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Summer vacation １

『プール・ショック』【３】

　彰子は、誰が鬼だったかもうわからなくなった。
　周囲を見回し、莉世たちがどの辺にいるのか探したが、何処にも見当たらない。
　えっ、どこ行ったの？　華緒は？　奈美？
　一瞬、躰がブルッと震えた。
　とんでもない間違いをしてしまったような予感が、脳裏を過る。
 
 
　恐る恐る端から中央付近へ泳ごうとすると、いきなり目の前にあの男が水中からザブンと出てきた。
「キャ！」
　思わず声が漏れ、慌てて口を抑える。
「ビックリさせないでよ！　ねぇ、鬼って誰なの？」
「さぁ〜、俺わからない」
　わからない？！　
　彰子は目を細めて、何故彼がココに来たのかその考えを推し量ろうとした。
「あっそ。それじゃね」
　彼から離れるように脇を通り抜けようとすると、いきなり腰を抱かれた。
「ちょっと、何するのよ！」
　思い切り彼の肩を押したが、ビクともしない。
「手を離してよ！　あたしに触れていいって、言った覚えはないけど」
「そんなにツンケンするなよ……彰子」
「っ誰が呼び捨てしていいって言ったのよ！」
　彼が肩を竦める。
「友達がそう呼んでいただろ？」
　彰子は思い切り睨み付けた。
「俺ら、本当にラッキーだよ。綺麗で可愛い女子高生と出会えたんだからな」
　いつの間にか、プールの端にまで連れて行かれていた。
「それに、こんな最高な女に出会えるなんて、思ってもみなかった」
　彼の視線が、胸に落ちる。
　思わず怒りでカァ〜と熱くなった。
　何ていう男だろう！　こいつらにとって、プールに来た理由は女を漁りに来ただけ。そして、鬼ごっこをしようと言ったのは、あたしらをバラバラにさせる為だけだったんだ！
 
「落ち着いて、騒がなければ俺たちが何をしてるのかわからないから」
「何をするっていうの？」
　彼が手を上げて、彰子の首に触れた。
「いい事だよ。俺も……彰子も気に入る」
　ウエストにあった彼の手が、ビキニの中に入ってきた。
「ちょっと、やめてよ！」
　と、言った瞬間、ホルダートップが心もとなくなったと思ったら、ハラリと外れた。
　思わず胸を抑えて落ちるのを防いだが、彼の手がパンティを引きずり下ろす。
　躰を思い切り捩り、彼の手から逃れようと必死にもがくが、不気味に微笑む彼を見て怖くなった。
　逃げなきゃ……このままいたら……あたし犯される！
　彰子は、トップから手を離すと、パンティを引っ張り上げた。
　乳房がまる見えになったが、それに構ってる暇はない。
　その隙に、彼は乳房に触れて……そして何と顔を近づけて口で吸いついてきた。
　やだ、やだ、やめてよ！
　彼が興奮したモノを擦り寄せてくるのを感じ、彰子はパニックに陥った。
　やだ、気持ち悪い！　何なのよ、この男。あっちへ行って……あたしに触るなっ！
　躰をジタバタさせていたから……彰子の膝が彼の大切なモノに思い切り当たった。
「うぅぁ……つぅ」
　彼が怯んだ隙に、彰子は乳房を隠しながらプールから這い上がった。
　周囲の男性は、驚きながらもヨダレを垂らしそうな勢いで、半分見える乳房を見つめてくる。
　彰子は荒い息を整えながら、ホルダーを止めた。
　前屈みになった、その男を上から見下ろした。
「痴漢！　変態！　今は見逃すけど、もしまた近付いたら警察に突き出すからね！」
 
　熱いアスファルトを歩きながら周囲を見回す。
　同じように莉世も荒い息をついて、水面を睨み付けているのが見えた。
　彰子は思い切り走って近寄った。
「大丈夫だった？」
　莉世は困ったような表情をした。
「危なかった……。気持ち悪かったよ、彰子」
　潤む目を見て、彰子は莉世を抱きしめた。
　もちろんそうだろう。あんな事、好きな男にしかさせてあげれない。
「華緒と奈美は？」
　そう聞いた瞬間、二人が側に走ってきた。
「大丈夫だった？」
　華緒が頷く。
「奈美ったら、怖くて動けなかったみたい。だから、監視員さんを連れて行ったら、奈美に触れてた男逃げて行ったの」
　彰子は、思わず安堵のため息を漏らした。
「だってぇ〜、急に胸を触ってくるんだもん！　どうしたらいいかわからなくて」
　そういう時は、触るなって怒るの！
「……あっ、彰子時間は？」
　莉世に言われて、時計を見ると……約束の時間から１５分も過ぎていた。
「行かなきゃ！」
「あっ、……帰りは別行動にしようか？」
　莉世が、 ゆっくり言った。
　あたしは、皆を見て……いろんな事に対して、体力を消耗してるのがわかった。だって、あたしだってそうだから。
「うん、そうしよう。あたしの事は気にしないで」
「ごめんね」
　ううん、あたしの方こそごめん。寛がいるからって誘わなければこんな事にならなかったんだから。
　彰子は、表情を強ばらせながら皆と別れた。
 
　彰子は、急いで待ち合わせの場所に向かったが、意識は別れた友達の方へと向いていた。
　もう、彼女たちが帰るだろうという事がわかったからだ。
　彰子は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 
 
　寛の姿が目に入った。
　イライラとして、歩き回ってるのがよくわかる。
「寛！」
　振り向いた寛の目に、安堵の光が灯った。
「良かった、心配してたんだぞ 」
　寛のその清々しい笑顔を見ただけで、感極まり……涙が込み上げてきた。
「寛…」
　ガバッと思い切り寛の首に抱きつき、顔を埋めた。
「しょ、彰子？　いったいどうしたんだ？」
　突然抱きつかれた事に戸惑っているのか……寛の震える手が背中にゆっくり触れた。
　それでも、彰子は寛から離れなかった。
　今、やっとあたしも女の子なんだってわかった。身長が高くて、男勝りな口を聞いても、所詮女……男がいきなり乱暴になったら、いくらあたしだって拒むのが難しいんだって、やっとわかった。 　あぁ、悔しいよ！
「彰子」
　肩を押されて距離を保つと、寛が目を覗き込んできた。
「どうしたんだ？」
　心配そうに見つめるその瞳から、目を逸らす事が出来ない。
　涙で潤む彰子の目を見つめていたが、突然寛は手を取り歩き出した。
「寛？　何処行くの？」
「二人っきりで話せるところ」
　二人っきりで？　話す？
　あまりに突然な為、彰子はいつの間にか涙が止まっていた。
　そして、寛に引っ張られるがまま、足を機械的に動かしていた。

2003/09/21
　　

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