第二章『華の蜜に誘われて』【20】

「かな、と?」
「俺、我慢できない。もう……挿れていい?」
「うん」
 乃愛の言葉を受けて、急いでコンドームをつける彼の後ろ姿を見ていると、期待から秘部が勝手に戦慄いた。
 叶都がゆっくり振り返る。視線が絡み合っただけで、下腹部が熱く火照り始めた。
 ミニスカートが捲れて、柔らかい茂みはきっと丸見えになっているだろう。乳房も叶都の目に晒されてる。
 普通では考えられない……あられもない姿でベッドに横たわっているのに、乃愛は全く恥じらいを覚えなかった。
 それどころか、早く叶都に抱きしめてもらいたくて堪らない。
 ゆっくりと乃愛にのしかかってくる叶都の動きを助けるように、両足を大きく開いて、躯の中心に彼を呼び込む。
「……乃愛からそんな行動を取ってくれるなんて、マジ俺ヤバイかも」
 一瞬天を仰いだ叶都だったが、すぐに乃愛へと視線を向けた。乃愛の膝の裏に手を入れて、さらに足を大きく開くように促される。
 ぱっくりと開いた乃愛の襞を掻き分けるようにしながら、叶都はゆっくり挿入してきた。
「ああっ……っんんぁ!」
 膣壁を押し広げて入ってくる、漲った叶都自身。穴を掘るようにして、どんどん膣奥へと進んでいく。
 きつい感じはあったが、1週間前に襲ってきた破瓜の痛みはなかった。
「……っく、はあ……全部入った」
 小さく吐息をつきながら、叶都が満足そうに呟く。
「悪い……、俺……長く保ちそうもない」
 乃愛にそう告げた途端、叶都は律動を始めた。
 最初はゆっくりと浅い抽送だったが、何回かに1度は膣奥まで突き上げてくる。そのたびに、乃愛はのけ反った。
 揺れる乳房に叶都が吸いつき、乳首を弄られると自然と躯に力が入った。膣が勝手に収縮して叶都を締めつけると、乃愛の胸元で彼が呻き声を漏らす。
 うっとりとした恍惚の表情を浮かべているので、苦しいのではないだろう。
 そんな表情をさせているのが乃愛自身だと思うと、嬉しくて堪らない。初めて叶都と愛し合った時よりも、今の方がさらに喜びを感じる。
 叶都と愛し合う度に、乃愛の気持ちが彼に傾いていくのがわかる。
 めちゃくちゃに愛して――と叫びたいぐらい、叶都しか見えない。
 こんなにも彼を愛してしまうなんて。もし別れなければならない日が来たら、どうしよう……
「怖い……」
「えっ? 乃愛、何?」
「ううん、もっと……っんん、あっ……わたしを、愛して」
「心配しなくても、俺は、乃愛だけを!」
 叶都の律動が速くなった。乃愛の膣壁を擦るように、腰を回しながら抽送を繰り返す。
「あっ、あっ……っんいい……、はっ、ぁんん!」
 瞼をギュッと閉じ、押し上げられる快楽に意識を集中させる。まだ男性を受け入れることに慣れていないのに、溢れ出る愛液が、叶都の動きを滑らかにしてくれる。
 じゅぷじゅぷと鳴る淫猥な音と、湿り気を帯びた肌の張りつく音が、今何をしているのか如実に語りかけてきた。
 乃愛の躯に走る甘い電流がバチバチと鳴って、ショートする寸前まで押し上げられていると。
「ダメ、……かな、と! わたし、もう……っぁん、はっ、っんん!」
 乃愛の白い頬は紅色に染まり、薔薇色の唇から漏れる吐息は熱を孕んでいた。
 押し上げられる快感に、何度も頭を振っている乃愛に、叶都が顔を寄せて唇を奪った。
「俺も……もう限界」
 ふたりの気持ちは、共に同じ場所に向かっていた。
 叶都の律動がさらに速くなる。その動きに合わせて、乃愛は足を大きく開いた。結合が深くなるように、叶都を導く。
「ああっ!」
 叶都の茂みに、ぷっくりと膨らんだ蕾を何度も撫でられた。敏感になった蕾を攻めては、乃愛に微妙な刺激を送り込んでくる。
「っんぁあ、もうダメ! あっ……わ、わたし……っんん」
 あともう少し……、何かのきっかけで飛翔できる。
 だが、いきなり叶都が咆哮を上げた。
 しばらくすると脱力し、乃愛の躯に全体重をかけてきた。彼の荒い息遣いが、乃愛の肌をなぶる。
 あの恍惚感に浸れる寸前まで駆け上がったのに、突然道が裂けて、それ以上高みに登れなくなった。
 届きそうで届かない、それがこんなにも欲求不満になるなんて……
 最後の極みに達することはできなかったが、乃愛は叶都のシャツの中に手を滑り込ませ、汗ばむ彼の背中をギュッと抱きしめた。
 常にイカせて欲しいとせがむのは我が儘だろう。
 手が届きそうなところまで押し上げられていたのに、絶頂に達することができなかったのは、セックスの経験がないに等しい乃愛のせいでもあるのだから。
 
「……ゴメン。俺、我慢できなかった」
「ううん、とても……良かった」
 強烈な快感を得ることはできなかったけど、叶都の口と手でイカせてもらえた。今はそれで十分だった。
 叶都を抱きしめながら視線を窓に向けると、外では雪が降っていた。躯は熱を帯びているのに、雪を見た途端自然と躯が震えた。
「……寒い?」
「ううん。それより、外を見て。ボタン雪が降ってる」
「本当だ……。帰り、大変だな。このまま泊まっていけばいいのに」
「そして、おばさまに叶都と付き合ってるとバラすの? それはダメよ」
 乃愛は、叶都をギュッと強く抱きしめた。
 叶都と別れるようなことになったら、……生きていけない。こんなにも、叶都を愛してしまったから!
 叶都の家庭教師をしていたふたりと同じ轍を踏みたくはなかった。
 来年の4月には、家庭教師期間が終わる。それまでは、絶対叶都の両親に知られてはいけない。知られることなく、無事に4月を迎えたら……きっとふたりの関係は上手くいく。
 そんな願かけまでして、乃愛は叶都の肩にキスをした。
「ホワイトメリークリスマス……」
 叶都が動けるようになるまで、乃愛はそのまま彼の重みを愛おしそうに感じていた。
 
   ***
 
 新年を迎えると、叶都に誘われて一緒に初詣に行った。
 受験の話をしたがらなかったので高校名はわからなかったが、乃愛はこっそりと叶都の高校合格を祈った。
 叶都の受験前後は会うのを控えたが、恋人同士のイベントが目白押しの2月と3月は、できるだけデートを繰り返した。
 片時も離れていられない、愛し合わずにはいられない――と伝え合うように、ふたりはお互いしか見ていなかった。
 それがいけなかったのかも知れない……
 
 ――3月30日。
 その日は、家庭教師として叶都の家に堂々と入れる最後の日だった。
「次からは、俺の恋人としてこの家に来るんだな」
 嬉しそうに話す叶都に、乃愛は抱きついて乳房を押しつける。
「何? そうなったらイヤ?」
「そんなわけないだろ! ただ、俺と乃愛がこういう関係だって親が知ったら、今までのように、頻繁にベッドで愛し合えなくなる」
 クスクス笑う乃愛を、叶都がベッドに押し倒す。
「……いいか。専門学校で新しい出会いなんかしたら、絶対許さないからな」
 久しぶりに叶都が独占欲を示してきた。それがどれほど嬉しいか、叶都はわからないだろう。
 叶都にバージンをあげた今、乃愛があげられるのは叶都を想う愛情しかない。
 乃愛は叶都を愛している≠ニ告げるように彼の手を取ると、大胆にも乳房の上に引き寄せた。
 空いた手で、ブラウスのボタンをゆっくり外し始める。ブラジャーから零れそうな乳房が露になると、叶都の方からブラウスの隙間から手を滑らせて乳房を包み込んだ。
「俺……マジ乃愛しか目に入らない」
 叶都は欲望に駆られて乃愛を裸にし、愛撫の手を伸ばしてきた。乃愛も叶都の手で呼び起こされる官能的な世界に喜んで身を投じ、愉悦に浸った。
 ベッドで淫らに振る舞い、お互いを求め合っているまさにその時だった。
 ドアの隙間から、誰かがベッドで愛し合うふたりを見つめていた。
 叶都が乃愛の膣内に入り、喘ぎ声を漏らす乃愛をジッと見つめていたなんて思いもしなかった。
 この日に限って、叶都はドアに鍵をするのを忘れていたなんて……
 ふたりで咲かせた蜜華≠ェ、もうすぐグシャと握り潰されるとは知らず、乃愛は叶都の愛を一身に受けて幸せに浸っていた……

2011/06/04
  

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