最終章『忘れられない蜜華』【7】

「かな、と……っぁ、やん、っんん!」
 乃愛がもう達しそうになっていると、叶都の指にも伝わったのだろう。叶都の指を咥え込もうと蠢く秘部から、彼はいきなり指を抜いた。
「あああぁぁ……」
 望んでいた刺激を与えてはもらえないとわかった途端、乃愛の口からはもの足りないと言わんばかりの息が漏れる。
 ガチャガチャとベルトの音に続いて、生地の擦れる音が乃愛の耳に届いた。
 いつの間にか閉じていた瞼をゆっくり開けて、叶都に焦点を合わせる。
 叶都はズボンと下着を脱ぎ捨てており、怒張した彼自身にコンドームを付けているところだった。
 身長も伸び、躯も大きくなったからだろうか?
 天を突くようにそそり勃つ叶都自身は、乃愛の記憶とは全く違って大きく、さらに太くて赤黒く見えた。
(あれが、わたしの膣内に入ってくる。何度も何度も律動を繰り返して、わたしをあの快楽の世界へ押し上げてくれる!)
 乃愛の心臓が、さらに早鐘を打ち始める。あまりの強さに、胸が痛いほどだった。
 そんな乃愛を、叶都が上目遣いで見つめる。
「すぐにイかせてやる……」
 乃愛の膝を抱えるのではなく、叶都はその下にあるテーブルに手を置いた。叶都の腕が大腿に触れて、自然と足が大きく開く。
 恥ずかしい姿をさらしていることはわかっていたが、乃愛は叶都が腰を落とし、大きく漲った彼自身を秘部にあてるその動きを見つめた。
 熱く濡れた敏感な場所に、彼のモノが少し触れただけで躯がビクッと震える。
 流し目で乃愛を見つめてきたその目とぶつかった途端、叶都は一気に膣内に自身を挿入した。
「あああっ……。っんん、はぁ、大きい……っく!」
 想像していたよりも大きく、太い彼自身に、乃愛は顔を顰める。
 だが、小刻みに律動を繰り返してくれたお蔭で、だんだん彼自身の大きさに慣れてきた。
 それを伝えるように、彼のモノをさらに奥へ招こうと、勝手に膣内が蠢く。
「……うっ!」
 叶都の口から、抑えた呻き声が漏れる。乃愛だけが感じてるのではないとわかると、嬉しくなってきた。
 愛を囁くように、叶都の首に両腕を巻きつける。
 乃愛に触れられたことで、叶都は乃愛の顔の横に手を置き直し、体重をかけるように覆い被さってきた。
 彼の重みで、乃愛の足はひしゃげた蛙のように自然と足が開く。
「この方が断然いい」
 乃愛の口元でそう囁くと、軽くキスをした。
「っんんん!」
 すぐにキスは終わったが、乃愛を駆り立てるように抽送のリズムが速くなる。
「あっ、あっ……はぁう……っく、っんん、もう!」
 膣奥深く突き上げられるたびに、乃愛に襲いかかる小さな波はどんどん大きくなってきた。あまりの快感に、むせび泣きそうになる。
 早く達したい……その一心で、足を叶都の腰に巻きつけ、さらに奥へ迎え入れる。
 結合がさらに深くなると、叶都は膣内を掻き回すように抽送を始めた。溢れ出た愛液と空気が混じり合い、淫靡な音が部屋に響く。
(ああ、ダメ! もう……躯がバラバラになっちゃう!)
 その時だった。
「乃愛……。俺は、乃愛を……愛してる」
 たったその一言が、乃愛を天高く押し上げた。
 躯の芯を突き抜けていく凄まじい悦びに、乃愛は瞼をギュッと閉じて身を投げ出した。
 瞼の裏では、眩しい光線が何度も煌めく。その中の一つが大きく光って弾けると、乃愛は大きくのけ反った。
「きゃあああぁぁーーー!!」
 四肢が一瞬にして硬直する。何も音が聞こえなくなるまで押し上げられた乃愛は、至福の淵へと飛んでいった。
 快感をまだ貪ろうと、叶都自身を捕えて離さない秘部は、さらに奥へと誘うように蠢く。
 その力強い波動に耐え切れなくなったのか、叶都が獣のような咆哮を上げた。促されるまま膣内で精を放ち、乃愛の上に倒れ込んだ。
 
 
 楽園からやっと現実に戻ると、乃愛は叶都をそっと抱きしめた。脱がなかった制服のシャツはじっとりと汗ばんでいたが、優しく叶都の背を上下に撫でる。
 こうして誤解も解けて、叶都と愛し合うことができた。
 でも、実質的なことは何も変わらない――と、乃愛は改めて思った。
 叶都と別れなければ、父は失職する……。この話は、白紙に戻ったのではない。きっと今も有効のはず。
(結局、わたしと叶都は元の鞘に戻れないってこと……)
 何故、乃愛が叶都と別れたのか、彼はその事情を知っている。だから、もう嘘を言わなくてもいい。
 でも、愛する男性と付き合うことはできない……
 現実を直視した途端悲しくなり、乃愛の涙腺が弛み始めた。
 叶都に涙を見られないよう必死に堪えようとしたせいで、胸が小刻みに震える。
「乃愛? どうした?」
 叶都は身を起こして、乃愛の顔を見下ろす。
 乃愛の目に涙が浮かんでいるのを見て、叶都は目を大きく見開いた。
 しばらくそんな乃愛を見下ろしていたが、すぐに優しく乃愛の頬を撫で、零れ落ちそうになった涙を指の腹で拭った。
「……何も心配しなくていい。きっと、俺の父に言われたことを思い出したんだろ?」
「ど、どうして?」
 乃愛は息を呑んで、叶都を見上げた。
 何を考えていたのか、どうしてわかるのだろう?
(そうだった……。叶都は、昔からわたしの心を読むのにたけていた。何も口に出していないのに、わかってくれていて……)
「そうじゃないかと思った。結局、俺たちが別れた原因はそこ≠ノあるんだし」
 突然、叶都が大きなため息をついた。先程の至福の表情とは違い、何故か苦悶するように頬が強ばっている。
「叶都?」
 叶都の背中を上下に撫でて、意識をこちらに向けてくれと促す。
「悪い……。昔の嫌な記憶が蘇ってさ。……乃愛と別れたあと、俺は一時期荒れたんだ。そんな俺に何かと干渉してくる父がうるさくて、ある約束を交わしたんだよ。成績は、学年で10番以内をキープ。さらに、城聖の生徒会に入る。そして、父も卒業した大学へ入学すること。それを順番にクリアしていけば、俺が何をしようと一切干渉しないと」
 再び大きなため息をついてから、叶都は乃愛に視線を向けた。
「父の掌の上で動かされてるのはわかっていたが、それで干渉されないんなら……父が敷いたレールを走ってやろうと思った。当時、俺はそれで構わないと思ったんだ」
 そこまで言うと、突然叶都は口元を綻ばせた。乃愛の頬を優しく撫で、ゆっくり顔を寄せてくる。
「結果……、俺は父の干渉を一切受けていない」
 その言葉に、乃愛の心臓がドキンッと高鳴る。
「それって、つまり……」
 乃愛の心の中で、少し光が見え始めた。
「そう。父との約束を守りさえすれば、俺が何をしようと、誰と付き合おうと文句は言えないということだ。もし、何かしようとでもしたら、こっちも反逆に出てやる。俺が必ずそうすることを知ってるから、父は決して手をだそうとしないだろう。だから、乃愛はもう何も心配する必要はないんだ。乃愛のお父さんのことも……」
(何も心配しなくていい? お父さんがリストラの危機に晒されることも、家族がバラバラになることも考えなくていいの?)

2011/09/27
  

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