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『Ring of the truth 〜込められた想い〜』【8】

 あの時、あたしは自分の考えが正解だったんだって気付いた。
 やっぱり、寛はあたしを二宮さんの代わりに付き合っていただけだって。
 ははっ、二宮さんとあたしじゃぁ、全く性格も外見も違うんだけど。
 どうして、あの時はその事に気付かなかったんだろう?
 
 
* * * * *
 
 彰子は、握り締めていたお守りを、寛に投げつけた。
 自分で、遊ばれていた事実を悟るのと、目の前でその光景を見せられるのとでは、全く意味が違う!
 
「彰子、違うんだ」
「何も言わないで!」
 彰子は、歯を食いしばって、暴走する感情を押し止めようとした。
「もういいんだから! じゃ」
 彰子は階段を駆けおりて、自分の家へ走った。
 あぁ……最低。何でこんな目にあわなくちゃいけないの? あたしがいったい何したっていうのよ!
 こんな事なら、初めから付き合うようなマネ、しなければ良かった。
 寛に、全てあげるんじゃなかった……付き合わなかったら、あたしはこんなに苦しまなくて良かったのに!
 
 しかし、何度そう思っても、その思いが嘘だと彰子にはわかっていた。
 付き合っていた時の幸せや、愛される事で生まれた心の温もり……その全ては確かに存在していたのだから。
 裏切られたからといって、寛にしか与えられなかったその全てを、拒否したくはない。
 相反する自分の気持ちを抱えて玄関に入った途端、堰を切ったように涙が溢れ出し、彰子の頬を何度も濡らした。
 
 その日以来、何故か、寛の部屋に二宮がいる事はなかった。
 寛は、窓から彰子の部屋を見て、何度も彰子に話しかけてきたが、一切取り合わなかった。無視していた。
 現場を見られて、やっと本音を……あたしとは遊びだったって言う言葉なんて、聞きたくない!
 
 
 センター試験も始まった。
 そして、彰子も制服の採寸やら手続き等で、高等部へ行く事が多くなり、寛とは自然と疎遠になってしまった。
 そんな毎日を過ごしていても、寛の受験を気にかけてなかったわけじゃない。
 今は、もう合格して欲しいと思っていた。
 好きな人にバージンを捧げる事が出来た、それだけで十分だと思うようになってさえいた。
 あとは……あたしの気持ちが寛に向かうのを止めなければ。
 報われない恋なんて、諦めた方がいい。
 彰子は、指輪を手に取って眺めていた。
 これも寛に返すべきかな?
 でも、これを見たら、寛はあたしと寝た事を思い出してしまって、二宮さんに申し訳ないって思うかも知れない。
 それなら、あたしが思い出として……持っていていいだろうか?
 遊びだったとしても、あの日は……あたしにとって忘れられない日だったから。
 
「彰子!」
 彰子は我に返り、指輪から視線を上げて、寛の部屋を見た。
 そこには、寛が顔を強ばらせて立っていた。
 もう終わらすべきかも知れない。
 こんな風に、寛から逃げてばかりじゃいけない。
 彰子は、寛の別れの言葉を聞こうと、顎を上げた。
「彰子、聞いてくれ。あの日、俺は早弥香とそういう事をしてたわけじゃない!」
 彰子は、傷む心を無視しようと、目を瞑った。
でも、脳裏には、寛の上から覆いかぶさり、キスをする二宮の姿が浮かぶ。
 彰子は、思い切り息を吸い込んで、目を開けた。
 そして、頭を振った。
「彰子、信じてくれないのか?!」
 悲痛な寛の声が、耳に飛び込んできた。
 その声に心動かされたが、彰子は寛を見つめるしか出来なかった。
 何を信じろっていうんだろう?
 何も言ってくれないのに、何も言葉にしてくれないのに。もし……、寛があたしを愛してるって言ってくれたら……あたしはその気持ちを信じようとするだろう。でも、好きという言葉さえ……1回しか言ってくれていないのに、愛してるって言ってくれるわけない。
 
「寛なら絶対合格してるよ……」
 彰子は、もうこれで終わりにしたかった。
 辛過ぎる……。
 こうして名を呼ばれて、見つめられると、まだ諦めきれてないって実感してしまったからだ。
「関西行っても頑張ってね」
 彰子は窓を閉めようとした。
 すると、その行動を押し止めようと、
「それだけ? 言う事はそれだけなのか?」
 と、寛が怒りを押し殺して言った。
「確かに、 受験で忙しくてお前を放ったらかしにしてたよ、それは悪いと思ってる。でも、それは最初に言っただろ? 勉強で忙しくなるって」
「もういい。わかってるよ、そんなの。あたし、何も言ってないじゃない!」
 感情を押し込め、冷静に言おうとしていたのに、とうとう彰子の気持ちが爆発した。
 
「お前が言ってる言葉……俺と別れたがってるように聞こえる」
「違う、あたしじゃない! 別れたがってるのは寛の方じゃない! 違った、あたしたち別れるとかの話してるけど、別れるもなにも、初めからあたしたち付き合ってなかったんだよね」
 寛はその言葉に驚愕し、彰子の言葉の意味を考えるように、押し黙った。
 しかし、だんだん目つきが鋭くなると、彰子を射貫くように睨み付けた。
「お前は、俺たちが付き合ってなかったって言ってるのか? じゃぁ、俺らの関係はなんだったんだよ!」
 それは、あたしが聞きたい、あたしが聞きたい事だよ!
 いったい何だったの、あたしたち。
 感情に負けそうになる。
 寛のせいで弱くなった涙腺が、目に膜を作り始める。
 それを隠すように、彰子は息を吸って、感情を隠すように瞼を閉じた。
「寛にとって、ほんの暇つぶし……K大に行くまでの、ほんのお遊びだったんでしょ? 別に寛を責めてない、気付かなかったあたしが悪いんだから……でも、すごいショックだった。誰が二宮さんの代わりに付き合って欲しいなんて思うの? その鞘当てを、あたしにしないで欲しかったよ」
「だまれっ!」
 突然の大声に、彰子はビクッと躰が震え、咄嗟に瞼を開けた。
 
 寛は憤怒の如く顔を赤くし……すごい形相で彰子を睨み付けていた。

2003/05/21
  

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