※ 何故、いきなり莉世が京都……そして○○に??
詳細は、《Ring of〜》シリーズ、『続・Ring of 〜真実の想い〜』を参照vv

『ココロの鎖、鍵を求めて』【4】

 康くんが来るまであと10分、かぁ。
 
 莉世は、頭を抱えたくなっていた。
 化粧室で涙を洗い、すっきりして再び同じソファに落ち着くと、何故康貴が日曜日に会社にいるのか、思い出したからだ。
 日曜出勤するほど大切な……仕事。
 康くん、どうするの? わたしに付き合っていいの? だけど、ダメならダメって言う性格も知ってる。そして、わたしの為なら優先順位を下げてくれるのも知ってる。あぁ〜いったいどっちなんだろう!
 本当にいいの? ……わたしの為に無理してない?
 莉世は、康貴の仕事の邪魔をしたのではないかと、心配でならなかった。
 
 
 莉世の心配を余所に、康貴が現れた。
「さてと、とりあえず出ようか」
 朗らかに生き生きと微笑む康貴の腕を、莉世は掴んだ。
「待って! ……仕事、本当にいいの? 忙しいなら、わたし」
「大丈夫さ。俺一人の力で動いてるわけでもないしな」
 莉世は、探るように康貴の顔を見た。
 しかし、そこには焦りとか……苛立ちは全く見られない。
「何も心配するな、大丈夫だから。……それより、その鞄はロッカーにでも入れとくとするか」
 康貴は、鞄を手に取ると、入り口付近に置いてあるロッカー室へと消えた。
 莉世は肩の力を抜き、息を吐き出した。
 康くんには迷惑だったかも知れないけれど、わたし……来て良かったよ。
 あんな風に言ってもらえて、少しわかったような気がする……恋人同士の本当の関係ってどういうものかが。
 康くんに言ってもらった言葉、絶対忘れないよ。
 一貴に会ったら、ちゃんと聞くから……ちゃんと修正出来るように頑張るから……。
 
 
「本当に名前の通り……ビジネスパークなんだね」
「そうだな、だが綺麗だろ?」
 莉世は、康貴と並んで歩きながらビルを眺める。
 11時を過ぎてる事もあり、二人は混み合う前に食事をしようという事になったからだ。
 康貴が促すビル内に入ると、雰囲気のいいレストランがあった。
「本当なら、美味しい店に連れて行きたいんだが、」
「だけど、ここも美味しいんでしょう?」
 にっこり微笑むと、康貴が肩の力を抜いたように、ホッとしたのがわかった。
 莉世は康貴のエスコートを受けて、白亜の館を思わせるスペイン料理のお店に入った。
 スペイン出身のオーナーと相談しながら料理を決め、やっと二人になる。
「さて、その友達は今どこにいるんだ?」
「京都だよ。多分…仲直りしてると思う。だって、彼とっても嬉しそうだったもの」
「……なら、莉世も兄貴と仲直りしないとな」
「別に、ケンカしてるわけじゃない」
 一瞬で、莉世は顔を曇らせた。
 そう、特にケンカしてるわけじゃない……ただ、ギクシャクしてるだけ。
 そんな莉世を見て、康貴は眉間を寄せた。
「……食事のあと、城公園にでも行くか?」
 またしてもその名を聞き、莉世は頭を傾げた。
「気になってたんだけど、その【じょうこうえん】って何? 有名な公園なの?」
 一瞬莉世が何を言ってるのかわからないという表情をしていた康貴だったが、急に肩を揺らして笑いだした。
「ごめん、ごめん。……【じょうこうえん】って、ココの隣にある【大阪城】周辺の事さ。どうせ、あに………いや、友達と大阪を探索しようと思っても、行く場所はキタかミナミに密集してると思うし。どうだ、行ってみるか?」
「うん、行きたい!」
 ちょうどその時、前菜が運ばれてきたので話を中断し、美味しいシーフードに舌鼓をうった。
 
 
 お腹いっぱいになった為、大阪城に行くのは食後のいい運動になった。
 天守閣まで登り、たくさんいる観光客に紛れながら、莉世は360度見渡せる光景に目を輝かせた。
「康くん、やっぱり緑が多いっていいね!」
「ははっ、それは一応公園だからだよ」
 うん、わかってる。
 だけど、こうして高い場所から、綺麗な緑の公演と小さくなった建物や人を見ると……わたしの悩みなんて、ほんの些細な事に思える。一貴に直接聞く事が出来なかったなんて、本当にバカみたい。康くんが言うように、素直に聞けば良かったのよ……、悩むならその答えを聞いてからで良かったのに。
 わたし……、まだまだ子供だぁ。見かけだけ大人になっても仕方ないんだね……ココロも成長しないと。
 莉世は、隣に佇む康貴を見上げて、にっこり微笑んだ。
 
 時期は過ぎてしまったけど、この公園は梅・桜が満開になると、本当に綺麗なんだろうな〜。
 植樹された木を見ながら、周辺を眺める。
「ここは、夜桜には絶景だよ。俺たち……職場の花見は大抵ここに来るんだ」
 莉世は、頷きながらふと思った。
「そういえば……康くんは、どうして大阪にいるの?」
 康貴は一瞬肩を竦めた。
「莉世なら俺の性格を知ってると思うけど、優貴は兄貴を崇拝し過ぎてるだろ? あっ、もちろん俺も兄貴を尊敬はしてるけど……優貴程ではない。俺は、一つの事に打ち込むのが好きなんだ。まぁ〜機械いじりが好きと言えばそれだけなんだけどな。こっちで有望な人が、事故で長期入院を余儀なくされたんだ。その穴埋めに、俺に白羽の矢が立ったっていうのが理由さ。俺はそれで大阪に来たんだ」
 会社勤めって大変なんだと、莉世は思った。
「……だけど、兄貴も東京へ戻って来いって言ってるし……来年には戻るかもな」
  遠くを見つめる康貴が、突然いなくなるかのように感じて、莉世は慌てて康貴の腕に触れた。
 その接触に、康貴は驚いて莉世を見下ろす。
「どうした?」
「……ぁ、ううん、何でもない」
 そっと手を離すが、康貴の雰囲気が莉世を当惑させたのは事実だった。
 今の……何? いつもの康くんじゃなかった。わたしの知ってる康くんじゃなく、弱々しい感じがした。何か、あるの?
 
「さてと……、そろそろ社へ戻るか」
 康貴が腕時計を見て、そう呟いた。
 そこで初めて、やっぱり仕事の邪魔をしてしまったんだとわかった。
「うん、行こう!」
真剣に頷く莉世を驚いたように見つめ、二人は再び歩き始めた。
「そうだ、莉世の携帯番号教えておいてくれ」
「うん、いいよ」
 莉世は、携帯を取り出した。
「っ莉世、それっ!」
 大声を出され、莉世はビクッとした。
「な、何? あっ、」
 康貴は、素早く莉世の携帯を取り上げた。
「……これ、どうしたんた?」
「一貴がプレゼントしてくれたの」
「……いつ?」
「……わたしが、藍華に編入した日に」
 な、何? この携帯に何かあるの?
 康貴の態度に、莉世は思わず躰が震えた。
 康貴は、足も止め……神妙な顔つきで携帯を見ている。しかし、突然大声で笑いだした。
「康、くん?」
 何が理由で笑ってるのかわからない莉世にとって、康貴の態度は全くわからない。
 どうしちゃったの? 
 いったい何故そんなに笑ってるの? 普通の携帯なのに。
 莉世は眉間を寄せて、ただ茫然と康貴を見てるしかなかった。
「くくっ……、あぁごめん、莉世。あまりにもおかしくて……やっと謎が解けたもんだからさ」
「何の、謎なの?」
「これさ、この携帯だよ」
 ……? その携帯って、普通の携帯なのに。
「ごめん、ごめん。理由を教えてやるよ。時間がないから、歩きながら教えてやる」
 康貴は、莉世の背に手を充てると再び歩き出した。

2003/07/24
  

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