開設7周年・連動企画☆

『鋭い爪が、ココロ触れるとき』【6】

 お互いの躯が熱を帯び、肌がほんのりと汗ばんできた。
 莉世の愛液が一貴のピストン運動を助けると共に、溢れ出た淫猥な音が空気と混じり合ってぐちゅぐちゅと響き出す。
 さらに、一貴の抽送のリズムが速くなると、お互いの肌が引っつき合う独特の音が鳴りだした。
「あっ、あっ、あっ、っんんん、やぁ……はぁう…っく!」
 全速力で走っている時のように、一貴の荒い息遣いが聞こえてくる。
(あぁぁ、もうダメかも!)
 一貴はスピードを緩めず、腰を捻りながら突いてきた。今まで当たらなかった敏感な部分に触れ、莉世は何度も躯を震わせた。
 肌にまとわりつく快感の世界に身を置いていたが、突然目の前に光が見えた。波のようにうねりながら襲いかかる快い甘い電流に貫かれると、莉世はどんどんその光の方へと押し上げられた。
「はぁぅ……っんん、ダメ、……イ、イク、……あっ、はぁっ、ぅんん、っああああ!」
 光の球がどんどん大きくなって、莉世の全てを一瞬で呑み込んだ。躯が一瞬で硬直する前に、必死になって一貴を抱き締めた。光に包まれたまま高く飛翔し、莉世は快楽の絶頂に達した。
 膣内の激しい収縮に一貴が呻き、さらに咆哮を上げたが、莉世は楽園に漂っていたいたので全く気付かなかった。
 莉世を包み込んだ神々しい光がどんどん遠ざかっていくと、そのまま潮の満ち引きに身を委ねるようにゆっくり四肢を弛緩した。
 
 
 唇に柔らかい感触を受けて、莉世はゆっくり瞼を開けた。一貴が優しい笑みを浮かべて、こちらを窺っている。
「……一貴」
 満ち足りたせいか、莉世も自然と笑みを向けた。
「きつくなかったか?」
 とても素敵な行為に莉世はさらに口元を綻ばせると、恥ずかしそうに一貴から視線を逸らした。
「……わたしは大丈夫よ」
 一貴が莉世の背に手を回し、ゆっくり身を起こさせた。
 すぐに視線が一貴の裸に目に入ったが、既にコンドームの処理は終えていたようで、ボタンは外しているがきちんとズボンを穿いている。
「テーブルは……冷たかったかも知れないが、ココで莉世を抱く必要があった」
 抱く、必要?
 それはどういう意味なのかと思ったが、重力に従って乳房が元に戻ると、一貴が手を伸ばしてきたので思考がその行為へと移った。
「俺の愛撫で、乳首がかなり膨らんでる。乳輪もいつもより濃いか?」
「一貴!」
 両手で胸を隠そうとしたが、一貴がそれを押し止めた。
「胸が大きいとか小さいとか……そういうのは気にしないが、俺の手で豊かになったと聞けたらそれはそれで嬉しい」
 一貴が胸に顔を近づけて、乳首を口に含む。
「……はぁ」
 満たされたとは言っても、躯はまだ敏感になっている。目の前で刺激を与えられた莉世は、躯をビクッと震わせた。
 莉世が敏感に反応を示して嬉しいのだろう。乳首を離すと、上目遣いで莉世を見る一貴の目元が笑っていた。
 一貴は重みを確かめるように、莉世の乳房を下から包み込むと掬い上げた。
「確かに、重みは増したな……」
 ゆっくり揉みしだき、親指で乳首を摩ってくる。そのたびに、莉世の躯はビクッと震えた。声も抑えているのに、吐息となって口から漏れてしまう。
「もう、ダメ。明日……筋肉痛だよ?」
 莉世の言葉で、一貴はやっと手を話してくれた。
「さぁ、シャワーを浴びるか?」
 莉世の背中と膝の下に手を沿えると、一貴はそのまま横抱きに抱き上げた。
「あっ!」
  びっくりしたが、莉世は自然と一貴の首に手を回す。
 一貴はゲスト専用のバスルームではなくマスタールームのバスルームへと向かう為、リビングを通って行く。
 一貴の部屋へ向かっているとわかっているのに、莉世の視線はダイニングテーブルに移った。
(……あれ?)
 響子に意思表示されてからは、ダイニングルームにあるテーブルを見たらあの嫌な記憶が蘇ってきていた。
 それが今では、テーブルに仰向けになった莉世が一貴に愛されている姿を浮かんでくる。もちろん、その姿を見たわけではないので、浮かぶという言い方はおかしいのかもしれない。
 でも、一貴が莉世に覆い被さり何度も何度も悦ばせてくれた光景が、鮮やかに浮かんでくる。
 
 ―――ココで莉世を抱く必要があった≠ニ一貴が言った。
 
(もしかして、響子さんが暗に教えてきた事が何なのか……一貴はわかっていたの? それが何なのか、わたしが想像した事も? 何も言っていないし、何も訊かれていないけれど、一貴はわたしの気持ちを察して、その記憶を塗り替えようとした?)
 一貴と響子のセックスではなく、一貴と莉世が愛し合った場所だと?
 一貴の優しさに感極まった莉世の唇が、プルプルと震え始めた。
 昔の記憶をなかった事には出来ない。それは二人がよく知っている事。それならば、古い記憶の上に新しい出来事を塗り替えればいい。
 そうやって、二人の大切な記憶を作っていく……
(わたし……本当に一貴に愛されてるのね。それは昔から……わたしが生れた時からずっと。妹のように大切にし、付き合うようになってからはわたしだけを見つめてくれている)
 一貴の根本的なところは何も変わっていない。全て、莉世を想って行動している。
(つまり、あの日……。わたしを部屋に押し込めてでも、響子さんを愛さなければならない理由があった。そう思っていいのよね?)
 いつの間にか一貴はリビングルームとマスタールームの境界で立ち止まり、莉世がダイニングを見て何か考えているのをジッと見つめていた。
「……莉世?」
 一貴の声にハッと我に返ると、莉世は涙で潤んだ目で間近にある一貴の目を見つめた。
「……一貴」
「うん?」
 一貴は、何も聞かず莉世を愛してくれた。それならば、莉世も二人が何をしたのかという話題を口にしない。そう強く心に誓った。
 未だこちらの心を覗き込むように見つめてくる一貴に、莉世はクスッと笑う。
 不可解な莉世の笑みのせいか、一瞬で一貴の眉間に皺が寄る。それを見て、莉世は再び口元を綻ばせた。
「一貴……、わたしの……ブラとお揃いのパンティがテーブルの下に置きっぱなしよ」
 莉世の言葉に、一貴は目を大きく見開いた。次第に表情を崩して、大声で笑いだす。
「お前ってやつは……。大丈夫だ。後で持ってきてやるし、お前のパンティなら部屋に常備してある。……ただ、ブラとのセットは難しいな」
 まだ露になったままの莉世の乳房に、一貴が視線を落とした。
「俺が買った頃に比べると、サイズがアップしてるから」
「もう! 一貴ったら!」
 莉世は、笑いながら一貴の肩を叩いた。
「次は、きちんとDカップのセットを買っておく」
 笑いながら言う一貴に、莉世は頬を染めながら彼の耳に顔を寄せた。
「……お願いね」
 囁いたせいで、一貴の躯がブルッと震えたのが莉世にも伝わってきた。
「そんな事をして、明日どうなるかわからないぞ? 皆の前で筋肉痛を披露しても、俺は知らないからな」
 欲望を隠そうとはせずに、一貴はそのまま奥にあるバスルームへ向かった。
 一貴の言葉どおり、莉世はバスルームで一貴に愛される羽目になった。莉世はタイルに手をついてお尻を突き出す格好をさせられ、乳房を揉みしだかれながら怒張した彼自身に貫かれた。
 バスルーム内では、莉世の喘ぎ声が絶え間なく反響していた。
 教師と生徒という立場だが、明日から約二週間昼も夜も共に行動出来る。なのに、今のうちに愛し合えるだけ愛し合おうとでもいうように……二人はお互いを求め合った。
 
 
 ―――40分後。
 
 莉世は何度も愛された事でぐったりとし、一貴のベッドで俯せになって寝ていた。
 一貴はヘッドボードに凭れながら莉世を見下ろし、綺麗な背中をそっと撫でる。微かに吐息を漏らすも起きる様子はなかった。
 いろいろと考える為に煙草を吸いたかったが、莉世の側では吸わないと誓っている。手持ち無沙汰だったが、それを解消するように腕を組むとジッと響子の事を考えた。
 別れて以来、一貴は響子との接点を全て断っていた。そんな中、昨年響子から一通のハガキが届き、今年の正月は突然実家へ現われた。
 とどめは、今日の突撃訪問……
 莉世に二人が深い関係だったと言って何になる? 莉世に嫉妬をしているのだろうか?
(いったい響子は何を考えているんだ……。もしや、俺に言ったように実行するつもりなのか?!)
 響子は、宣言していた。一貴が誰を好きになり、誰と付き合う事になっても、成就しないよう相手を徹底的に攻撃すると。
(……莉世が相手だと、絶対響子に知られてはならない。莉世に負けたと知れば、響子はどんな手を使っても俺たちを別れさせようとするだろう)
 莉世が無事に高校を卒業し、一貴自身が教職を辞するまでは、気取られないように振る舞わなければ。
(それが莉世を守ることになる。俺たちの関係も……)
 明日から修学旅行で日本を離れる事に、一貴はホッとしていた。その間に、これからの事を考えようと思った。
 一貴にとっても、生徒と共に旅行へ行くのは今回で最後となる。生徒たちの記憶に残るような旅行にしてあげたいと強く思っていた。
 莉世にとっても素敵な旅行に……と。
 これからの一年、この修学旅行が元となって波乱が待ち受けているとは知らずに、一貴は莉世の柔らかな頬を指で撫でていたのだった。

2010/04/07
  

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