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Summer vacation 2

『デートの果て』【2】

 くたくたになった状態で映画館から出ると、既に15時を過ぎていた。
 疲れたような感じがするのは……あたしだけ?
 清々しそうに優しい瞳で見つめてくる寛を、思わず叩きたくなったが……そこはグッと堪えた。
 だって、せっかくのデートだから。久しぶりのデート…だから、このまま楽しく過ごしたい。
 しかし、そのデートがこの後どういう事になるのか…彰子にはまだわからなかった。
 
 
 時間は中途半端だったが、二人はお腹が空いてる為、 ファミレス風の中華料理店に入った。
 二人はメニューを見ながら一緒にチョイスして食べる事にする。
 料理を注文しようとした時、二人のテーブルの横で、一人の女性が立ち止まった。
「あれ? ……もしかして、カン?」
 その呼び方が、彰子の胸に鋭いトゲが刺さった。
 寛は、顔を上げると彼女に笑いかけた。
「やぁ、久しぶり」
「やっぱり! どうしてたの? 京都での学生生活はどんな感じ? 早弥香とはまだ上手くいってるの? ねぇ、向こうへおいでよ、皆いるの。木嶋くんもいるんだから」
「やっ、悪いけど、俺デート中だから」
 嬉しそうに言う寛の姿が、まだ救いだった。
 あたしの事を忘れたわけじゃないって。
「えっ?」
 やっとその女性が彰子を見た。
「デートって、早弥香とは別れたの?」
 その問いかけに、寛が躰を強ばらせた。
「高2の時に別れて以来、付き合ってないけど」
 彼女は、その言葉に驚いたように目を大きく開き、口をポカンと開ける。
「うそ。でも早弥香は……、ううん、いい、ごめん。……デート中だってわかるけど、せっかく向こうにかつての悪友が揃ってるんだから、顔見せてよ。もちろん彼女も一緒していいからさ」
 寛は困ったように顔を顰めて、彰子を見た。
「ちょっとだけ、いいか?」
 ダメって言いたい。 せっかくのデートなんだからって。でも、寛が友達に会いたいという気持ちもわかった。
「……うん、いいよ」
 嫌な顔を見せたくなくて、彰子は顔を伏せた。
 その瞬間、当時の記憶が蘇る。
 寛の部屋にたくさん人が集り、楽しそうにしている光景。そして、あたしはその輪の外から、羨ましそうに…でも無表情に眺めている事しか出来なかった時のことを。
 その時と同じように……あたしは、今日も輪の外から眺めるんだろうか?
 
 
 やっぱり承諾するんじゃなかった。
 寛は、かつての友達に囲まれて、楽しそうに談笑してる。
 それに引き換え、わたしは一人でジュースを飲んで……予想通り蚊帳の外だった。
 寛の男友達は、あたしを興味津々でチラチラと見つめてくるが、女友達は訝しげにジロリと見つめる。
 彼らは、あたしより年上なわけだから、気軽に接する事も出来ない。
 もちろん、今のあたしなら話しかける事に躊躇はしない。
 しないけれど、ここにいる人たちは、皆二宮さんの友達だ。そして、寛の彼女であるあたしに、反感を抱いているのがわかる。
 敏感に気配を感じ取ってしまった自分自身に呆れて、誰にも聞こえないように小さなため息をついた。
 
「ごめんな」
 いきなり頭上から声が聞こえてきた。
 面を上げると、そこには木嶋がいた。
「皆、カンの事が好きなんだよ。だから、久しぶりに話したくて仕方ないんだ。ところで、久しぶり、俺の事覚えてる……よな?」
 思わず吹き出しそうになった。
 挨拶が逆だ。覚えてる? と聞いてきてから、謝るのが普通なのに。
 でも、こうして一人でいるあたしのところに、木嶋さんが来てくれた事は嬉しかった。
「もちろん覚えてます」
 にっこり微笑むと、木嶋はヘェ〜というように驚きながら、隣に座った。
「彰子ちゃん、変わったな」
「変わった?」
 どこが? 別に何も変わってないけど……。
「あぁ、俺が抱きしめた時も大人っぽかったけど、今の彰子ちゃんは、花が開いたって感じかな」
 別に以前と変わりないと思うんだけど。
 目を細めながら木嶋を見つめた。
「うん、やっぱりカンに愛されてるからかな」
 愛されてる。その言葉を聞いて、彰子は一気に顔を赤らめた。
 まるで、二人が何度も愛し合った事を知られたように感じたからだ。
 声を出す事が出来ない彰子を見て、木嶋は肩を震わせて笑いだした。
「ごめん、困らすつもりじゃなかったんだ。正直な気持ち、あんまり綺麗になってるから驚いてさ。ほらっ、あの女子たちの顔! 彰子ちゃんを見て妬んでる」
 木嶋はそう言うが、それは違うという事が彰子にはわかっていた。
 彼女たちは、あたしが二宮さんの場所を卑怯な手で盗んだと思ってる。だから、敵意に満ちた目であたしをちらちら見てくるんだ。
 
「そういえば、木嶋さんは彼女と上手くいったんですか?」
 以前、木嶋が言ったことを思い出したからだ。
 
「カンを手に入れる為に、俺と付き合ったんじゃないかってな」
 
「ううん、別れた」
 別れた?! うそぉ……。あれだけ想っていたのに。
「どうして? あんなに好きだって言ってたのに」
 木嶋は自嘲的に笑った。
「確かに、あの時は好きだった。だから、もう一度俺を見てもらおうと努力はした。でもな、俺にはやっぱり無理だったよ。いくら俺が好きでも、彼女が振り向いてくれないのは、我慢が出来なかった。そういうのって、辛いと思わないか?」
 確かに……辛い。身を裂くような思いに捕われてしまう。だって、あたしがそうだったから。
 でも、諦めなかったから……今のあたしと寛があるのに。木嶋さんにも、頑張って欲しかった。
 ふと沈黙が続いてた事に気付き、面を上げて木嶋を見ると、彼は真剣な表情をして彰子を見ていた。
 その真剣な眼差しで、思い出したくない事を思い出してしまった。
 
「俺……もっと早く彰子ちゃんと話してたら、好きになってた。実は、彰子ちゃんの存在は、あの日よりもっと前から知ってたんだ」
 
 思わず、ハッと息を飲み込んだ瞬間、薄ら唇が開いた。
 木嶋は、視線を唇に移し、震える彰子の喉元も見た。
「ダメだよ、彰子ちゃん。そんな無防備な態度を取られたら、俺、奪いたくなる。それでなくても、彰子ちゃんの事を気に入ってるのに」
 奪いたいって、どういう事? それにあたしを気に入ってるって、いったい。
「木、嶋さん……」
 何て言ったらいいだろう? こういう風に見つめられた事がないから、何て答えたらいいのかわからない。面識のない男や、おどおどした男に対してならきつく言う事も出来る。でも、木嶋さんは、あたしを一押ししてくれた人で、寛の友達でもある。そんな彼に、何て言ったらいいの?
 無意識に唇を噛み締めた。でも、それが間違いだった。
 木嶋が、突然呻いたからだ。
「男の前で、しかも君に興味を持ってる俺の前で、そんな挑発的なことをしたら駄目だ。俺が、今どれだけ必死になって押さえてるのか、わからない?」
 そう言うと、テーブルの下にあるあたしの手を、木嶋さんが掴んだ。
 彰子は、彼から目を離す事が出来なかった。
 どうしよう、どうしたらいいの?
 ……どうしようも何も、あたしは、はっきり拒絶しなければ。あたしには寛しか考えられないから、こんなゲームには付き合いきれないって。
 はっきり言わなければ。
 
 そう決意した時、木嶋の瞳の奥にある思いが伝わった。
 待ってる……
 木嶋さんは、あたしがはっきり拒絶するのを待ってる。というか、はっきり拒絶するべきだと、目が告げていた。
 あたしは、木嶋さんが求めるその言葉を言おうとした。
 その時、一瞬で木嶋さんは目の前で倒れていた。
 周囲からキャーという声が聞こえるが、何が起きたかさっぱりわからない。
 震えるまま視線を上げると、憤怒を漲らせて睨み付ける寛がいた。
 寛の両手は、関節が白く浮き出るほど、強く握りしめられていた……

2003/09/29
  

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