side: 健介
「青年、菜乃を抱いたのか?」
「えっ?!」
健介の心臓が一瞬で激しく高鳴ったものの、男としての魅力を兼ね備えていて堂々とした志月を見た。
(こういう人の前にいると……子供のような気分だ。俺なんか、まだまだ甘ちゃんとしか思えない。こういう男こそ、女が惚れ込むんだよな)
健介の心の中に、突然志月に対して憧れが芽生え始めた。
「そうだろう? 青年が……菜乃を女にしたんだな?」
こういう時、どういった反応をみせればいいのかわからない。健介はキョロキョロ視線を動かして話題を逸らしたくなったが、志月の迫力がそれを許さず、彼の視線から逃れる事が出来なかった。
それを見た、志月がフッと口元を緩めて笑う。
「気にするな、正直に言え」
(い、いいのか? 正直に言っても?)
健介は躊躇したが、志月の表情を見て決心をした。
「はい、抱きました」
「てめぇ〜、俺の菜乃に手を出したのか?!」
志月は、健介の首を思い切り腕で締め上げた。その力に耐え切れなくなった健介は、ギブアップというように彼の腕を叩く。
だが、その力が緩む事はない。
(く、苦しい……)
そう思った瞬間、ふわっと力が抜け、息が出来るようになった。
「甘いな、青年」
ジロリと睨まれてしまい、健介は思わず身を後ろに引いた。それを見た志月は、再び口元を綻ばす。
コロコロと変わる志月の態度に、健介は戸惑わずにはいられなかった。
(俺は、この人の前で……いったいどういう態度を取ればいいんだ?!)
そんな健介の戸惑いを感じる事もないのか、志月が普通に話し始めた。
「菜乃は、本当に可愛かった。兄貴も菜乃の父親になれて、本当に喜んでた」
志月は、再び画面を見つめる。
それにつられて健介も画面を見るが、その激しい求め合いに正視出来ない。
(俺一人なら……楽しめるんだが)
「だが、菜乃は兄貴に遠慮してる部分もあってな。そんな菜乃を、俺が兄として見守ってきたんだ」
この人は、どうしてアダルトビデオを見ながら冷静に話せるんだろうか?
「青年、お前は菜乃を悲しませないと約束出来るか」
健介は、ここで信用してもらわなければいけないと思った。菜乃をとても愛してるという事を。
口を開こうとすると、志月が言葉を発した。
「菜乃のバージンを食ったんだから……当然だよな?」
(ど、どうして、この人……志月さんは、菜乃がバージンだったって知ってるんだ?1)
眉間に皺を寄せていたのだろう。志月にジロリと睨まれ、健介は再び唾をゴクリと飲み込んだ。
「俺は……菜乃を大切にします」
健介の真意を図るように、志月は心の奥底まで覗き込む視線を送る。
負けてはいけない。ここで負けて視線を逸らせてしまえば、菜乃とは会えなくなってしまうかも知れないんだ。
健介はわかってしまった。
菜乃と付き合うには、彼女の両親よりも……この人、叔父である志月に認めて貰わなければならないという事が。
そんな意気込みを知ったのか、志月は目元を和ませた。
「青年、菜乃を宜しくな」
「は、はい!」
(俺は……認めてもらえた、のか?)
菜乃の家族の一人から認められたと思うと、健介の胸に幸せが込み上げてきた。
「ところで、青年。ちゃんと上手くやったんだろうな? 菜乃を優しく抱いたのか? ……もしや、痛がらせた……って事はないだろうな?」
「えっ?!」
(それは……菜乃との、最初の……セックス?)
志月の目が、キラリと鋭く光る。
「いいか。ビデオでも何でも見て勉強しろ。女の心理を勉強するんだ。女は、砂糖菓子なんだ。乱暴に扱えば、すぐに潰れてしまう。周囲からゆっくり転がし、舐めあげ……芯まで慎重に扱う。そうすれば、女は……」
―――バンッ!
「痛ッ!」
お菓子を入れたお盆で、菜乃が叩いたのだ。
「志月! 何を健介に吹き込んでるのよ! 志月のえっち理論なんかタメにならないんだから」
顔を真っ赤に染めて怒る菜乃を見ながら、健介は志月の弁護に回りたくなった。
なぜなら、志月の言葉には一理あると思ったからだ。
「それに、いつまでこんなビデオを見てるのよ」
「だから、言ったろ? 勉強だよ。菜乃にだって見せてやったろ?」
「志月!」
志月は、菜乃を無視すると健介に振り返った。
「いいか。固い殻を持った砂糖菓子もあるが、丁寧に攻めていけば……柔らかくなる。青年、お前もしっかり覚えておけ」
「はい!」
健介は、真剣に頷いた。
それを見た菜乃が、テーブルにクッキー等のお菓子を叩きつけるように置いた。
「志月……そんな事を健介に教えないでよ。もし、健介が他の女の所で試したらどうするの?」
唇を震わせて言う菜乃を見て、志月は健介に鋭い視線を向けた。
「そうなのか? 青年、お前は菜乃を足蹴にするのか?」
「とんでもない! 俺は菜乃一筋ですから!」
(菜乃を知った今、俺が他の女に走るわけない!)
「という事だから、菜乃、心配するな。俺がしっかり言ってやったからな」
……言ってもらっただろうか?
首を捻りたかったが、健介は志月の視界に入るのを恐れ、ジッと耐えた。
再び健介に視線を向けると、志月がニヤリと笑った。
「菜乃は、極上の砂糖菓子だ。壊すような事はするなよ?」
極上の砂糖菓子……確かにそうだ。菜乃は、可愛くて……そして甘くて、とろとろ蕩けていくような躯を持っているんだから。
「志月は、そんな事言ってばっかり! もう……健介、わたしの部屋へ行こう」
菜乃は志月を睨みながら、健介の腕を引っ張りあげた。
引っ張られるまま菜乃と一緒に歩くが、健介は志月を振り返って見た。
(女性にもてそうな程かっこいい人なんだが、本当に変な人だ。アダルトビデオを、平然と姪の前で見れるって考えられない)
だが、彼の言う事は理解出来た。それに、とっても菜乃の事を愛してるって事も伝わってきた。
健介は、志月から頬を染めた菜乃へと視線を移した。
(俺……志月さんの言うとおりだと思う。菜乃は……極上の砂糖菓子だ)
健介は、うっとりと菜乃を見つめながら、再び菜乃の部屋に入った。
甘い砂糖菓子を一口味わいたいと思いながら……。
だが、一言言わずにはいられなかった。
「菜乃……志月さん、俺の事青年≠ニしか呼ばなかったよ」
その呟きを聞いた菜乃は、クスクス笑うだけだった。