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『Ring of the truth 〜込められた想い〜』【5】

 あたしは、あの時の寛の行動を見て……寛に彼女がいた事を知るべきだった。
 どうして、そう思わなかったんだろう?
 あんな風にあたしを宥め、キスさえ慣れていたのに。
 慣れているという事は、以前そういう関係の女性がいたって事だ。
 そう、つまり……彼女がいた。
 それはいい、許せる。
 彼女が一人や二人いて当たり前だ……あのとおりの人気ものだったんだから。
 
 確かに、あたしは寛に付き合おうとか言われたわけじゃなかったけど、あたしは付き合ってるって思ってた。
 あの日以来、いつの間にか一緒にいる事が多くなり、デートも何度もするようになったんだから。
 でしょう? そういう付き合いをしていたら、二人は付き合ってるって思うのも当然の事だよ。
 そして、そう思わせる出来事だって、あったんだから。
 
 彰子は、あれは夢ではない……現実に起きた事だと証明する為に、首にある証拠の品を強く握った。
 
 
* * * * *
 
 彰子は中3になり、寛は高3になった。
 二人とも受験シーズンに突入したのだ。
 
 そんなある日。
「彰子、お前1泊って出来る?」
 その言葉の意味を理解すると同時に、胸が急に高鳴った。
「……うん」
「じゃぁ、4月の連休空けといて」
「……わかった」
 彰子は、とうとうお誘いがきたのだとわかった。
 付き合い初めて、早半年……今まではキスや触れ合ったりするだけだったが、最後までいった事はなかった。
 とうとう……あたし、寛のモノになるんだ。
 そう思った瞬間、躰が熱くなった。
 日々強くなる欲望……その全てが、寛によって解放されるかと思うと、躰が疼いてくる。
 
 
 寛が連れて行ってくれたのは、何とTDLだった。
「どうして?」
「俺ら、受験生だろ? もうそんなに遊べなくなるから、今のうちに遊んでおきたいなぁ〜と思ってさ」
 その言葉に、彰子は何の疑いも抱かなかった。
 そこまで考えてくれる事が、とても嬉しかったのだ。
 二人は思う存分アトラクションを制覇し、思い切り楽しんだ。
 
 光の洪水のパレードを見た後、ベンチに座って寄り添いながら花火を眺めた。
 愛おしそうにしっかり肩を抱く寛に、彰子はうっとりと凭れていた。
 最高のシチュエーション……、こんな素敵な日の締めくくりに、二人で泊まるのかと思うと、嬉しくて胸が踊り始めた。
「さっ、行こうか」
 促されて、彰子が立ち上がると、寛が手を差し出した。
 彰子は、ガラにもなく頬を染め、その大きな手に自分の手を滑り込ませた。
 寛とそんなに身長変わらないのに……あたしの手はすっぽりと寛の手に包み込まれてる。
 男と女の違いを、改めて実感せずにはいられなかった。
 
 
 寛が連れてきたホテルを見て、彰子は驚いてしまった。
 寛は、オフィシャルホテルを予約していたのだ。
「ねぇ、あたし別に何処のホテルでも良かったのに」
「いいんだよ。俺ら二人にとって初めての泊まりだし……そんな事は彰子が悩まなくてもいいんだよ」
 
 部屋に入ると、別々にお風呂に入った。
 緊張してしまってる彰子に対し、寛は悠然と構えてる。
「寛、あたし……初めてなんだ」
 落ち着かない彰子は、とうとう寛に打ち明けた。
「わかってるよ。お前のファーストキスも、俺がもらっただろ?」
 安心させるように笑う寛に、彰子は胸が熱くなってきた。
 自分を偽らなくてもいい、完全にあたしをわかってくれている。
 その事だけで、彰子の緊張は、全て取り除かれた。
 甘いキスと愛撫で、寛は彰子の女を全て引き出した。
 優しく触れ、それでいて全て手に入れようと飽く事なく求めてくる。
 バージンだった彰子は、何もかも寛に与えた。
 寛は、与えられるモノだけでなく、彰子の全てを奪うように手に入れた。
 そう、彰子の心と躰は、寛のモノになったのだ……。
 
 
「彰子……痛かった?」
 優しく髪を撫でる寛に、彰子は微笑んだ。
「すごく」
 彰子はそう答えたが、痛さよりも寛の態度に心打たれていた。
 優しく抱きしめながらも、彰子を決して離さない態度を示した事を。
 
「お前にあげたいものがあるんだ」
 寛は、サイドテーブルの引き出しから、一つの箱を取り出すと、彰子に渡した。
 空っぽの引き出しなのに、いつの間に私物を入れたんだろう?
「何?」
「開けてみて」
 二人でヘッドボードに凭れながら、彰子はその包みを開けた。
 出てきたのは、プラチナの指輪だった。
 彰子の胸は、急激に高鳴った。
 嘘……。
 呆然とする彰子に、寛は指輪を取ると、左手の薬指に填めた。
 それは、すっきりと伸びる彰子の指に、ぴったりと重なった。
「今日、お前の大切なものを俺が貰ったから……俺も記念になるような、いつでも今日の日を忘れないような贈り物をしたかったんだ」
「寛……」
 彰子は感激で目頭が熱くなった。
 普段あまり緩まない涙腺が、寛のせいで溢れそうになった。
「嬉しい……嬉しいよ」
 彰子は、その指輪に見入った。
 寛は、あたしの事を大切にしてくれる……、こんなにあたしを想ってくれてるんだ。
「大切にする」
 彰子は震える声で言いながら、隣で見つめる寛に微笑んだ。
 寛も、喜ぶ彰子を見て、嬉しそうに笑った。
 
* * * * *
 
 
 あたしは、この指輪が愛の証だと思っていた。
 だから、寛が予備校に通い出したり、勉強で忙しくなっても、あたしは構わなかった。
 寛からもらった指輪があるんだから……って。

2003/05/18
  

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