『November 27、ココロ込めて』【3】

 リビングにある料理の事など、もう頭になかった。今ココロにあるのは、やっと……一貴の望む事を許してあげるという事。
 ココロを込めて、その行為に応じるという事。ただ、それだけ……
 
 一貴が莉世のスカートとブラウスを脇へ投げると、自分も衣服を脱ぎ捨てた。
 あぁ……これでやっとわたしは、一貴の本当の彼女になれるんだ。
 もちろん今までだって“彼女”だったけど、 全てを捧げる事で……全てを与える事で、ココロから恋人同士になれると思う。
 首筋に一貴の唇を受けると、口から甘い吐息が漏れた。
 手がいたるところに伸び、優しく触れてくる。
 激しく動く心臓に合わせて、乳房が上下に揺れるのを抑えるように、ブラの上からゆっくり触れた。
 
「何故、こんなに緊張している?」
 莉世は、ハッとなって一貴を見た。
「いつもと、一緒だよ?」
 一貴は、莉世のココロを盗み見るように目を細めた。
「俺にそれが通用すると思うか?」
 思ってない。思ってないけど、これは隠し事とかじゃないから……。
 一貴の指がブラの紐を撫で下ろす。それに合わせて、乳房がカップから零れた。
「お前、学校でも変だった」
「変じゃ、ない。いつもと、一緒だよ」
 声が喉に引っかかりながらも、絞り出す。
「携帯も切り、予告なく俺のマンションに来た理由は?」
 一貴の手が、乳房を揉み乳首を弾く。
 その度躰に走る痺れに奮え、莉世は頭を振った。
「誕生日だから、…だからっ!」
 そうは言っても、わたしの逃げ言葉に納得するような一貴ではない。
 それぐらい、よくわかってる。
 でも、わたしがずっと考えてきた事を……見抜いて欲しくない。
「一貴…」
 両手を背に回して、引き寄せる。
「お願い」
 莉世は懇願しながら擦り寄ると、喉元に顔を埋めた。
 一貴は観念したのか…ゆっくり手を動かし、敏感な箇所を探るように愛撫を繰り返し始めた。
 いつも極限まで引っ張る一貴の動きと、どうなるか予想も出来ないこれからの恐怖に、快感とは別の震えが躰を襲った。
 心臓がドキドキし、緊張感が極度に増す。
 まるで、その心臓の鼓動を確かめるように、一貴の唇が彷徨う。
 そのまま手はだんだん下に向かい、足を徐々に撫でる。
 そして……一貴の唇は、乳房からお臍へ、お臍から下腹部へとだんだん下がってきた。
 いつもなら、ここで拒否の反応を示していた。ヤダッ、やめてと。
 莉世は喘ぎながらギュッ瞼を閉じ、片手で目を覆う。
 恥ずかしい……恥ずかしいけど、一貴に全て捧げたい。一貴が望むのなら、わたしはさせてあげたいって、やっと思えるようになったの。
 でも……
  顔が赤くなるのが、わかった。
「っぁ!」
 一貴の唇が、パンティを引き下げて露になった茂みに、そっと触れるのがわかったのだ。
 思わず強く拳を握る。
 まるで………爼板の鯉になった気分だった。
 その次の行動を、震えながら耐えていたが……一貴は何もしなかった。躰に触れている手を、動かそうとさえしない。
 恐る恐る腕を下ろして瞼を開けると、下からジッと莉世を見つめていた。
「どうして拒まない?」
 その問いかけに、莉世は戸惑った。
 どうして? ……それは、一貴が望む事をさせてあげたいと思ったから。
 突然緊張の糸がプツンと切れ、視界がボヤけてしまった。
 涙が溢れてきたのだ。
 一貴は膝を立てて身を起こすと、莉世の腕を取って、同じようにそっと抱き起こした。
「莉世、やっぱりお前今日はおかしいぞ?」
 覗き込まれるが、莉世はただ頭を振った。
「莉世?」
 有無を言わさない……その静かな声質に、莉世は覚悟を決めた。
 気持ちを落ち着かせようと、何度も深呼吸をする。
「だって、今日は一貴の誕生日だから」
「だから?」
 続きを促すように言う一貴に、莉世は頬を染めた。
 どんな表情をしているのか気になり、チラッと視線を上げて一貴を見るが……表情を隠すようにすぐに下を向いた。
「……いつも拒んでる事も、許したかったの。一貴にあげられるものって……それしかないから」
 莉世は、ギュッときつく瞼を閉じた。
 何て思った? わたしを……えっちだと思う?
 耳元で聞こえる一貴の声に集中したが、その声はいつまでたっても聞こえなかった。
 ゆっくり……面を上げると、一貴は黙って全てを見透かすようにジッと見つめていた。
「言っただろ? 無理して大人になる必要はないと。今、こうしてお前と一緒に居れて……こうして俺に身を預けてくれる……それだけで十分満足している。どうして、お前の気持ちが変わったんだ?」
 どうして何も考えず、一貴が望む事をしないの? わたしは今、全てを捧げようとしているのに。
 恥ずかしさを隠すように、強く拳を握った。
「…俺が、お前の秘密の場所への愛撫を口でしようとすれば、いつも抗っていた。いつか、きっと俺の全てを受け止めてくれる日が来ると思っていたが、まさか今日だとは思わなかった。……お前が、まだその行為に受け身になろうとしているのがよくわかる」
 一貴は、莉世の顎を捉えると上へ向かせ、覗き込むように顔を寄せた。
「前もって恐る恐る決めたものは、俺はいらない」
 いらない? わたしの決心したものを……いらないって言うの?
 莉世は、茫然となり空ろな目で一貴見る。
「そうじゃない」
  一貴は、莉世の言葉に出さない思いを感じ取ったかのように、頭を振った。
「無理をするなって言ってるんだ。まだ、お前の気持ちが追いつかないなら、無理をして俺に与えて欲しくない」
「でも、」
 口を開いた瞬間、言葉を遮るように一貴の唇が斜めに覆いかぶさった。
 温かく濡れた感触が、一瞬で莉世のココロを和ませる。
 唾液が交じりあった音が響いたのと同時に、莉世は瞼を開けた。
 何故か、一貴の唇が離れただけで、焦燥感が沸き起こってしまったからだ。
 だが、その無意味な感情を脇へ押しやる。
「もちろん、俺の望むことを許そうとしたお前の気持ちは、とっても嬉しい。だが、それは決めるようなものじゃない。お前が、俺に愛されてる最中に差し出されるようになるなら、その時は有り難く受け取ろう」
 一貴の手が素肌の腰に触れると、ギュッと抱かれた。
「俺は、今のお前で満足している」
「本当?」
 喉元に問いかける。
「あぁ」
 莉世も同じように一貴の腰に抱きつき、体温を求めた。
 わたしが間違ってたのかな? 一貴が望む事を受け止めたいって思ったけど、それは前もって決める事じゃなく……その時の気持ちで受け止めればいいって事なの?
 そういうものなのかな。そういう方が、男の人って嬉しいの?
 でも、普通初めての行為って……前もって考えるし、どうしようって悩むものなんだけど。
 でも、一貴がそれでいいっていうなら……それでいいんだ。
 わたしが一貴の愛撫を受けて、その延長上でシテ欲しいと思ったら……OKすればいいんだね。
 
 莉世は、身を起こすと一貴を見た。
 一貴はある方向へ視線を向けていたが、温もりが離れた事で、莉世へと視線を向ける。
「そうする」
 一貴は、頬を緩めて微笑んだ。
「あぁ」
 二人はそのままジッと見つめ合った。
 えっと……このまま中断した事を進めるのかな?
 頬を染めて一瞬視線を逸らせるが、一貴に問うように視線を合わす。
 しかし、一貴の口から出たのは違う言葉だった。
「……せっかくの料理が冷めてしまったな。先にやっぱり食べよう。莉世の手作りケーキも食べたいしな」
 一貴は、莉世専用のガウンを取ると、下着の上から羽織らせた。
「温め直してくれるか?」
「…うん」
 莉世は、紐を結びながら立ち上がるとドアへ向かった。
 だが、実は一貴のいつもと違う態度に戸惑いを感じていた。
 いつもの一貴なら、えっちの続きをしようとする筈なのに……どうして? やっぱり誕生日だから、ちゃんと食事をしてからって思ったの?
 ドアを開けて、後ろを振り向いた。
 一貴はまだベッドに腰かけ、夜景が見える窓の方を向いていた。
 声をかけにくかったが、思い切って口を開く。
「…かず、き?」
 すぐに一貴は振り返り、微笑んだ。
「すぐに行く。……俺も上に何か羽織ったらすぐに、な」
 その微笑みに安心感を覚え、莉世はニッコリとしてドアを閉めると、キッチンに向かった。
 
 愛情込めて作った料理を、美味しいと言って食べてもらう為に……

2003/12/10
  

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