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『続 ・Ring of the truth 〜真実の想い〜』【3】

 放任主義の三崎家では、彰子が京都へ友達と行ってくると言っても問題はなかった。
 しかし、莉世の桐谷家は……そうとう難しかったようだ。
 なぜなら、莉世の家にいって挨拶までしたから……。
 
 もちろん、莉世の両親とは面識があった。
 家に遊びに行った時は挨拶してたし。
 だけど、旅行となると……また別問題。
 女二人だけの旅行だから、仕方ないかも知れないが。
 そしてあたしは思った。
 莉世のパパは、莉世がセンセと旅行行くのではと疑っていた事を。
 ちょっと笑いたくなっちゃった。
 だって、旅行なんかに行かなくても、二人はもうそういう関係なのにさ。
 やっぱり親って、娘には処女でいて欲しいのかな?
 
 
――― 東京駅。
 
 二人はバスに乗り込むと、チケットに書かれてる座席に座った。
「ごめん、夜行バスなんかにしちゃって」
 彰子は、この時ほどちゃんと貯金しておけば良かったと、悔やまずにはいられなかった。
「ううん、わたしだってお金と相談しなきゃいけないし。それに、夜行バスって初めてなんだ。だから、ちょっとドキドキしてる」
 そう言ってくれた事に感謝しながら、 彰子は後ろに凭れた。
「……あたしと旅行に行くって言ったら、何て言った?」
「……誰が?」
 そんなの決まってるじゃん、莉世の彼氏の他誰がいるっていうのよ。
 チラリと横を見ると、莉世の表情は強ばっていた。
「……センセ」
「……言ってない」
 はい? 言ってないって、あんた!
 躰を横に向けて莉世を凝視した。
「何で? ……疑われると思ったの?」
「違う」
 やっと莉世が正面から見据えた。
「じゃぁ、何で言わなかったの?」
 莉世はしばらく彰子の顔を見つめていたが、ため息をついた。
「……確かに彰子の為でもあるの。こうやって、京都へ行くのはね。だけど、心の底では……一貴と少し距離を置きたいって思ってる事も事実なんだ」
 やっぱりおかしい。何でこんな事言うんだろう?
 2週間前、あたしが莉世を呼び出した時から変だった、おかしかった。
 あぁ、ダメ、放っておけない!
「理由、あるんだよね? 距離を置きたいっていう理由」
「あるよ、もちろん」
「何?」
 莉世は頭を振った。
「今回は、彰子の事で行くんだから、わざわざわたしの気持ちまで背負い込む事はないよ。だから、この話はおしまい」
「じゃ、あたしの件が終わったら……ちゃんと相談してくれる?」
 ここでうんと言わさなきゃ、あとにひけないよ。
「莉世?」
 返事を促すと、
「……わかった」
 と小さな声で答えてくれた。
 今は、これで良しとしよう。とりあえず、あたしには……明日の対面があるんだから。
 
 
―――京都駅。
 
 早朝、二人は24時間営業のファミレスに入った。
「今夜、どこ泊まる?」
 グラスを見つめながら彰子は言った。
「……それは、この後どうなったかで決めよう。先に決めちゃう事ないよ」
「ごめん、すっごい緊張してる」
 震えないようにしても、グラスがカタカタと鳴るのだ。
 あぁ〜、どうしよう!
 わかり合えるだろうか? もう一度……寛と。
 
 二人は粘りに粘って、7時まで我慢した。
「じゃ、かけてるくね」
 莉世が立ち上がると、彰子は頷いた。
 最初の一歩はどうしても動かない。
 本当なら、自分で電話するべきなのはわかってる。
 でも、この1年以上電話さえしなかったのに、いきなりかけて突然切られるのは辛過ぎる!
 外にある公衆電話に、莉世が入った。
 受話器を取り、プッシュホンを押し始める。
 あぁ〜、神様!
 見るに耐えれなくなり、彰子は顔を突っ伏して視界を遮った。
 
 
「彰子?」
 ビクッとなり、顔を上げた。
 正面には、笑顔の莉世がいる。
「どうだった? 寛……いた?」
 蒼白のまま問いかけた。
「……飛んでくるって」
「えっ?」
 莉世が目を輝かせて身を乗り出した。
「ココに、すぐ来るから待っててくれって。彰子を動かさないようにしてくれって」
 寛が……ココに来てくれる? うそ……、本当に?
「久木さん、すごい慌ててたよ? わたしに『本当に彰子が京都に来てるのか?!』って問いつめるんだもん。いくら、わたしと一緒に来たんだって言っても、聞くのは彰子の事ばかり……良かったね彰子」
 彰子は、嬉しさのあまり涙を溢した。
 拒絶されて当たり前なのに、ココに来てくれるなんて。
 あたしから訪ねるべきなのに、わざわざ出向いてくれるなんて!
 肩を抱きしめられた。
 正面に座ってた莉世が、隣に移動してきたのだ。
「良かった〜、本当に良かったね」
 頷くしか出来なかった。
 一生懸命嗚咽が漏れないようにしているのに、今声を出せば大声で泣いてしまう。
 莉世に肩を抱かれたまま、彰子は涙を流した。
 
 やっと涙が止まると、彰子は莉世に苦笑いした。
「ごめん、泣いちゃって」
「ううん、わかるから……彰子の気持ち。ところで、久木さん
 30分で来るって言ってたから、顔洗ってきたら?」
 30分?! 何故、それを早く言わないの!
 彰子は鞄を取ると、すぐに化粧室へ走った。
 
 やだやだ、話す事いっぱいあるのに……目を赤くしてなんかいられない。
 彰子は顔を何度も冷たい水で洗い、涙の跡を消した。
 もうすぐ、寛と会える……。1年ぶりに会えるんだ。
 鏡に映るショートカットの姿を見て、ドキッとした。
 寛……あたしのこの髪型を見て、どう思うだろう? 
 今さら関係ないか。だってヨリを戻すんじゃないんだから。
  ただあの時の気持ちを打ち明けるだけなんだから。
 顔を拭いながら、鏡の自分に言い聞かせた。
 喉元には、もちろんプラチナダイヤのリングが光っていた。

2003/06/24
  

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