番外編
side:一貴
俺の愛しい……大切なピンクのバラ。
身を守る為に、自らトゲを作り……それでいて尚輝くばかりに咲き誇ろうとする、俺のバラ。
覚えているだろうか?
お前には赤よりピンクが似合うと言うと、それからお前はピンクばかりを好むようになった事を……。
お前は、どこまで俺の心の内(なか)へ入り込こんでくるんだ?
一貴は、裸体のままぐっすり身を寄せている……莉世をずっと見つめていた。
そっと、柔らかな頬に指を走らす。
愛しさと……切なさと……痛みが、一貴を襲ってきた。
俺は、こんなに早くお前を抱くつもりじゃなかった。
少しずつ、俺の気持ちを理解してもらえるように、俺はゆっくり待つつもりだった。
莉世の軽く開いた唇は、一貴の激しいキスによってぷっくり腫れ、痛々しい変色の跡まで残していた。
そこに、ゆっくり触れると、一貴の胸がドキッと波打った。
こんな風に傷つけるつもりじゃなかった。
俺は……こんな風に、傷つけるキスはしたくなかった!
一貴がいくら触れても、莉世はピクリとも動かずにぐっすり寝入っている。
ゆっくり上掛けをウエストまで引き下ろすと、莉世の豊かな乳房が目に入った。
そこには、一貴の残した愛の痕が無数に在った。
乳首はぷっくりと膨らんでいる。
一貴は指を伸ばすと、乳首をゆっくり転がした。
途端、乳首はピンッと尖り、吸ってくれと催促をする。
一貴はその光景に見とれながらも、胸が痛んだ。
お前は、いつの間に少女から女へと変わったんだ?
俺から姿を隠し……俺と一切会おうとしないで……お前は俺から逃れたまま……蕾から大輪へと成長した。
一貴は、莉世が留学した時の事を思い出していた。
突然、莉世が連絡を絶った日の事を……。
俺はその頃、いろいろと忙しかった。
……莉世も新学期を迎える為に忙しいだろうと思っていた。
ホワイトデー、俺は莉世の為にキャンディを買っていた。
莉世のバースデー、俺は莉世が欲しがっていたブランドのガラスフォトスタンドを買っていた。
いつもなら催促に来るのに、あの時は来なかった。
俺は不思議に思いながらも、あの時は他の事で手一杯だった為に、莉世の事は後回しにしてしまった。
どうして、あの時あのまま放っておいたんだろう?
そもそも、俺にとって莉世は大切な “妹” のような存在だった。
だが、それはいつしか変わっていった。
俺は……いつの間にか、莉世を “妹” から異性として、意識し始めたんだ。
一貴は、苦しそうに顔を歪めた。
……苦しくも、こいつが俺の前から、去った事がきっかけで。
一貴は、横になって潰された乳房をやさしく包んだ。
俺が覚えている莉世には、乳房はほんのりとしかなかった。
まだ、少女だった莉世。
一貴は、莉世が初潮をむかえた時、嬉しいような……それでいて困惑したのを覚えていた。
莉世は一切言わなかったが、雰囲気で全てわかってしまった。
俺は、戸惑った。
莉世が大人の世界に足を一歩踏み入れた事を、何故か喜べなかったのだ。
莉世は、きっと俺より……もっと大事な男が出来るだろう。
そう思った時、どれだけ苦しかったか。
あの時は、まだ莉世を愛してるという気持ちなど全くなかった。
だが、莉世を俺の寝室へ入るのを禁じた時……俺はココロの片隅で悟っていたのかも知れない。
小さな莉世を、男の俺から守らなければならないと……。
「ぅううん……かず、きぃ…」
莉世がボソリと呟くと、一貴の背をギュッと抱きしめてきた。
寝言でも、莉世が自分の名を呼んだとわかると、一貴の心は激しく荒れ狂った。
一貴は、すぐ莉世を抱きしめた。
柔らかな莉世の乳房が、胸板に押し潰される。
その柔らかな感触が、一貴を奮わせた。
その興奮が、躰を一気に支配する。
むくむくと大きくなる猛り狂う自身は、莉世のお腹を突つき出した。
「はぁぁ」
一貴はその荒れ狂う嵐を抑えるように、長くゆっくり息を吐くと、再び昔の記憶へ飛んだ。
卓也おじさんから、莉世が留学したと知らされた時、俺はすぐその理由を訊いたが、何も教えてくれなかった。
それなら、何処のスクールへ入れたのかと問いただしても、岩として教えてくれなかった。
あの時、俺は怒り狂って……おじさんにも、そして莉世にも腹が立った。
だが、しばらく頭を冷やすと、俺は不思議に思った。
どうして、ここまで怒るのか……どうしてここまで莉世の居場所を突き止めようとするのか。
俺は自分の気持ちがわからなく、ただ時間だけがむなしく過ぎていった。
そして半年後、俺は極秘に莉世の留学先を調べて、その場所がカリフォルニアだとわかると、すぐさま飛行機に飛び乗った。
この衝動がどこからくるのか……まだわからなかった。
ただ……カリフォルニアで、莉世に会えると思うと、自分の心が妙に舞い上がった。
だが、莉世は同世代の男や女たちに囲まれて、楽しく過ごしていた。
俺がこんなに苦しい思いをしていたのに、お前はそんなに楽しいのか?
そう思うと、飛行機に飛び乗った自分が馬鹿に思え、すぐさま日本へ帰ってきたのだ。
莉世にとっては……俺は何でもない存在。
ただ兄のように頼り、そしてその俺を飛び越えて行ってしまった。
そう思った瞬間、莉世にだけは、俺を兄のように思って欲しくない……そういう自分がいるのに突然気付いた。
莉世は、俺だけのものだ。誰にも……莉世を渡すものか!
そう気付いて、俺は愕然とした。
まだ10歳の少女を……? 俺は、ロリコンじゃない!
いくらそう言い聞かせても、既に悟ってしまった気持ちは、元には戻らず………全て莉世に向かって、気持ちが流れていった。
俺は、あの時……まだ自分の気持ちを信じたくなかった。
いつしか、この気持ちが間違いだったと……必ず気付くに違いないと言い聞かせた。
莉世の温かい息が、一貴の胸板を愛撫する。
一貴は莉世を見下ろし……まだ目覚めようとしない、莉世の愛らしい表情を見守った。
だから、俺はこいつから離れていた。
離れていれば、この間違った想いは、必ずどこかへ流されるだろうと思ったから。
あれ以来、俺は決して莉世と会おうとしなかった。
……そして、莉世からも便りの一つもなかった。
だが、俺は……
一貴は、ちらりとクローゼットを見た。
しばらくそこを見つめ、そしてため息をついた。
そこに何があるのか……知っているのは一貴だけだった。
やっと……莉世が帰国した!
しかし、それを知ったのは、自分が勤める私学へ編入してくるという書類を見て、初めて知ったのだ。
そして、少女の莉世しか知らなかった俺の目に飛び込んできたのは、女性へと成長した……女の莉世が映った写真だった。
突如襲った胸の痛みに加え、これでやっと莉世を取り戻せるという幸福感が、複雑に混じり合った。
あの時、昔感じた莉世への想いは、間違いではなかった。そうはっきり感じると、俺の想いはもう止められなくなった……。
目の前に立つ莉世は、驚くほど綺麗になり、短いスカートの下から覗くほっそりした足は、俺を欲望の渦へと誘った。
だが……莉世は、俺と会っても嬉しそうではなかった。
一貴は自嘲気味に笑った。
あの時……俺はどれだけ莉世を憎んだか。
俺が莉世に溺れれば溺れるほど、莉世のココロが何処にあるのかわからなくなった。
それが苛立たしく……腹が立ち、どうしても莉世を俺に縛りつけたくなった。
昔の莉世を、取り戻したかった。
嫌がる莉世をマンションへ連れて帰り……そして痛めつけ、泣かせてしまった。
泣かせるつもりなどなかった。
ただ、莉世の本音が聞きたかっただけだった。
いつの日か……そう、いつの日か……俺は莉世を抱くつもりだったが、今日抱くつもりはなかった。
ただ、莉世に……昔のように俺自身を見て欲しかったんだ。
莉世が俺を愛してると言った時、どれほど俺が嬉しく興奮したか……絶対莉世にはわからないだろう。
俺が、どれほど莉世を愛しているのか……莉世が俺を想うより、俺の方がどれだけ莉世を想っているのか……決して莉世にはわからない。
俺には、独占欲などないと思っていた。
だが……莉世だけには違った。
莉世の事になると、俺はいてもたってもいられなくなる。
一貴はため息をついた。
その結果が……コレだ。
俺は、莉世を守らなければならないのに……俺はゴムの存在すら忘れてた。
今まで……その存在を忘れた事など一度もなかったのに。
もし、莉世がコレで妊娠でもしたら、俺は歓喜するほど喜ぶだろう。
なぜなら、莉世を俺だけのものに出来るからだ。
だが、もしそうなれば……莉世はきっと俺を恨むに違いない。
妊娠させた俺を、憎むかも知れない。
……嫌だ。それだけは絶対駄目だっ!
一貴は、莉世をギュッときつく抱きしめた。
離したくない……もう2度と、手放したくない。
突然、一貴は思い出したくなかった事を思い出してしまい……そのせいで表情が一瞬で青ざめた。
莉世は……莉世は、バージンじゃなかった!
一貴の胸の内に、ムラムラと怒りの炎が燃え上がった。
莉世は、この躰を……俺以外の男に与えたのだ。
一貴は、嫉妬で身が焼けつくされるほど気が狂いそうだった。
俺の莉世……俺だけの莉世が、他の男と!
想像したくない……なのに、莉世が他の男と絡み合う裸体が、脳裏から離れなかった。
くそーーーっ!
何故、こんなに自分勝手なのだろう。
俺だって、童貞じゃない。莉世にだけ処女を求めるなんて、絶対間違ってる。
間違ってる、わかってる。
わかってるが…… このドロドロとした感情が、身勝手な嫉妬心が、俺の躰隅々まで駆け巡る!
莉世は、俺だけのものだったんだ。
少女の頃から……俺だけのものだったんだ。なのに、他の男に先に奪われてしまった。
一貴は、激しい嵐を押さえつけるように、拳をきつく握った。
そして、 莉世の耳の後ろの窪みに、キスをした。
忘れるんだ……莉世を抱いた男など忘れてしまえ! 今……莉世は俺の腕の中にいるんだ。それだけで、十分じゃないか。
俺は、もう二度と莉世を手放さない。
何があろうと、俺は必ず莉世を守ってみせる。
一貴は、その嫉妬をココロの奥底へ閉じ込めた。
二度とそれが浮かび上がってこないように………。
一貴は深く息を吸い、そしてゆっくり吐いた。
今まで、知らなかった自分が見えたのだ。
独占欲などなかったのに、莉世に対してだけはこんなにも独占欲が激しい。
嫉妬心など持ち合わせていなかったのに、今では勢いよく燃え上がる。
莉世は、もうすぐ目覚めるだろう。
そうすれば、俺はお前から聞きたくない言葉を……聞かされるかも知れない。
それでも、俺はお前を手放したりはしない、絶対に。
今は、まだ……俺の腕の中にいてくれ。
まだ、この幸せな瞬間を壊さないでくれ。
俺の愛しい……大切なピンクのバラ。
身を守る為に、自らトゲを作り……それでいてなお、輝くばかりに咲き誇ろうとする俺のバラ。
俺のココロは、お前への愛で溢れそうだ……