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『続 ・Ring of the truth 〜真実の想い〜』【7】

「お前は俺に捨てられると思い……俺はお前に捨てられると思った。あの時、ちゃんと話せば良かったよ。俺がお前を抱いた事で抱いてしまった、この罪悪感を……きちんと話すべきだった」
 動悸が激しいまま、彰子は喘ぐように息を吸った。
 今になって、寛の奥に隠された激しい感情を見つけてしまったからだ。
 ううん、違う……寛があたしに見せたからだ。
 ずっと隠してきた想いを、あたしに見せつけたのだ。
 
 
「確かに……俺は早弥香と別れたが、同じ大学を目指すという事で、友達付き合いは続いていた。だが、あいつが俺に迫ってキスをした時、俺の気持ちがぐらついたのは……確かだった」
 寛が視線を上げた。
 その目の中に、寛の弱さが垣間見れた。
 今まではっきりと放っていた強い意思の力が、弱まったのだ。
「お前は俺を無視し……俺は勉強ばかりしていて、すれ違いの日々が続いた。俺は欲求不満で、お前の柔らかい躰、香いを欲していた。我慢が限界に達した時、突然早弥香から抱きつかれて……俺は、一瞬これがお前ならと想像してしまった」
 寛は、躰を強ばらせると、瞼を閉じて視界を遮った。
「あぁ、俺は早弥香のキスが彰子のキスならと望んでしまった!」
 言い切ると、再び目を開け、苦しそうに彰子を見た。
「現実に戻って、早弥香を押し戻そうとした時、彰子……お前がいた」
 確かに、あの時の場面を思い出すと、下になっていたのは寛だ。
 あの記憶は、忘れようと思っても忘れられるものじゃない。
 彰子は、息苦しそうな寛の表情を見つめた。
 あたしは……寛を信じよう、この言葉をあたしは信じるよ。
 
「俺は、彰子が投げつけたのが合格祈願だと知って、まだ望みがあるかもしれないと思った。でも、お前は俺との接点を全て放棄した。俺はまだお前を諦めるつもりはなかった……だが、あの日……付き合ってなかったという言葉を聞いて、もう駄目だと思った。俺が彰子を想ってるぐらい、彰子は俺を想ってくれてなかったんだと、やっとわかったんだ。彰子……俺はお前から別れの言葉は聞きたくなかった、だから俺から別れを切り出したんだ」
 寛の指が、肘の内側を撫で上げた。
 ハッとなって、寛を凝視した。
「嫌いになって別れたんじゃない」
 寛は手を滑らせ、彰子の掌を握った。
「俺はこっちへ出てきても、お前を忘れた事は一度もなかったよ。だから、彰子に男が出来たんじゃないかと思うと、俺は実家には帰れなかった。彰子と彼氏がいる現場を見てしまえば、俺がどういう行動に出るか、目に見えてわかっていたからな」
「……っそんな、理由で……戻って来なかったの?」
 喘ぐように声を振り絞った。
「あぁ」
 バカだよ……もし寛が帰郷していれば、もっと早くあたしたちは真実を知る事が出来たかもしれないのに。
 
 無意識に掌にある寛の手を握り締めた。
 あとは、小包の問題だけ。
 二宮さんと、付き合ってるのかどうか……。
 もし付き合ってたら、彼女が小包を出したという事がわかる。
「二宮さんと……付き合ってるの?」
「何故?」
「宛て名は女性の字だった。あたしの手紙の他は、二宮さんと寛のツーショットの写真が入ってただけ。これが意味する事とは、『わたしの彼に近づくな』っていう意思表示しかないから」
 寛の手がすり抜けた。
 あたしの手を、振り解いたのだ。
 あぁ……付き合ってるんだ、やっぱり。
 彰子は、戦慄く唇を思い切り噛み締めた。
 仕方ないよ、あたしは寛の側にはいられないけど、二宮さんは寛の側にいられるんだから。
 温もりがなくなった手を、強く握り締めた。
 その時、寛が肩に手を回して胸の中に引き寄せた。
 
「付き合ってない……。付き合ってくれとは言われたが、俺の心の中には彰子がいるのに、他の女と付き合えるわけないだろ? それは、彰子と付き合う前からわかってたから、同じ過ちを繰り返したくなかった。自分を偽りたくなかった」
 あたしが「いる」……。それは過去形ではない。って事は、今もあたしを好きなの? 愛してくれてるの?
「お前は? 今付き合ってる奴……いるのか?」
 寛の躰は、緊張が走ったようにいきなり強ばった。
 心配してるの? あたしに男がいるかも知れないって?
 お互い疑心暗鬼に陥って……言葉を交わすべき事を話さなかった為に、あたしたちは別れるはめになった。
 これ以上、すれ違うのは嫌だ。もう、後悔はしたくない。
「……いないよ。寛の事だけしか考えれないのに、他の男が入り込む余地なんかない」
「本当に?」
「本当だよ」
 彰子は、寛の肩から顔を上げて、仰ぎ見た。
 
 
「俺が彰子に触れてから……誰も彰子に触れてないのか?」
 信じられないというような表情をする寛に、ムッとした。
「あたしがそんな女だと思ってるの? ……最低……あたしの男へのガードは鉄壁なんだから!」
 ひどい、ひどいよ! そんな安っぽい女に思われていたなんて。
 肩を抱く寛から逃れようと身を捩ると、その動きを寛が押し止めた。
「違う! お前が誰にでも靡く女だなんて思ってない。それは側で見ていた俺が、十分知ってる事だ、そうだろう? 俺が言いたかったのは、他の男が何故手を出さずにいられたのか……それが不思議なんだよ」
 他の男が?  あたしに?
「あぁ〜、もう我慢が出来ない!」
 寛は吐き捨てるように言うと、彰子に覆い被さり唇を奪った。
 突然の行為に、彰子は躰が固まってしまった。
 その吸う力はすごかった。
 全て奪うような激しいキスで、 唇がピリピリする。
 寛の胸を押して逃れようとすると、それを感じ取った寛が身を離した。
 荒い息をつく中、寛は視線を逸らそうとはしなかった。
「……ほらな、俺は我慢が出来なくなる。他の男も我慢が出来る筈がない」
 寛って……とんちんかん? 誰もが、あたしを好きになるとは限らないんだよ? それに、もしあたしに迫ってくるような男がいたとしても、あたしは思いっきり叩きのめしてるよ。
 
 彰子は寛を見上げ……欲望で光る寛の目を見つめた。
 あたしは、やっぱり寛が欲しい。
 この温もりを手放したくない、もう寛を失いたくない!
「寛……もう一度、あたしにキスして」
 寛は、その言葉にブルッと躰を奮わすと、彰子の頭を支えて再びにキスをした。
 それは、身も心も溶かすような、甘いキスだった……

2003/07/03
  

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