※ 何故、いきなり莉世が京都……そして○○に??
詳細は、《Ring of〜》シリーズ、『続・Ring of 〜真実の想い〜』を参照vv

『ココロの鎖、鍵を求めて』【2】

 日曜だというのに、出勤してる人は多かった。
 何気なくロビーを見渡すと、商談しているのか……書類片手に密に話し込んでいる人たちもいる。
 何故かホッとせずにはいられなかった。
 まだ、カレがいるのか……出勤してるのかもわからないというのに。
  莉世は、この社会という独特な雰囲気に圧倒されながら、受付に向かった。
 
 
 だけど、本当にこれでいいのだろうか?
 やっぱり、わたしは一貴本人から聞くべきなんじゃない? 他人を巻き込むのは良くない……二人だけの問題なんだから。
 でも、わたしは一貴に聞けないでいる、ずっと。……だからわたしの躰がおかしくなってしまった。倒れた時のアレは、まさしく予兆だった。
 それ以降、わたしはだんだん一貴に応えられなくなってしまった。
 好きなのに、愛してるのに……わたしは自分が傷ついてる事で、逆に一貴をも傷つけてしまった。
 どうにかして、絡まった鎖を解きたい!
 なら、根本から解きほどかなければ……。一貴に聞く勇気がないのなら、他の人から聞けばいい。そう、一貴以外の人から……。
 
「すみません」
「はい、お約束ですか?」
 にこやかに受付嬢が接する。
「いえ、約束はしていないんですけど、こちらにお勤めの方と会いたいんです。休日出勤しているのかどうかもわからないんですが……」
「ご親戚の方ですか?」
「いいえ」
 莉世は頭を振った。
「部署などはご存じですか?」
 部署?! ……駄目だ、全くわからない。
「いいえ、わからないんです。あの、水嶋康貴さんという方なんですけど、」
 と、そこまで言うと、受付けの顔が微妙に変化した。
 いい方にではなく、悪い方へ……
「申し訳ありません、水嶋にどのようなご用件でしょうか?」
 ご用件? ……そんなの、誰にでも言えるような事ではない。
「それは……ただ話しがあって」
「水嶋は本日出社しておりますが、席を外せるかどうか……」
「そこをなんとか! きっと、康……いいえ、水嶋さんは、わたしが来たと知ってくれれば、必ず会ってくれると思うんです」
 受付嬢は、さらに訝しげに莉世を見回した。
「……何か、紹介状とかはお持ちですか?」
 紹介状? そんなの持ってるわけないよ。……あっ、コレ使えないだろうか?
 莉世は、先程入れておいた名刺を取り出した。
「コレ」
 その名刺を受け取った受付嬢は、目を大きく開けて「すぐに連絡してみます」と言いい、電話を取り上げる。
 良かった〜、パパの名刺が役に立つなんて。パパ感謝!
「お待たせしました。水嶋はすぐに下りて来るそうです」
「あっ、ありがとうございます」
 返された名刺を、再び元の場所へ入れた。
 
  何処で待っておこうか……と、周囲を見渡してると、エレベーターから一人の男性が走って来た。
「莉世!」
 嬉しそうに笑っている康貴を見た莉世は、一瞬で表情を緩めた。
「康くん!」
 康貴は莉世を思い切り抱きしめるなり、グルグルと回り出した。
「ちょっと!」
 康貴は笑いながら動きを止めると、莉世を下ろした。
「おかしいな〜。確か莉世は、いつもグルグルやって……っておねだりしてた筈だが?」
「いつの話しをしてるのよ!」
 莉世は顔を赤らめて言い返し、周囲にいる人々から注目を浴びてるのにも気付いた。
「もう、やだ〜」
 康貴は、ただニコニコして莉世を見つめていた。
「っで、なんでおじさんの名前をわざわざ受付で言ったんだ? 莉世だと知っても、俺はすぐに飛んできたぞ?」
 二人は、ロビーの一角にあるソファに座っていた。
「だって、康くん……抜けられないかもって言われて。だからパパの名刺が役に立つかなと思って、出してみたの」
「確かに、効き目があったな……」
 康貴はチラリと受付を見たが、すぐに視線を莉世に戻した。
「兄貴と一緒に来たのか?」
 そう聞かれ、莉世は顔を強ばらせた。
「ううん」
 その曇った表情を見た康貴も、つられて目を細めた。
「……兄貴は、莉世が大阪に来てる事は、知ってるのか?」
 莉世は、再び頭を振った。
「友達が、彼氏と仲直りするのについてきたの……」
 莉世は、康貴の顔を真正面から見つめ返した。
「……わたし、康くんに聞きたい事があって、いるかどうかもわからないのに、ここまで来たの」
 莉世の目には、決心が浮かんでいた。
「……ちょっと待ってくれ、何か飲み物を頼んでくる」
 康貴は立ち上がると、受付へ行った。
 受話器を取り上げるのを見て、莉世はため息をついた。
 康くん、変な顔をしてた。
 わたしが一貴に何も言ってないって知って、一瞬だけ顔を顰めた。
 おかしいと思ったんだろうか? ……おかしいと思ったに違いない、だってわたしがどれほど一貴を愛してるのか、康くんは知ってるんだから。
 なのに、何故わたしが大阪にいるのを……一貴が知らないのか、絶対不思議に思ってるに違いない。
 
 ……康くん、遅いなぁ〜。
 莉世は、戻ってくるのが遅い康貴を探すように、受付を見る。途端、受付嬢と視線がばっちり合った。
 それと同時に、康貴が受付の受話器を置き、莉世に向かって歩き始めた。
 康貴が歩く姿をずっと見ていた。
 真正面に座るまで、ずっと……
「コーヒーでいいよな?」
 莉世は頷いた。
 康貴がタバコを取り出し火をつけようとして、莉世を窺う。
「タバコ……駄目だったんだよな、ごめん」
「いいよ、吸っても。これだけ広かったら、すぐに匂いなんてなくなるしね」
 莉世は肩を竦めた。しかし、康貴はタバコをテーブルに置いた。
「それで、俺に何の用があったんだ?」
 莉世は一瞬視線を手元に落とした。
 何を躊躇してるの? 自分で決めたんでしょう? 一貴を傷つけたくないんでしょう? 応えたいんでしょう? 
 ……鎖を解きたいなら、一歩踏み出さなくちゃ。
 莉世は、視線を上げ……康貴の目を見つめ返した。
 
「康くん……、あの日……いったい何があったの?」

2003/07/19
  

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