開設5周年記念・特別作品(2013年再掲載)

『Te amo 〜愛してる〜』【16】

『エン、リケ? どうしてここに?』
 ここにいるはずのないエンリケを見て、杏那の口の中がカラカラになる。何を言えばいいのかわからないほど、杏那の頭の回転は鈍くなる。
 ただ、すんなり英語が口から出てきたから、それほど混乱はしていないのかも知れないが……
『言っただろ? 杏那の時間は俺の為に空けておいてくれと』
 エンリケは、普段と変わらぬ態度で杏那の方へ近付いてくる。
 
 もしかして、裸だと気付いていない? 興奮しているとわかってる!?
 
 視界に入る、彼の怒張したものがこちらに迫ってくる。
 杏那は取り繕うのができないぐらい目を大きく見張り、驚愕の表情を浮かべた。
 外国人男性のものは大きいと、友達からよく聞いていた。
 自分で体験したわけではなく、洋物のエッチなビデオを見させられたらしい。
 でも、日本人とあまり体格が変わらないのであれば、そんなことはないだろうと思っていた。
 エンリケの誇らしげに屹立している、彼自身をこの目で見るまでは……
 杏那が男性を知っているのは、ロストバージンの相手と未遂で終わった富島その二人。
 その彼らと比較するなんてどうかと思うが、エンリケのものはとても太くて大きくて、長い。歩くたびにしなるそれは、想像よりも硬くなっているに違いない。
 目を逸らさなければと言い聞かせて、杏那はついと顔を背けた。
『エン、リケ……は、イレーネと一緒だったんじゃ?』
 声がかすれてしまう。これでは、意識していると言っているようなものだ。
 それでも、感情を殺せない。
『イレーネの事は気にしなくていいと言ったのに』
 真上からエンリケの声が聞こえた途端、躯が緊張でブルッと震える。
 彼は、いったい何を考えているのだろう。
 じっとしていると、エンリケが湯船に入ってきた。
 杏那を絡め取るように、その腕に抱き寄せられる。すると、彼のものが杏那の肌にあたった。
「あっ……」
 甘い痺れが、躯の芯を侵食し始めた。
 日本では、かけ湯をしてから入らないと――と口に出せないほど、エンリケの発散する全ての熱に圧倒されてしまう。
『最後に杏那に触れてから……長い時間が経ってしまった。この時をどれだけ待ち望んでいたか』
 エンリケのつけたキスマークを、ひとつひとつ指で辿る。
 あの日の出来事を、思い出させようとしているみたいだったが、そんな風にされなくても杏那自身その時のことは忘れてはいない。
 むしろ、それが原因で躯が疼く始末。
 だからといって、このまま先に進んでいいというものではない。
『エンリケ、待って。……誰かが入ってくるかも知れない』
『誰も入っては来ないよ。……貸し切りにしたから』
「えっ!?」
 貸し切り? でも、どうやって……?
 杏那の驚いた表情を見たエンリケは、楽しそうに口元を緩める。そして、そっと杏那に顔を寄せ、秘密をひとつ暴露した。
『フェルナンドは、大学で日本文学も学んでいた。流暢ではないが、会話は出できるんだよ』
「まぁ!」
 日本語を話せる? つまり、杏那が時折口にしていた日本語を理解していた!?
 それがわかっても、自分が何を話したのかさえ覚えていない。
 深く考えるのはやめよう……
 小さく息をついた時、エンリケのクスッという声が聞こえて、杏那は彼に意識を向けた。
『杏那が貸し切りの件でイレーネに言っていたのを思い出して、フェルナンドに頼んだんだ』
 ミスター・サンチェスが?
 そこで何故彼が、離れから遠いこの温泉を勧めたのかわかった。
 エンリケと杏那をふたりきりにさせたかったのだ。
『ミスター・サンチェスったら!』
『だが、嬉しいだろう?』
 何かを伝えるような流し目を向けられて、杏那はぷいとそっぽを向いて逃げる。
 確かに、彼の言うとおりふたりきりになれて嬉しい。
 だが正直、この展開は想像していなかった。エンリケと婚約するなんて……
 恥ずかしさからなのか、それとも温泉で躯が温まったせいなのか、頬が上気して熱い。
 杏那はずっと水面を見ていたが、エンリケがそれ以上何も話さないのが気になり、そーっと彼を窺う。
 その時、杏那の目に彼の濡れたたくましい胸板にドキッとする。慌てて目を逸らそうとするが、そこで光るものに目が釘付けになる。
 
 それって、まさか……!?
 
『エンリケ、コレ……』
 どちらも裸とかそういうことも忘れて、杏那は震える手でエンリケに手を伸ばした。そして、の胸元にあるネックレスに触れた。
 それに触れた瞬間、静電気のようなものがビリッと流れ、お互い間近で目を合わせる。
『見覚えが、あるか?』
 エンリケの声がかすれる。
『……ええ、あるわ』
 見覚えがあるなんてものじゃない。
 これは杏那の携帯ストラップに付いている、割れたオニキスの片割れだ。
 携帯ストラップ――それは、エンリケからブレスレットとしてプレゼントしされたもの。
 そのオニキスは、もともとひとつの石だった。
 スペインでの別れの時。エンリケは杏那にもう一度巡り会えると言っていたが、それはこの石が再びひとつになることを指していたのだ。
 だから、エンリケは杏那と会うなり、ブレスレットを持っているのかと訊いてきた。
 
 俺たちは、もう一度出会う運命だっただろ? ――とでも言うように。
 
『それを聞けただけで……俺はもう満足だ』
 エンリケは両腕を広げるなり、杏那を強く抱きしめた。
 乳房が潰れるほどその身に引き寄せられる。そして、彼から飢えたようなキスをされた。
 これほど想いを込められたキスは初めてだ。以前と何が違うのか、それを表現するのは難しい。
 でも、エンリケの中で鬱積していた感情が爆発したような、その激しい情熱が杏那を包み込もうとしている。
「……っ、ん……ぅ」
「アンナ……!」
 エンリケが切なげに杏那の名を呼ぶ。それが、杏那の思考をどんどん奪っていく。
 だが、杏那のお腹をついてくる硬いエンリケ自身に気付き、慌てて彼のキスから逃れて身を日いいた。
『本当に、大きく成長した。俺が知っているのは、真っ平らな胸をした少女だったのに』
 エンリケの手が、露になった杏那の乳房を包み込む。彼は柔らかさを堪能するように揉みしだき、そして、親指の腹で乳首を擦る。
「あっ……んふぅ……」
 喘ぎが吐息となって、口から零れる。
 自分でもわかる相手を誘うような喘ぎに、杏那は必死にそれを殺し、平然とした声を出すよう心が心掛けながら口を開いた。
『それは、子供のころの、話でしょ。今は……もう、大人よ』
『そう、俺たちはあれから成長して大人になった。だから……お互い情熱の向くまま、欲望を炎に変えられる。何をしても、誰にも咎められない。そうだろ?』
 エンリケの瞳が鋭く光る。
 お前が欲しい、杏那とひとつになりたい――と目で訴えてくるエンリケ。
 こんな目をしたエンリケに、どうしてノーと言えるだろうか。
 杏那だって、エンリケが好きでたまらない。今この瞬間、勇気を出さなくていつ出すのだろうか。
 
 ひとつぐらい、エンリケとの思い出を作りたい!
 
 杏那は、エンリケが欲しいという想いを瞳に込めながら頷いた。
「アンナ!」
 切なげに杏那の名を口にするなり、杏那の硬くなった乳首に舌を這わせ始めた。
『あぁぁぁ、砂糖菓子のようになんて甘いんだろう』
「……っぁ!」
 ちゅぷちゅぷと音を立てて、エンリケは胸への愛撫を始めた。
 舌を硬くさせて赤く熟れたそこをついたと思ったら、舌全体を柔らかくさせて包み込むよう舐める。
 送られる刺激と、杏那にむしゃぶりつくエンリケの色っぽい顔つきが相まって、杏那の躯が自然と震えた。そのたびに湯が揺れ、敏感になってきた肌を撫でられる。
 彼の愛撫だけではない心地いい刺激に、杏那は思わず両手をエンリケの肩に置いた。自然と胸をつきだすようにのけ反って、その快感に打ち震える。
 エンリケの手は、どこを愛撫すればいいのかわかっているらしく、杏那の肌にある快感のツボを探し当てては、杏那から喘ぎ声を出させた。
「っぁん、……っはぅ、っんん、ぁ……エンリケ……エンリケッ……!」
 とうとう、杏那が望んでいた場所に、エンリケの手が触れた。
 湯で漂う茂みを掻き分け、秘所の割れ目に指を上下に撫でたのだ。
「あぁぁっ!」
 エンリケに腰を抱かれているのに思わず引いて、突然襲ってきた痛いほどの快感から逃れる。
『逃げるなよ』
『……っ、わ、わかってる……でも』
『俺から逃げることは許さない』
 なんという物言いだろう!
 杏那は、荒い息を何度も繰り返しながら、エンリケの瞳を覗き込んだ。
 人に命令する立場だから、偉そうな目つきをされていると思ったのに、それは違った。
 その瞳には、苦悶の痛みが宿っていた。杏那から見てもとても苦しそうだった。
 まるで、恋い慕う女性に逃げられるのを恐れるかのように……
 そんなエンリケを見て、杏那は愛しくて堪らなくなった。
 ギュッと抱き締めてわたしの全てをあげる≠ニ囁いて、キスの雨を降らせたかった。
 だが、そうはせず、杏那はエンリケの胸板に、自分の胸が触れるか触れないかの位置まで身を倒す。そして、そのままかすかに彼の躯に触れるような愛撫を試みた。
 躯を動かせば、彼自身を下腹部や秘部で愛撫する形となる。
 それこそ彼へのメッセージだった。
 この一瞬だけど、わたしはあなたのもの――想いを込めてエンリケの瞳を見つめ、ゆっくり躯を揺らし続ける。
 すると、突然エンリケの口が開き、呻き声を上げた。
 
「Mi amor .....!(俺の愛しい人!)」
 
 エンリケの指が、秘部に侵入してきた。
「……っぁん、っはぁ」
 杏那は思い切りのけ反った。
 露になった乳首を、エンリケがすかさず口に含む。
 指の挿入を繰り返しては、膣内を掻き回すように動かす。そして、いくら吸っても物足りないというように乳房に舌を這わせてくる。
 逃げない、逃げたくない……この時間を大切にしたい!
 エンリケの口と手で呼び起こされる快感の波に、杏那は身を投じた。
 心の鎖を解き放った途端、彼の愛撫に自然と腰が動き出した。彼の愛撫に淫らに喘いでは、もっともっとと強要する。
 合わせて、膣壁がギュッギュッと締まる。
 それがエンリケにも伝わったのか、挿入していた指をさらに一本増やしてきた。
 急な圧迫に杏那は眉間に皺を寄せていたが、さらに高まる快感に大声を上げていた。
「……ぁっ! ダメ……エンリケ! ……はぁぅ、っんんん、っぁ……くぅ」
『凄い滑りがいい……感じてるんだね?』
 エンリケも興奮の吐息を漏らし、目の前で揺れる乳房に何度もキスを落としてきた。
『……もう一本、挿れるよ』
 杏那がハッと息を吸った途端、裂けるような痛みが躯を襲った。
「あぁぁ、やめて!」
 すごい圧迫感で息ができない。
 だが、エンリケがぷっくりと充血している蕾を擦ると、杏那の躯は一瞬で跳ね上がった。
 同時に、エンリケが挿入した指を全て受け入れていた。
 膣内で蠢く指の感覚に、杏那は為す術もなかった。
 逃げることも、立ち向かうこともできない。彼が送り込んでくる快感の波を受けるだけで、精一杯だったのだ。
『……ヤ、ダメ……そんなに、動かさないで!』
 そう言っても、言葉とは裏腹に、だんだん膣内の収縮が早くなる。
「ダメ……もぅ、……耐えられ、ない……っぁぁ、はぁ……っぁ、っんん、エンリケッ」
 杏那はエンリケにしっかり抱きつき、何度も何度も襲いかかってくる快感に耐えようとするが、それもいつまで持つかわからない。
 どうしよう。ああ、助けて!
『杏那……見せてくれ。俺の手で達する姿を、まず見せてくれ』
 杏那は頭を振って、恐ろしいほど襲ってくる強烈な快感から逃げ出そうとする。
 だがそれを遮るように、エンリケが杏那の乳首をギュッと抓った。
 その瞬間、杏那の箍は外れ、とてつもない勢いで天高く舞い上がった。
「ああああ……っ!」
 杏那の口から、かすれた声が迸る。それに合わせて、膣内が勢いよく収縮し、エンリケの指を強く締め上げた。
 快い絶頂に達した瞬間だった。
 
 ああ、力が抜ける……
 
 意識を飛ばしそうになりながら、杏那はエンリケにぐったりと躯をもたれさせた。
 彼は杏那の膣から指を引き抜くと、愛おしいそうに抱きしめてくれた。
 このままじっと彼の両腕に包まれていたい。
 エンリケの肩に熱い息を何度も零す杏那を、エンリケが横抱きに抱き上げた。
 そして、滝のように流れる岩の方へ歩き出す。
 杏那がそっとエンリケを見ると、熱い眼差しを向ける彼の目と合う。
 
 杏那は、俺のものだ! ――そう告げるような強い想いに、杏那の胸は震え出す。
 
 彼への愛が、今以上に膨れ上がるのを感じながら、心の中で、うん、うん……と頷いた。
 お互いへの想いや欲望が、最高潮にまで達しようとしているのが肌から伝わってきていた。

2008/04/05
2013/10/19
  

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