※ 前作『ココロの鎖、鍵を求めて』の続編
   らぶらぶえっち・あまあまストーリーに突入!

『ココロ、甘い休息』【4】

 一貴の腕の中で、莉世は満ち足りたように目を覚ました。
 一貴はまだ眠ってる。
 恋人同士になって、初めて見る一貴の寝顔だった。
 
 一貴って……何でこんなにカッコいいんだろう? もちろん、わたしはその姿に惹かれたわけじゃない。
 一貴が示してくれた……優しさや愛情に惹かれた。
 初めは、優しいお兄さんだった。そのお兄さんは、いつの間にか兄ではなくなり……わたしは、一人の男として見るようになった。
 何故、わたしの恋人は一貴でなければいけないのか、全くわからない。
 だけど、はっきり言える事がある……一貴は、わたしを幸せにもするし、傷つける事も出来る。
 ……わたしの全ては、一貴の一挙一動で決まってしまうのだから。
 独占欲からか、一貴の腕はしっかり莉世の腰に巻きつき、足は絡ませるように乗ってる。
 昨夜は、何度も愛し合った。
 それは、もうクタクタになるほど……
 その行為を思い出すと、莉世は顔を赤らめた。
 朝から何思い出してるのよ! ……だけど、本当に凄かった。
 思い出すだけで、躰の芯に火が点く。
 ダメ、ダメ…振り払わなきゃ!
 意識を違う方向へ持っていこうと、一貴の顔を見た。
 不精髭が、顎の辺りにチクチクとある。
 こんな一貴の姿も初めて……。
 そっかぁ、だから皆彼氏と旅行行きたがるのかも知れない。普段見る事の出来ない彼氏の寝顔を、こうやって見る事が出来るから……。
 思わず顔がニヤけてしまう。
 ……初めてだ〜、お泊り。この幸せを感じたら……いくらパパに反対されても、一貴と旅行に行きたくなってしまう。もちろん旅行だけじゃなくて、一貴のマンションに泊まるだけでもいいんだけど。
 もちろん、えっちとかは関係なく……ただ一貴の側にいて、一緒に眠って……こうしてこっそり寝顔を見る幸せも、好き。
 わたし、どんどん一貴に溺れていくみたい……。
 一貴ったら、いったいどこまでわたしを溺れさせればいいんだろう?
 
 莉世は、思わず一貴の髭に手を伸ばした。
 チクッとするのかと思えば、意外と柔らかい。
 いつも会う時は、ちゃんと剃ってるので、この感触を味わう事は出来なかった。
 これもまた、お泊りが成せる技かと思うと、嬉しくて仕方がない。
 もう一度触れようとした時、ウエストにあった一貴の手に力が入った。
「きゃっ!」
 一貴は、莉世を抱きしめて上に乗せる。
「……この〜悪戯娘が」
 眠そうに瞬きしながら言うその言葉に、莉世はクスクス笑みを溢した。
「だって、目が覚めたんだもの。一貴は起きないし……」
「俺が、昨夜どれだけハードだったと思うんだ? ……何回お前を抱いたのか、それすら覚えてもいない……」
 昨夜の行為を思い出し、莉世は頬を染めた。
「だって、一貴が………あっ!」
 躰を少し動かした瞬間、大腿に一貴の硬くなったモノが触れたからだ。
 驚愕を隠せない莉世に、今度は一貴が笑う番だった。
「男はな、朝でもこういう現象がたびたび起こるんだよ。しかも、こうして裸の莉世と抱き合ってるとなったら……尚更な」
 莉世の喉がピクッと引きつった。
「……だが、今は抱かない。吐き出す為だけに、莉世を抱きたくないからな」
 莉世のうなじに手を伸ばし、素早く引き寄せて朝のキスをすると、起き上がった。
「さぁ、朝風呂だ」
 裸体のまま莉世を引っ張ると、露天風呂に向かった。
 昨夜湯を抜いたお風呂は、既に新しい湯が張られていた。
 
 
「莉世、俺は今日東京に戻らなければならない。会議やら何やらで立て込んでるからな」
 部屋で朝食を取りながら、一貴が言った。
「お前はどうする? 一緒に戻るか?」
 どうしよう。彰子は、まだ帰りたくないに違いない。それに、久木さんとせっかく仲直りしたんだから、二人きりでいたいと思うし。
「ねぇ、もしこっちに残るとしたら……康くんのところに泊めてもらっても、」
「駄目だ! ……いくらあいつが俺の弟だといっても、所詮男なんだからな」
 鋭く睨み付ける一貴に、この案は却下されてしまった。
 莉世は、 一人でビジネスホテルに泊まる覚悟は出来ていたが、こうして一貴との一夜を過ごした後では、一人きりの夜は絶対寂しくなるという事がわかっていた。
 とりあえず、彰子に聞くことにしよう。
 チラリと視線を上げた。
「……彰子に聞いていい?」
「あぁ」
 携帯……一貴の想いが込められた携帯を握り締めた。
『……はい?』
「あっ、彰子? わたし」
『り、莉世?!』
 携帯の向こうから、何やら音がする。
 しかし、莉世は気にしなかった。
「あのね、一貴が今日東京に戻るんだって。それでどうしようかと思って……」
 一貴に視線を向けると、優雅にお茶を飲んでる。
 もしかしたら……わたしをこっちへ残していく気がないんじゃ?
『ふん! センセなんか、一人で帰ってもらいなよ。あたしと旅行満喫しよう。……寛も、いろいろ連れてってくれるっていうし』
 や、やっぱり……カップルの間に割り込むのって、悪いよ。
 ……よし、決めた!
「彰子、わたし先に帰っていい?」
 目の端に、一貴の口角が上がるのが見てとれた。
 あれって、絶対ほくそ笑んでるんだ……一貴の為に帰るんじゃないのに。
『何で?! せっかく一緒に来たのに』
「……彰子と久木さんに、楽しんで欲しいしから」
『莉世と一緒でも楽しいって! ……まさか、センセがダダこねてるとか?』
「まさか」
 と、言いながら見てみると、何故かブスッとしてるように見える。
 あぁわかった、彰子の大きな声で全部聞こえてるんだ。
『じゃ、何で? 一緒に遊ぼうよ! センセなんか、一人で帰しちゃえ〜』
 面白そうに言う彰子の声が、響いてくる。
「あっ!」
 突然隣に来た一貴が、携帯を奪い取ったのだ。
「おい、三崎。まだ終業式が終わっていないって事を、頭に入れておくんだな」
『あぁずるい〜! センセが脅迫なんてするんだ!』
 彰子の声が、本当によく聞こえた。
 思わず笑ってしまい、一貴にギロッと睨まれてしまう。
「莉世は、東京へ連れて帰るからな。お前一人で戻って来い」
 突然、彰子の声が全く聞こえなくなった。
 携帯に顔を寄せると、一貴がおもむろに躰を離す。
「……わかった。じゃ……お前もその坊やと楽しんで帰って来い」
 一貴が笑いながら携帯を切ると、莉世の手に渡した。
「ねぇ、最後何て言ってたの?」
「……気を付けて帰れだと」
 何だか、その妙な間……気になるなぁ。
 訝しげに見ていると、一貴は元の席に座った。
「ほらっ、早く支度しろ。帰るぞ……東京へ」
 残念に思いながらも、莉世は帰る支度をした。
 
 
 レンタカーに乗ると、高速に乗って一路京都駅へ向かった。
「あぁ〜あ、もっと関西を満喫したかったなぁ。行ったのは、大阪城だけだよ?」
「ふくれっ面をしてると、可愛くなくなるぞ?」
 莉世は、唇を尖らせた。
 それって……そうなったら、わたしなんか捨てるっていう意味なの?
 莉世は、躰ごと一貴に向き直った。
「いいよ! そうなったら、そんなわたしでもいいって言う人と付き合うから」
「その前に、俺がお前を手放すとは思えないけどな。……言っとくが、浮気は絶対許さないぞ。それに二股なんかしてみろ……俺だけで十分だと言うぐらい、ベッドに縛りつけてやるからな」
 ひどい言葉を投げつけられてるのに、莉世は嬉しいそうに微笑んだ。
「大丈夫、一貴の側から離れないから」
 うん、絶対離れない。
 ……こんなに、こ〜んなに一貴を愛してるんだからね。
 莉世は、手を伸ばしてきた一貴の手に指を絡めると、きつく握った。
 やっと……やっと一貴の元へ帰ってこれた。
 あの悩みが、嘘みたい。でも、あの悩みがあったからこそ……一貴への愛が一層深まったような気がする。
 そして、わたしはまた一つ成長出来た。
 今回は、いろんな人に感謝しなくちゃね。 ……ありがとう、一貴。わたしを受け止めてくれて……。
 これから、楽しい夏休みが始まる。 いったいどんな事が待ち受けてるだろう?
 一貴を盗み見すると、精悍な横顔にうっとりしそうになった。
 うん、いっぱい思い出を作ろう!
 この2ヶ月の埋め合わせをするように、精一杯一貴に尽くそう!
 
莉世は正面を向き、 東京でのいろんな出来事に思いを寄せながら、ゆっくり瞼を閉じた。口元には微笑みを浮かべて……

2003/08/20
  

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