光ってきた。
 そこにあたる風が、濡れている事を証明させ、そして莉世の火照った躰を冷やそうとする。
 でもその感触が……莉世の躰を激しく興奮させた。
 
 一貴は、莉世の短いスカートに手を入れると、一気にパンティを膝まで引き下ろした。
 一貴は、チラッとパンティの見た。
 そこは、既に莉世の愛液が光っていた。
「俺に触れられて濡れてるわけ?」
 莉世は、ドキッとした。
 この部屋に入って……初めて一貴が言葉を発したのだ。
 しかも……冷たい声で。
「他……に、誰が……いるって、いうの? 一貴しかいないじゃない! ……もう、やだぁ」
 莉世は悲しくなって俯いた。
 何て恥ずかしい格好してるんだろう……、まるでアダルトビデオだ。
 一貴は莉世の顎を強く持ち上げると、まだ怒った目をして莉世を見つめた。
 そして再び、莉世の唇に激しくキスをした。
「っんん!」
 一貴は莉世の手を離すと、背中に手をまわし抱きしめた。
 解放された両手を、莉世は一貴のぴっちりしたTシャツを掴んだ。
 揺れる躰を支えるには、一貴に凭れるしかなかったからだ。
「っぁ!」
 突然一貴が莉世を押し、その反動で莉世はソファへひっくり返りそうになったが、一貴が莉世の背を支えていた。
 莉世の浮かんだ足を、一貴は掴み、すぐさまパンティを片方だけ脱がせた。
 その素早い動作に、莉世の鼓動は耳までドクドクと聞こえるほどだった。
 莉世は、ゴクッと乾いた喉を動かした。
「かず、きぃ……ねぇ、やめよ? お願い……ココでなんて出来ない」
 一貴の目が、意地悪そうに輝いた。
 その目を見た莉世は、恐怖が押し寄せてきた。
 いったいどうしちゃったの? 怖い……怖いっ!
 
 莉世はギュッと目を瞑った。
 途端、斜めになって一貴に支えられていた躰が、真っ直ぐになった。
 莉世はハッとした。
 さっきの行動は、わたしのパンティを脱がす為にしたんだ!
 一貴がどうしても今……ココで抱く……愛し合おうと決めたのだとやっとわかった。
 そう思っただけで、莉世の躰に欲望の火が燃え始めた。
「はぁぅっ……」
 高鳴る鼓動で、乳房が揺れる。
 自由になりたいと、圧迫から解放されたいと、乳房が張りつめていくのがわかった。
 そして、一貴を迎え入れようと、莉世の奥から愛液が溢れ出す事も。
 一貴は欲望を隠そうともせず、莉世の目を見ながら、羽織っていたブラウスを脱ぎ捨て、ズボンのベルトを外した。
 それでも、莉世はまだ止めさそうと、最後の抵抗を試みた。
「やだっ、一貴止めよ? もし、誰かに見つかったら……大変な事になる。ねっ? 今はやめよ? 後でなら……一貴とえっちしてもいい」
 しかし一貴の目は、莉世を睨みつけ……意思が変化するような事はなかった。
 
 一貴は、ココで……わたしを本気で抱く気なんだ!

2003/04/01
  

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