開設5周年記念・特別作品(2013年再掲載)

『Te amo 〜愛してる〜』【17】

 前もって準備していたのだろうか。
 エンリケは、タイルの上にタオルを敷き、そこに杏那を横たえた。
 杏那の躯は弛緩して、まだ余韻の真っ只中。
 でも、ゴツゴツした感触が背中に触れ、瞼をピクピク震わせながら目を開けた。
 目に入るのは、綺麗な満天の星。
 
 どうして空が見えるのだろう。エンリケはどこへ?
 
 目をきょろきょろさまよわせ、彼の髪を見た瞬間、杏那はハッと息を呑んだ。
「や、やめ……っんんぁ!」
 エンリケが杏那の秘所に顔を近づけ、そこを舌で触れてきた。
「っぁぁ!」
 敏感になった躯に、再び強烈な甘美な潮流が襲ってくる。
 どうして? どうしてエンリケはこんな風にできるのだろう。
 経験がないわけではない。こういう愛撫は受けたことがある。
 でも、これほど身悶えしてしまう快感を送り込まれた体験は一度もない。
 何も考えられなくなって、自分から淫らに求めてしまうようなことも。
 
 エンリケを愛しているから、躯が自然に反応するの?
 
『とめどなく溢れてくる……何て敏感な躯なんだ』
 感覚が麻痺しているところにきて、エンリケが充血した蕾に舌を這わす。
「ダメッ!」
 襲ってくる甘い痺れに対抗するように、ギュッと強く拳を作る。
 だがエンリケの愛撫は容赦がなかった。襞を指で押し開き、硬く尖らせた舌を蜜口に添え、そして侵入させてきた。
「あっ、………ぁ、ん!」
 拒もうとしていたのに、無関係に腰が勝手に跳ねる。襲ってくる強烈な感覚に、ただ身を預けるしかなかった。
 だが、その甘いさざ波は、絶え間なく送り込まれるだけ。
 引いては寄せ、あと一歩という間際まで迫る快感。それを手にしたいのに、掴もうとしたところでそれは去っていく。
 エンリケの吐息までもが、杏那を歓喜の渦へと誘ってくるのにどうにもできない。
 杏那の躯は壊れそうだった。
「お願い……エンリケ、もう……っぁ……、っんく、はぁぅ……ゆ、許して」
 解放を求めて疼く苦しい状況から脱したくて、杏那は許しを請うしかできなかった。
 だが、エンリケは秘所から顔を上げ、苦しげに歪む杏那の表情をじっと見つめる。
『今、何て言った?』
 そう言われて、杏那は日本語で告げていたと知った。すぐに言葉を改める。
『もう、ダメ! お願い……もう、わたしは……っぁ!』
 杏那の懇願も聞かず、エンリケが再び指を挿入した。
『そうだね。杏那のココは……悲鳴を上げてる。俺が欲しいと……』
 自らの重みで杏那を潰してしまわないように気を付けているのか、エンリケはゆっくり身を屈めた。
 そして杏那の大腿を掴み、入り口だけ接触させて愛液との摩擦を楽しむ。だが、急にその動きを止めた。
 
『いいか? 杏那のこんな姿を見るのは、この先は俺だけだ。他の男には絶対許さないでくれ。いいね?』
 
 何を言ってるのだろう。杏那にはエンリケしか見えていないのに。
 でも、エンリケは? イレーネへの気持ちを胸に秘めて、杏那を抱いているの?
 自分でこうすると決めたことだから、イレーネの件でとやかく言うつもりはない。
 けれど、この一週間を素敵な思い出にしたいから、だから訊かずにはいられない!
 エンリケに訊こうと口を開いた瞬間、彼が腰を落としてゆっくり挿入を始めた。
 言おうとした言葉が、喉の奥で詰まってしまう。
 昂ぶった彼自身が膣壁を押し広げながら、どんどん奥深くへ侵入してくる。
 あまりの圧迫感に苦しくなり、杏那はエンリケの胸に手を当てて押し止めた。
 だがその時、目の前で揺れるペンダントトップが目に入った。
 
離れ離れになったふたりは、いつの日か必ずもう一度出会う……
 
 エンリケの胸に当てた手に力を込める。
 仕事とはいえ、エンリケはこうやって杏那に会いにきてくれた。ずっと持っていたオニキスの片割れとひとつになりたいと願うように……
 目の前にエンリケがいる。彼の気持ちを訊くなら、今が一番いい。
『杏那? いったい……』
 セックスを拒まれたと思ったのか、それとも我慢の限界に達したのか、よくわからない。
 でもエンリケの顔は苦しそうに歪み、頬を赤らめていた。
 杏那はそんなエンリケを見ながら手を滑らせ、彼のペンダントトップに触れる。
 
『エンリケ……わたしのこと、どう思ってるの? 好き?』
 
 その問いかけにビックリしたのか、エンリケは大きく息を吸った。
 しばらく杏那を見ていたが、顔を寄せて唇を求めた。愛おしむようなついばむキスに、彼の優しさが伝わってくる。
 自然と杏那の瞳に、涙が込み上げる。
 
「Te quiero con toda mi alma.(心から愛している)」
 
 エンリケはキスを止めて、杏那の瞳を見つめて囁いた。
 たったその一言が、杏那の心と躯に激しい炎を注ぎ込んだ。
 杏那の瞳から涙が溢れ、目尻を伝って流れ落ちていく。
『エンリケ……嬉しい!』
 杏那は両手を伸ばして、エンリケの頬を包み込んだ。
『エンリケ……きて。あなたが欲しくてたまらない』
 その言葉に、再び欲情の炎がエンリケの瞳に灯る。
『あぁぁ、……俺も杏那が欲しくて気が狂いそうだ』
 歓喜の表情を浮かべながら、エンリケは挿入を始めた。
 彼のものが杏那の鞘に埋められていく。
 最初は良かったが、やはり彼自身の大きく漲った太さは、杏那の経験の域を遥かに超えていた。
 息が詰まりそうな苦しさに顔を歪め、歯を食い縛って堪える。
 でも、ぐいぐいと膣壁を押し広げるその圧迫感は、悦びどころか痛みを与えてくる。
 それは、思わず彼から逃げたくなるほどだった。
『エン、リケ……あぁぁ、ダメ、無理! 入らないっ!』
 両手を突っぱねて、エンリケの胸を押し返し、彼から逃げようとする。そんな杏那を逃がさないとばかりに、さらに杏那に体重を載せてきた。
『大丈夫だ。女性の躯は、男性を受け入れられるようにできている』
 それは知っている。でも、エンリケ自身がとても太過ぎるせいで、杏那にとっては苦痛でしかなかった。
『でも、ダメ。お願い……わたしを離して』
『そんな風に言わないでくれ。頼む! ……杏那、力を抜いて。俺の愛撫に身を任せるんだ』
 エンリケはゆっくりと抽送を繰り返し、どんどん奥へと忍び込んでくる。
 片方の腕で躯を支え、杏那の乳房を揉みしだいては乳首を抓む。律動と同じリズムで愛撫し、杏那が零す吐息と呼応して動いた。
 エンリケの額には、汗が浮かんでいる。いつまでこの自制心に耐え切れるかわからないと伝える苦しそうな表情に、杏那の胸の奥がキュンと高鳴った。
 
 はち切れそうな自分の痛みよりも、エンリケの苦しみを取り去ってあげたい!
 
 杏那のその気持ちの変化が躯に異変を与えたのだろうか。
 エンリケの怒張した自身が、杏那の膣内に何度も滑り込み、刺激を与えてくるにつれて、だんだん滑りが良くなって彼のものを受け止められるようになってきた。
 それがエンリケにもわかるのか、いきり勃った彼自身は奥へ奥へと埋め込まれる。
「あっ、あっ……っん、……っぁ」
『もうすぐだ』
 杏那が息を吸い、かすかに背を反らしたその瞬間、エンリケ自身がやっと全部膣内に収まった。
「はぁっ!」
 杏那の躯はガクガクと震える。たまらずエンリケに縋り付き、足を絡める。
『あぁぁ、何て暖かいんだ』
 欲望を秘めたその声に、杏那は正直もう無理と伝えたかった。
 なんとかエンリケを受け入れることができたが、まだ躯が馴染んでいないので、少しでも動かされたらまた痛みが増しそうで怖かった。
 もし裂けてしまったらどうしよう!
 杏那の心に積もる不安がどんどん膨れ上がってくる。
『動くよ……』
『待って! もうちょっと……っんぁ、はああぁ!』
 エンリケが腰を動かし始めて、杏那の躯に緊張が走ったが、想像していた痛みには教われてなかった。
 もちろん、多少皮膚のひきつりを感じたが、その痛みはだんだん心地よくなってきた。しかも、
擦れる感触が快感を生み出し始める。
 
 まさか、こんな……こんな風に感じるなんて!
 
 愛液が溢れてくちゅくちゅと立てる淫靡な音、エンリケが腰を動かすたびに肌と肌がぶつかる音が響き渡る。
 さらに温泉の流れる音と重なって、聴覚からでも感じさせられた。
 普段の生活からは考えられない淫らに喘ぐ杏那の声音に欲情したのか、エンリケの律動が激しくなった。
 奥まで抉るように、何度も深く腰を押しつける。
『杏那……杏那、君の声が好きだ。最高に俺を奮い立たせる!』
 エンリケの抽送のリズムがさらに速くなる。杏那の全ては自分のものだ言わんばかりに、気持ちをぶつけてきた。
 だが、ひとつ荒い息をつくつと、挿入したまま杏那との位置を変えた。
「あっ、あっ……っんぅ! ……っんん、はぁ……!」
 杏那は、エンリケの手で騎乗位になっていた。彼のものを深く受け止めながら、情熱に煙る瞳でエンリケを見下ろす。
『こうすれば、杏那に触れられるし、イク瞬間の瞳も見られる。そして何より、杏那の綺麗な背中に擦り傷を作らなくて済む。……さぁ、杏那。動いて』
 自分から動くことに羞恥を覚えた。頬が熱くなっていくのも手に取るようにわかる。
 それでも懇願するエンリケの目を見ていると、ノーとは言えなかった。
 杏那はエンリケの胸に両手を置き、ゆっくり動き始めた。
 彼のものが深く埋め込まれ、引き摺り出され、また杏那の膣内に戻される。
 腰を少し動かすだけで、今まで触れなかった部分を擦った。
 その刺激にたまらず背を弓なりに反り、杏那は喘ぎ声を上げた。
「っぁぁぁぁ、エンリケッ!」
 すかさず、エンリケが手を伸ばす。
 彼の手で乳房を包み込まれ、乳首を弄られながら、杏那は自分のリズムで刻み始める。
 彼のものに貫かれるたびに、甘い疼きが躯中を舐めるように這う。それは陶酔してしまうほど気持ちいいのに、どこか物足りなかった。
 エンリケの手で快感を煽られているのに、その先へあと一歩進めない。
 それがとても辛くて、自分でどうしようもできなくて、杏那は自分の躯に手を這わす彼を見下ろした。
『エンリケ……お願い……めちゃくちゃにして……わたしをイカせて』
 杏那がそう訴えた瞬間、エンリケの手が腰骨付近まで滑り下りた。彼は杏那のリズムを外すように、自らのリズムを下から与える。
 突然の刺激に、杏那は身を仰け反った。
「そ、そこ……っぁ、……ダメ、っぁん……はぁ……っんん」
 快感に陶酔する杏那の腰を掴み、エンリケは上体を起こした。
 ふたりの密着度がさらに増すだけでなく、さらに彼のものが深く埋め込まれる。
『杏那……最高だ。俺の手で、こんなにも淫らになる姿をこの目で見られるなんて!』
 エンリケは、杏那を下から突き上げては乳房を揉みしだき、乳首を弄る。
 彼の口から零れる熱い吐息、送られる快感、そして溢れ出た愛液のぐちゅぐちゅと音を立てる音。
 全てが、杏那を駆り立てる。
 
 もうダメ! このまま、イッちゃう!
 
 杏那は顎を突き出して背を反らす。
「あぁぁ、ダメ、もう……エンリ、ケ!」
 その悲鳴に近い喘ぎに、エンリケの腰使いが強くなった。彼は顔を杏那の胸に埋め、乳首を口に含み、強くそこを引っ張った。
 ピリッとした刺激に、背筋を這うゾクゾクした刺激に、杏那は跳ねるように胸を突き出した。
「……っぁ、っぁ……っんん、ああああぁ!」
 快感の潮流に再び押し上げられる。
 耳に入る音全てが掻き消えると、杏那は引っ張り上げられるまま陶酔の渦に飛び込んだ。
『杏那! 愛してる!』
 エンリケは杏那を強く抱きしめ、最後に一突きすると躯をぶるぶる震わせた。
 獣のような咆哮を上げて、杏那の膣内に精を放つ。
 彼から快感が遠ざかっていっても、ずっと杏那から手を離さなかった。

2008/04/07
2013/10/30
  

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